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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第二十二章 三度目の地下遺跡

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306 体の痛み、心の痛み

「いったあい……」


 衝撃を受けた反動で尻もちをついてしまったボクは、その場で何かに激突したおでこを撫でさすっていた。

 ううう……。まさか映像で見えない所に壁が作られているだなんて想定外もいいところだ。

 ……はいはい。ちゃんと分かっておりますよ。今さら何を言ったところで言い訳にしかならないってことくらいはね!


「リュカリュカ!?」

「怪我はしていませんか!?」


 内心で不貞腐れ気味になっていたところにみんなが慌てて駆け寄ってくる。


「あ、平気へいき。怪我らしい怪我もしていないから」

「ですが、離れていたわたくしたちにさえ聞こえるような大きな音でしたわよ?」


 おうっふ。そんなに大きな音だったんだ……。

 痛みよりも情けないところを見られたという羞恥の方が辛いかもしれないです。


「と、とにかく!放っておけば治る程度のものだから心配しないで」


 近寄ってきたうちの子たちの頭を撫でながら、回復魔法を使おうとしていたネイトを押し止める。

 強がりに見えたのか仲間たちは困った顔をしていたけれど、HPの数値上では一のダメージしかなかったのだから当然の対応だと思う。

 MPがもったいないですから!


「それで、何があったんや?」

「ああ、うん。この映像の下に壁が隠されていたみたい」


 エルの質問に乗っかるようにして、話題の転換を試みる。

 軽く「よっ!」と掛け声を出しながら起き上がると、ミルファやネイトが眉をひそめているのが見て取れた。うーん……。こちらとしては安心させる意味合いもあってやったことだったのだけど、どうやらかえって心配させてしまったようだ。

 まあ、頭を強打したのに急に動き出したからそれも当然かな。この辺りがプレイヤーとNPCとの意識の違いというものなのかもしれないね。


 本当に大丈夫なのだと伝わるように、改めて彼女らに向けてニッコリ笑いかけてあげると、揃って大きなため息を吐かれてしまった。

 ……あれ?納得したというよりは諦められた?


 なんとも釈然としない思いを抱えながら、再び立体映像の中に手を沈めていく。

 すると、手首から肘までの間くらいのところでひんやりと冷たく固い物へと触れることになったのだった。


「あった。これだね」


 ペタペタとあちこちに手を伸ばしながら、掌に感じる感触だけでその構造を調べていく。

 どうやらこの地下遺跡の壁に使用されているのと同じような質感の石材であるようだ。表面はそれなりに研磨されているみたいだけど、所々に微かなざらつきを感じられるし、石同士を組み合わせた際のわずかな隙間のようなものもあったので、化粧板のようなもので覆われている訳ではなさそうだ。


 湾曲しているようにも感じられたので、恐らくは円柱とかそういった形になっていると思われます。立体映像の男性がゆったりとした衣装を身にまとっていたのは、やはり、それを覆い隠すためだったのだろう。

 それら分かったことや予想したことを包み隠さずみんなに伝える。


「この大男の中に石の壁で囲まれた別の部屋があるというのですか?」

「そうそう」

「そしてその中にこそ石板の中で語られていた浮遊島へと続く転移装置がある、とリュカリュカは考えていますのね?」

「いえす」

「で、その扉だか入口がある場所をウチらにも一緒に探して欲しいちゅうことか」

「大正解!」


 うんうん。みんな理解が早くて助かるよ。幸いなことに立体映像はそれほど大きいものではないので、四人がかりでやれば手探りだけの状態でもそれほど時間を掛けずに探り当てることができるだろう。

 その間は無防備になりがちだけど、エッ君とリーヴは護衛兼周囲の監視役を務めてもらえば何とかなるように思う。


「それではさっそく作業開始!……って、あれ?どしたの?」


 見れば三人共揃って浮かない表情となっております。


「どうしたはこちらの台詞ですわ。リュカリュカはあんな得体の知れないものによく手を触れようと思いますわね……」


 そう言うミルファは、今にも「えんがちょ!」とか「バリア!」とか叫び出しそうな顔になっていた。


「大丈夫だって。石板にも危険なことがあるなんて書かれていなかったんだから」

「そう言って突撃した結果、頭を痛打することになったあなたに言われても説得力の欠片もありませんわね」

「ぐふう……。な、なかなか痛いところを抉ってくるじゃないの」


 まあ、どちらかというと肉体的な痛みよりも羞恥の面での精神的なダメージの方が大きかったのだけど。

 だからこそ今の一言の効果は抜群だった訳でして。


「せやけどリュカリュカが想像した通りの展開になっとるとしたら、暢気にこうやって話し合いをしとる場合やないのも確かや」

「そうですね。死霊というのは執念深いというのが相場ですから、彼らが浮遊島に足を踏み入れて以来百年以上経った今でも未だに転移の在り処を探っているという可能性は高いと思います」


 将来的に神官や司祭を目指していて、そうした方面の知識も有しているネイトに言われると本格的に危険であるような気になってしまう。


「結局こうなってしまいますのね……」


 切迫しつつある状況の中、他に有効な手段を見つけ出すことができなかったボクたちは、手探りで壁の中へと入る方法を探すことになったのだった。


「ほらほら。口を動かしている暇があったら手を動かして」

「言われなくとも、やるべきことはやっていますわよ」


 いつもとは違って、かなりやる気のない様子だけどね。

 しかし世の中というのは不思議なもので、そうしたやる気のない人に限って予想外の大発見をしてしまうものだったりするのだ。

 そして今回のボクたちもまたその御多分にもれることなく、最もやる気のなかったミルファがそれを探り当てることになった。


「あら?これはなにかし、ら!?」


 言い終わるかどうかという段階で、ガコンと大きな音が響いて壁の一部がせり上がって行く。

 ちょうど立体映像の背中側に当たり、上の階へと続く階段からは見えない位置だ。


 そして数秒後、ぽっかりと開いた入口から小部屋を伺い知ることができるようになった。

 そこには死霊の団体様どころか人影一つもなかったが、代わりに床一面どころか壁にまでびっしりと魔法陣らしきものが描かれていた。


「これが……、転移装置?」


 ボクの呟きに対して、誰も正確な答えを持ってはいなかったのだった。


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