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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第二十二章 三度目の地下遺跡

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302/933

302 刻まれた記録 その2

「な、な、な、な……」

「七?」

「違いますわよ!あの空に浮かぶ島へと運ばれるだなんて一体どういうことなのか!?と言いたかったのですわ!」


 うん。まあ、そんなところだろうなとは思っていました。


「遺跡の最奥ということは、ここよりもまだ奥があるということなのでしょうか?」

「完全に調べ切った訳やないからあり得へんとは言わん。でも、階段や扉が隠されとりそうなところなんて見当たらんかったわ」

「あ、それなら一応当てがあるよ」

「そうなん!?いつの間に見つけとったんや……」


 いや、だからまだ見つけてはいないんだってば。


「とにかく今はもっと情報を集めないと」

 そう言ってみんなに石板の続きを読むように促す。今の状態で迂闊に動いて取り返しのつかない事態を引き起こしてしまっては洒落にならない。

 せめて指針になりそうなことが分かるところまでは調べておくべきだろう。


『移動させられた先は空飛ぶ島の縁の方にある建物の中だった。後から分かったことだが、少し高い塔の最上階だったようである。島の外に向いた一面が大きく開かれていて、そこからは雄大な空と、雲の隙間からはるか下に大地だろうと思われる緑や土色が垣間見えていた』


 恐らくは魔法による転移、瞬間移動の類となるのではないかな。移動した先が浮遊島の中でも縁沿いの辺鄙(へんぴ)な場所だったのは、侵入者対策ということではないかと予想されます。

 塔という建物の形もその一環だろう。一カ所にしか出口を作らないことで、いざという時には水際で侵入者を食い止めることを想定していたように思う。

 そうなると外が見えていたという面にもリアルのように透明なガラスやプラスチックのようなものがはめ込まれていた等、そこからは出られないように細工がしてあったのかもしれない。


 後は……、転移してきた人を驚かせるという意味合いも込められていたような気もする。

 ただしこういうサプライズ的な趣向は、粋な歓待と取るか悪趣味と取るか受け手次第で両極端な評価となってしまいやすい。なので、取り入れる際には注意が必要だったりするのだよね。

 まあ、浮遊島の場合はその技術力と威容を見せつけて、転移してきた側の人たちを屈服させようという隠れた狙いがあったのかもしれない。


『外の景色に心を奪われてしまっていた我は、たった一人でいたことに気が付けないでいた。偶然我一人だけが転移させる機能のある場所に立っていたのか、それとも『風卿』の血を引くといった特定の条件があったのか。だが、それを確かめる術はもうない。その理由についてはまた後程述べるが、我自身の手によってその機能を完膚なきまでに叩き潰してしまったからである』


「はあ!?転移なんていう貴重で有用な魔法装置を破壊したやって!?一体この人らに何があったんや?」


 科学技術が発達して乗り物の側と道路等インフラの側の両方が開発と整備されているリアルとは異なり、『OAW』世界ではどちらもまだまだ未発達で未整備だ。

 移動手段と言えばもっぱらその人自身の足で、車に乗ることのできる人の方が少数という有り様だ。

 その車も動力となるのは馬やそれに類する動物もしくは魔物となるので、移動には当然距離に応じて相応な時間が必要となる。

 また、魔物や野盗などの危険も随所に潜んでいて、同一国内であっても町から町へと移動するのは命懸けという場所も決して少なくない。


 こうした社会状況のため、時間と危険というリスクをいっぺんに消し去ってしまえる転移の魔法技術はリアル以上に便利で有用だと言えるのだ。

 『転移門』の技術を『七神教』という世界規模の組織が秘匿して管理運営しているのは、放置してしまえば即座に様々な国や組織との間で争いの種になってしまうという背景があるからなのだった。


 石板にはそんな便利な技術を利用するどころか、それ以前の段階である研究をすることもなく打ち捨ててしまったと書かれていたのだから、エルの驚きはもっともなものだったのです。


「その理由が書かれているところまで読み進まないことには何とも言えなさそうだね」

「……そうやな。とにかく続きや」


『この時は我の仲間や同行者と認定されたのか、しばらくの後には残る者たちも全て同じ部屋へと転移させられてきたのだった。そうして小一時間ばかりその場で議論や考えのすり合わせなどを行い、我らはこの地が空飛ぶ島であるという結論に達したのだった』


 さも予定通りの行動のように書かれているが、実際のところは驚きと混乱で外に出ることなどできなかったのではないかな。


『思えばこの時が絶頂の瞬間であったと思う。なにせ未だかつて誰も成し遂げたことがないほどに大陸統一国家の遺産へと近付くことができていたのだ。このままそれこそ虚像の大男が語っていたように大陸統一国家の後を継ぐことすらできるのではないか。そんなことまで頭をよぎっていたのだった』


 これは仕方のないことだろう。だって石板に刻まれている通り、彼らは世界で初めてと言える偉業を成し遂げつつあったのだ。

 ボクだって同じように世界初の大発見をしたとなれば浮つかずにはいられないと思うもの。


『そんな浮ついた意識のまま、我らは塔を下って行き、いよいよ空飛ぶ島の上に広がる街へと足を踏み出すことにした。そしてそこで大いなる恐怖と絶望に遭遇することになった』


 うーん……。最初に記録と書かれていた割には、随分とまあ臨場感たっぷりの記述だね。

 ここまで大袈裟に煽っておいて大したことじゃなかったら大騒ぎになりそうだ。


『大陸統一国家が存在していたのは遥か昔のことであり、今ではこの街も無人であるだろうという我らの予想は、扉を開いた瞬間に粉砕されることになった。いや、ある意味ではそれは正しかったのだろう。なぜなら、街にあふれかえっていたのはかつて人であった者たちの成れの果て、死霊だったからである』


 うわっしょい!

 さすがにこの展開は思いつきもしなかったですわよ。


 最初は何かを読み間違えてしまっているのではないかと思い、もう一度読み返してようやく本当に石板に書かれていることだと理解できたのだった。


 しかし、その後も大変だった。書かれている内容を把握したことで頭の処理能力を超えてしまったのか身体も思考も硬直してしまったのだ。

 それはみんなも同じだったようで、ゆるゆると顔を上げると、唖然とした表情と見つめ合うことになったり、お互いの顔を見合わせているところに出くわしたりしたのだった。


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