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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第二十一章 不機嫌な日常

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295 事情説明

 すっかり自分がゲーム的思考になっていることに愕然としてしまったボクだったけど、その間にも事態は止まらずに進行を続けていた。

 男性は相も変わらずギャースカと喚き立て続けていたのだ。後少しで先生たちがやって来るんだから、それまでくらいは静かにしていてもらいたいものだよ。

 なんて他人事のように考えていたのだが、それも次の瞬間にはすっ飛んでしまっていた。


「このっ、ちくしょう!三峰だか何だか知らないが、どいつもこいつもこの僕にたてつくなんて生意気だぞ!」


 は?

 この人今なんて言った?


「あの女もせっかく僕自ら勉強を教えてやろうと誘ってやったのに断りやがって!」


 これの台詞をまとめるならば、どういう経路かは分からないけれどボク以外の三峰性の誰か、恐らくは里っちゃんのことを直接見知っているようだ。

 一瞬、こちらを陽動させるためのブラフかとも考えた――彼女はボク以上に様々な噂があちこちに広がっているのですよ……――けれど、癇癪を爆発させている今の状況では、そんな回りくどいことができる精神状態ではないだろうと結論付けたのだった。


「優、事情が分かったわ」


 横合いからボクの耳に雪っちゃんの声が飛び込んでくる。

 どうやら新たな情報を仕入れてくれたらしい。


「何でもあの男、里香と同じ学習塾の夏期講習に通っていたみたいね。同じくそれに参加していた子やその友達が、里香に言い寄っている姿を何度も目撃していたみたい」


 里っちゃんに言い寄っていたですって!

 ……ほほう、命は要らないようだね。


「で、あんまりしつこいから里香の方がピシャリとお断りしたらしいわ。あくまで常識の範囲内の言い方だったようなのだけど、見ての通りアレでしょう。人前でこっぴどい振り方をされて面子を潰されたと思ったみたいね」


 うわあ……。里っちゃんは誠実な上に基本的に相手のプライドとか面子を重んじてあげる性質だから、他人がいる時にはそれとなく、誤解を与えないようにしなくてはいけない時には人目がない場所を選んでお話をしてあげるようにしていたはずだ。

 そんな彼女が人前ではっきりとお断りするなんて余程のことだよ。きっと相当腹に据えかねてのことだったのだろう。

 しかし、それならば里っちゃんの身が危険なのではないだろうか?


「ああ、そこは安心して。夏期講習自体は短期でもう終わってしまっているし、通学とかでも里香とアレとの間に接点はないそうよ。それに本人から「これ以上何かしてくるようなら即座に警察に通報する」って釘を刺されているみたいだから」


 あー、里っちゃんのお父さんって警察の人や弁護士さんたちに謎の繋がりを持っているみたいだから、彼女が本気になったら躊躇なくそうするだろうね。

 そしてこの人はかなりの自信家で自分大好きなようだから、どんな些細なことであっても汚点を嫌いそうだ。

 警察の厄介になったことがあるだなんてその最たるものだから、効果は抜群だっただろう。


「そっか。それなら一安心だね」

「いや、それが元で面倒事が優の方に降りかかってきたんだから、安心はしていられないんじゃないかしら」


 雪っちゃんが言うには、そんな訳で里っちゃん本人には手が出せなくなったから、その腹いせという面が大きいのではないかとのことだった。


「つまりね、里香の懐刀だと思われていたあなたを勧誘して学生会活動で大きな成果を上げれば、間接的に里香に勝つことができた、となる訳よ」

「随分気の長い作戦だね……。というか私一人いたからって、大きな成果を出せるようなものではないと思うのだけど」


 そもそも学生の代表のような言い方を良くされるが、学生会なんて学校側と学生側の間を取り持つことが役割であり、基本的には裏方なのだ。

 目立つという印象が持たれがちなのは、学校行事等で挨拶をしたりするからというのと、学生会や生徒会の役員たちを物語の中核に据えた創作物の影響だろうと思う。リアルの生徒会では学校側の許可なしでできることなんてほとんどないのですよ。

 とりあえず、会長権限で即座に校則が改定されるようなことは、限りなく絶対に近い度合いでありませんのであしからず。


「それくらい優の活躍の度合いが大きかったということよ」

「そうかなあ……。里っちゃんや雪っちゃんたち正規の役員の人たちの頑張りの方が凄かったと思うんだけど」


 まあ、雪っちゃんは自分の成果をことさら誇るような性格ではないので、これ以上はどこまで話し合っても平行線になってしまうだろう。


「何を騒いでいる!」


 と、そうこうしている内にようやく先生方の登場です。

 その後ろには先ほど教室を脱出していたクラスメイトの姿が。やっぱり先生を呼びに行ってくれていたようだ。後でお礼を言っておかないとね。

 ちなみに、不在だったのかボクたちの担任はその中に含まれてはいなかった。


「ぼ、僕はただそこの彼女に話が合っただけで……」


 目上の人間が現れた瞬間に弱腰になるとか、この人はどこまで小物なのだか。


「ともかく、別室で詳しく聞かせてもらうぞ」

「ど、どうして僕だけが!?こいつらだって当事者なんだ!」


 睨むような目つきでボクたちのことを見回していく男性。

 うーん……。このまま先生に任せきりにしてしまうと、彼の怒りがこちらに向いたままになってしまうかもしれない。


「ああ。もちろんこの場にいた者たちからも聞き取りを行う。だが、一番の問題は別のクラスにやって来て大声を出していたお前だ」


 先生から即座に反論を棄却されると、男性は「そんな……」と小さく呟いて項垂れてしまったのだった。

 しかしながらボクが先に不安を感じた通り、だからと言って彼が反省をすることはなかった。


「どうして僕ばかりがこんな目に……。僕にだって頭脳や体力や才能や人の縁があればあんな女よりももっと活躍できるはずなんだ……」


 と、ぶつぶつと愚痴を漏らし始めたのだ。

 後から冷静に考えてみると、「足りない部分が多いね!?」といい感じに突っ込みを入れられる場面だったと思う。

 それ以前にそれだけ足りていないところがあると分かっているのであれば、変に他人を羨んだり妬んだりすることなく自分を高めていくことだってできたような気もするのだ。


 が、その時のボクにはそんなことを考える余裕なんてものは存在していなかった。

 このままだと再び里っちゃんに彼の矛先が向かうかもしれない。そうすれば今度は危害を受けてしまうかもしれない。

 そう思った瞬間、口を開いてしまっていた。


「あなたなんかに彼女の何が分かるっていうのよ」


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