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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第二十一章 不機嫌な日常

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293 我が道を行く闖入者

 突然ボクたちの教室へとやって来た男性は急激な雰囲気の変化にも気が付かない、キングオブ鈍感!な人だった。

 そして一口に鈍感と言ってもいくつかのタイプがあるのだけれど、彼の場合はその中でも一際厄介な部類に入る可能性がありそうだ。


 そのタイプとは、自分に絶対の自信があって他人の意見を聞き入れないというものだ。

 加えて、その自信というのもはたから見れば根拠の薄い過信であることも多く、善意からの忠告すら受け入れようとしないために突っ走っては周囲も巻き込んで豪快に大ゴケしてしまう、というかなりの問題児でもあった。


 要するに、典型的なワンマンをダメな方向へとぐぐっと移動させたものだと思えばいいかな。

 鈍いためなのか積極的に他人の不幸を利用したり人を不幸にしたりしないだけ、悪辣な連中よりかは救いがあるかもしれない。

 もっとも、大ゴケに巻き込まれてしまう人たちからすれば大差はないのかもしれないけれど。


 さて、そんな他人の意見を聞こうとしないかもしれない人物に対してでも、有効な手立てというものはあるものだ。

 その一つがこれ。


「初対面の人から馴れ馴れしい態度を取られるのって、すごく不快なんですけど」


 先手必勝の勢いでキッツい言葉をぶつけることだ。

 ちなみに、この時点で気が付くなんて淡い期待は抱いていない。このくらいでならもっと早く、それこそボクの雰囲気が変わったことで気が付くはずだからね。


「ん?ああ、それは悪かったな。僕は――」

「あなたに興味はありませんから、自己紹介とかも必要ないですね」


 里っちゃんによると「目には目をじゃないけれど、その相手以上に聞く耳を持っていないことをアピールできればグッドだね」らしい。

 その上で自信の源になる部分を叩き潰すようにしてやれば、なお効果的なのだとか。


 これまでの言動から男性は自己顕示欲が強そうだということは分かっていた。それはつまり自分に対しての自信に満ちているということだ。

 助言に従ってその部分を攻めてみたところ、効果は抜群だ!想定していない切り返しだったのか、驚いて硬直してしまったのだった。


 彼の強引な態度に苛立つ気持ちがなかったといえば嘘になる。だからちょっぴり胸がスッとしているのはここだけの話ということで。


 ……それにしてもよくよく考えてみると、自己紹介を断られるとは思ってもいないっていうのも相当末期よね。どんだけ自尊心が高いのよ。

 多分、彼にとっては「あんた誰?」という(いぶか)しんだ返しですらも、「あなた様のお名前を教えてください!」という懇願に変換されていたのではないだろうか。

 あくまでもボクの勝手な想像ではあるのだけれど、何となくそれが正解であるように思えてしまうのだった。


 まあ、それはともかくとして。ようやく静かになったのだからこの機を逃す理由はない。

 さっさとこの場から離脱、もとい逃亡、でもなくお家に帰ることにしましょう。


「それじゃあ私はこれで」


 話は終わりだという気持ちを込めてそう告げると席を立ち、雪っちゃんたちクラスメイトに手を振りながら男性から離れていく。

 ……ふむ。あれな感じの登場だった割には随分と大人しくなったものだね。創作物だとこういう手合いはしつこいのが定番だけど、さすがにリアルでとなると道理を理解していたということなのかな。


 そんなことを考えてしまったのが失敗だった。

 俗に言う、フラグを建ててしまったというやつだ。


「ちょ、ちょっと待て!この僕を無視してどこへ行くつもりだ!?」


 再起動したかと思えば、男性はいきなりそんなことを口走り始めたのだ。一瞬、本気で無視してやろうかとも思ったが、あれだけポジティブシンキング――オブラートに包んだ表現です。率直に言えばただの自己中思考だよね――だとかえって相手を調子付かせることにもなりかねない。

 また、ボクがいなくなってしまったことでクラスメイトたちにどんな被害が出るかも分からないという懸念もあった。


 結局のところ、振り返るより選択肢はなかったのだった。

 ああ、面倒くさい……。


「はあ……。さっきも言ったように私はあなたに一切の興味はないんですけど」

「ぬぐぐ……。この僕に対して何たる失礼で身勝手な言い草だ」


 わーお。まったくもってどの口がそれを言うんだろうね。


「何だろう、物凄く鏡を見てから言えと叫びたい。こういうのってアレだよね、えっと、『くっころ』?」


 ボクの呟きにクラスメイトたちが揃ってガクリと体勢を崩す。


「多分、優が言いたいのは『おまいう』だと思うわよ」


 そして間髪入れずに飛んでくる雪っちゃんからのフォロー。

 同時に教室内のあちこちから「え?今のって仕込み?それともマジ?」といった会話が聞こえてくる。ふふふのふ。はてさて、どちらなのでしょうねえ。

 そこの雪っちゃんや、せっかく人がミステリアスな様子で誤魔化そうとしているのに「微かに頬が赤くなっているから、あれは素だったわね」とか冷静に分析して解説しないで。


 ちなみに多少本音も入っているけれど、(あざけ)るような言い方をしたこと自体はわざとです。

 こういう我が道を行くような人を相手にする時には、正面に立ちふさがるような対応は悪手となるだからだ。向こうはそれが最善で正しいと思い込んでいるから、こちらがどんなに道理を説こうとも聞くことはない。

 つまり正面切って立ち向かったところでお互いにぶつかり合い、大怪我をするだけとなってしまう。


 まあ、その相手が大事な家族や友人という場合などは、そちらを選ばざるを得ないということもあるだろう。

 が、現状ボクにとってこの男性はそうした価値を持ちえる人ではない。よってわざわざ怪我をするかもしれないような行動には出る気がしないのだ。


「この次期学生会会長である僕が使ってやると言っているんだ!どうして感謝の気持ちで仕えようとしない!」


 そして思い通りにならなかったことに、男性はついに癇癪を起こしてしまう。

 その事はどうでもいいが、その台詞の中に流すことのできない単語があったのに気が付いてしまった。


「次期学生会会長?」


 ボクたちの通う高校の学生会は十月に発足して翌年の九月までをその活動期間としている。そして同時に、九月いっぱいは学生会役員を選ぶための選挙期間にもなっていた。

 ちなみにその任期のため、中心となる役員は二年生が主体となるのが通例らしい。


 話しを元に戻して、現在は夏休み真っ最中の八月。

 次期も何もまだ立候補すら受け付けていないはずだ。


 それに何より、生徒間での噂話だと次の学生会長の一番候補並びに二番候補は共に女子生徒だった。成績上位者でもあり先生方からの覚えも良いということだったし、まかり間違っても彼がその座に着くことはないんじゃないかな。


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