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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第二十一章 不機嫌な日常

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298 おかしな教師たち

「こう言っては何だけど、中学の生徒会も高校の学生会も、活動内容自体に大きな違いはないわ。だから足手まといになりそうだとかそういう心配をしているのであれば、それは杞憂(きゆう)に過ぎないことだと思いますよ」


 悩むそぶりも見せなかったボクたちの反応に焦ったのか、女性教諭がそんなことを言い出す。

 あれ?でもこの先生たちって別に学生会の顧問でも何でもなかったような……。


 平常時は裏方作業が中心でも、行事ごとや突発的に発生した何かしらのイベントなどでは顔役として露出することになる。

 だから優秀な学生――ボクはともかく、雪っちゃんは間違いなく優秀だよ――を確保しておきたいという気持ちも分からないではないけれど、それにしてもちょっと必死な様子が垣間見える気がしたのだ。


「あー……、うちは全体で見ればそれほど学力が高い方ではないだろう。だからなのか、中学での生徒会経験者がほとんどいないんだな」


 疑問に思う気持ちが伝播してしまったのか、男性教諭が複雑そうな顔で答えてくれた。多分そのことに加えて立地条件も関係しているのだと思う。

 前にも言ったけれど、この高校はボクたちが通っていた中学の校区内に存在する。なので必然的にその出身者が多く進学することになっているのだ。学年によって多少は前後するけれど、その数はおよそ半数くらいだと言われている。

 その上、生徒会役員を務めるほどの成績優秀者ともなると、里っちゃんのように県内でも学力上位の進学校へと行ってしまうことが多いのだった。


「そんな訳で毎年学生会の活動が軌道に乗るまで手間取ってしまっていてな……」


 確かに中学の生徒会と似たような業務の内容や形態だとするならば、普段の勉強とは趣が異なっているので初見の人は苦労してしまいそうだよね。

 引き継がせる側の人も大抵は一年程度の経験しかないとなると、分かりやすい教え方をするのは難しいだろう。


 本来ならば顧問の先生を中心に、そうした状況下であっても上手く業務を回すためのノウハウというものを伝授していくべきなのだろう。

 しかしその要となる先生の方にも、校内での任務や担当の変更や別の学校への任地の移動というものがあるために、そうしたやり方さえも作成することができていない、もしくは紛失してしまったのだと思われます。


 ちなみに、さっきのあの人ではないけれど、学生会役員への立候補者自体は毎年それなりにあるのだそうだ。

 その理由も単に目立ちたがりの性格をしているだけというものや内申点の増加を狙ってというものから、純粋に学校生活の不満点を解消していきたいというものまで幅広いとのこと。

 微妙に不純な動機のこともあるが、それでも立候補しただけあって当選した人は今までのところでは誰も彼も真面目かつ積極的に活動に取り組んできたのだそうだ。


「そういう意味では私たちとしては彼のこともそれほど心配はしていなかったのだけれどね……。ただ、強引な勧誘を何度も行ってきたから上に立つ者としての適性が問われてしまうことになるでしょう。特に今回のような私たち教師陣が出張らなくならなければいけないまでの騒ぎとなると、立候補自体はさせても何らかのペナルティを与えるという流れになると思うわ」


 あくまで今日以降の職員会議に(はか)っての結果次第ではあるが、恐らくはそうした展開になるだろうというのが先生方二人の共通の認識だった。


「えーと……。学校側の事情は分かりました。でも正直に言って、それを私たちに聞かされても困るんですが」


 しかもつい先ほどボクたちのスタンスというか、やる気がない事は伝えたばかりなのだ。それをまるっと無視して参加する方へと誘導されてもねえ。

 しかしそんな反応がこれまた想定外だったのか、ガーンという擬音語が聞こえてきそうなほどに驚く先生たち。


「こ、ここまで言っても断られてしまうなんて!?」

「十年前ならこれでコロッと落ちていたというのに……。最近の学生の冷め具合を甘く見ていましたな」


 いきなり座り込んでコソコソやり始めたではありませんか。

 が、それも態度だけで声量などは変わらないまま、むしろこちらに聞かせようとしていたくらいだった。


「どうしましょう。こちらの窮状を(つまび)らかにすることで情に訴えるという作戦は通用しそうにありませんよ?」

「それを言うなら、状況を暴露することによって連帯感や責任感を抱かせるという作戦も失敗しておりますが」


 あの会話にはそんな罠が仕込まれていたんですか……。油断も隙もないとはこのことだね。

 先生たちの裏側に、ターゲットにされていたボクや雪っちゃんだけでなくこの場にいたクラスメイトたちも全員ドン引きですよ。


 だけど、それって別に言わなければ分からないことだったよね。

 それなのにどうしてわざわざ喋ってくれたのだろうか?


「あの、三峰さんに星さん。あの先生たちって演劇部の顧問兼部員なのよね」


 ……ああ、なるほど!わざとらしい動作なのにやけにこなれているように感じたのはそのためだったのか。時折チラチラと横目で伺っていたのは、こちらの反応を観察するためだったと。


「多分、そういうからめ手的な言い方をする人もいるから、気を付けるようにって伝えたかったんだと思う」


 そんなクラスメイトの意見が正解だったのか、座り込んだポーズはそのままで良い笑顔を浮かべて親指を立てる先生たち。

 余談だけど、文化祭などの校内での発表に限り学生と一緒に舞台に立っているので顧問兼部員なのだそうだ。


「期待してくれているというのはありがたいことだと思うんですが、私としては大きな責任を背負ってまでやりたいなんていう情熱もないですし、改革しなくちゃいけないと思い詰めるような不満もありません。だからやっぱり学生会入りの話を受けるつもりはないです」


 改めて自分の気持ちをしっかりと口にする。秘密にしたままでも良かったはずの事情まで伝えてくれて、それを学びの機会としてくれた先生たちに対してそれが礼儀だと思ったからだ。


「確かに優があれだけ動き回れたのは、何の権限も責任もなかったからだったのかもしれないわね」


 里っちゃんがやっていることが失敗するはずがない、と信頼していたからという部分も大きかっただろうけどね。

 まあ、頑丈な地盤としてそれがあったことで、誰かを説得したりするときも何の心配もなく行うことができていたのだと思う。


「そういえば、里香も優がそうやって大丈夫だと思っているなら安心できるとか言っていたことがあったわね」


 あらら。すっかり克服したのだと思っていたけれど、ボクに判断を仰ごうとする里っちゃんの癖は中学時代にも残っていたのね……。


「あの『最強生徒会長』を安心させることができるなんて、やはりとんでもない逸材ですね」

「ですな。できれば確保しておきたいところですが……、無理やりやらせたところでろくな結果にはなりませんし、ここはひとまず様子見で我慢しておくべきではないかと」


 はい、そこの先生二人。わざと聞こえる音量でボクのことを相談しないでください。


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