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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第二十一章 不機嫌な日常

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292 面倒事の襲来

 ホームルーム前こそ雪っちゃんの余計な一言から大騒ぎになった――既に謝罪の言葉を頂いており、和解済みなので心配無用ですぞ――が、その後は特に問題が起こるような事もなく着々と用件を消化していった。

 と言っても三年生ほどではないにしても、この日はクラスメイト同士の顔見せが中心であることは残る学年も同じだったりする。


 後は期日になっている課題の提出に新たな課題の受け取り、それに担任の先生からのありがたいお言葉を頂戴(ちょうだい)すればお役目完了だ。

 しめて二時間のお勤めとなったのでした。


「こんなに早く終わるんだったら、朝一で登校しなくてもいいんじゃね?」


 ぼやくように呟いた誰かの言葉には心の底から賛同したくなるが、学校側に規則正しい生活習慣を心がけさせるため、というお題目がある以上、変更するのはほぼほぼ不可能だろうとも思えるのだった。


 時刻はようやく午前十一時を回ったところだ。教室のあちこちでクラスメイトたちが「どこへ遊びに行こうか?」と楽しそうに話し合っている。

 夏至を過ぎてから一月以上が経過しているけれど、まだまだ日中の時間は長いからね。今日であれば門限となる暗くなる頃合いまでに、たっぷりと遊び回ることができるだろう。


 当然真夏の太陽さんも健在で、サンさんと強烈な日差しと熱気を送り込んでくれている。

 空調の効いた教室内だからこそ気楽に会話もできているが、一歩廊下へ出れば真夏であることを嫌というほど体感させてくれることだろう。

 そうした陽気、いや熱気も手伝ってか、女性陣の数人はプールなどで水遊びに興じようと画策しているらしい。


 浮かれてしまっているのか「ついでにきわどい水着姿で悩殺しちゃえ」などと言い出したものだから、近くにいた男子たちがどう反応していいやら困ってしまっていた。こういう時のリアクションに完璧な正解と言えるものはないからねえ……。

 まあ、うちのクラスの場合はよほどひどい暴言やセクハラまがいの行動でなければ不当に蔑んだり、逆に攻撃するための材料にしたりするような人はいないのでその点は安心できるかな。


 そんなクラスメイトたちを横目に、ボクはと言うとさっさと家へと帰る支度をしていた。とてつもなく中途半端な状態になっている『OAW』のことが気にかかっているということもあるが、それ以上にホームルーム前の一件が警鐘を鳴らしていたのだ。

 ここにいては似たような話題を再び持ち出されることになる、と。


 それにしても雪っちゃんのあの仮定の話については、しっかりと異議ありと言っておきたいところだ。

 まあ、確かに里っちゃんが誰かに振られるところなんてボクだって予想もできないけれどもさ。それ以前にボクの方から告白するのが当然という流れだったことにも、ちょっと待てと言いたい。

 これでも幼い頃から対等な関係になれるように努力してきたのだ。まるで一方的に寄りかかっているように思われるのは心外なのですよ。


 まあ、中学時代にはそれなりに一緒に行動していたこともあって、雪っちゃんもこの辺りの事情について本当は良く知っているし、今朝のことに関しては場の空気を一変させるためだったという面が強い。

 想定外だったのは思っていた以上の人間が喰いついてしまったことで、それはつまり事情は知らないけれど、雪っちゃんが口にしたのと同じように想像してしまっていた人が数多く存在していたということだった。


 ホームルームが始まるまでの時間で頑張って説明をしてみたけれど、桃色恋愛脳は全ての事象を恋愛へと結びつけようとするという厄介で面倒な性質を持っているから、果たしてどこまで正確に理解してくれたものなのやら。


 そんな訳でボクは本能に従ってスタコラサッサと逃亡する準備を進めていたのだった。


 しかし、残念ながら今日はつくづく面倒事と遭遇してしまう日だったらしい。いや、もしかすると不機嫌だった心持ちがそうした出来事を呼び込んでしまったのかもしれない。

 次なる厄介事に遭遇したのは帰り支度を終えて教室から出ようとした時のことだった。


「失礼、三峰優華はいるか?」


 ガラリと大きな音を立てて教室前側の扉を開いたかと思えば、その元凶となったのだろう男性――この学校の制服を着ていたから多分上級生だと思う――がいきなりそんなことを言い出したのだ。

 台詞とは裏腹に少しも失礼だと思っていない高圧的な言い方に眉をひそめてしまう。クラスメイトたちも同じ感想だったらしく、正直に教えてしまって良いものなのかと考えてしまったようだ。


 だが、無意識の行動までは止めることはできなかった。

 何人かがボクの方へと視線を向けてしまった。


「ああ、そこに居たのか」


 目ざとくも男性はそんな小さな変化を見逃さなかった。しかもどうやら相手にボクの面は割れてしまっていたらしい。

 誰からの許可を得ることもなく教室内へずかずかと入り込んできた彼は、一直線にこちらへとやって来た。そして座っているボクを見下すようにして不躾な視線を向けてくる。


 ……ふうん。随分と横柄な態度じゃないですか。まあ、本人としてはバレていないつもりなのだろうが、生憎(あいにく)と女の子はそういった視線には敏感にできているのですよ。

 元々ないに等しかった男性の好感度が、ゼロの下限をぶち破ってマイナス側にまで急降下していく。

 同時に雰囲気を拒絶や嫌悪を表すものへと切り替えた。


 そのあおりを受けて、比較的近くの席にいた数名のクラスメイトたちが驚き息をのむ音が聞こえてくる。

 ……あ、そう言えばリアル(こっち)雰囲気激変(これ)をやるのはかなり久しぶりのことで、高校に入ってからとなると初めてのことだったっけ。『OAW(あっち)』で時々使っていたから、すっかり忘れてしまっていた。


 少し離れた席で成り行きを見守っていたのだろう雪っちゃんが、額に片手を当てて巨大なため息を吐いているのが視界の端に映っていた。


 クラスメイトの皆ごめんね、と心の中で謝罪しながら事の元凶となった男性へと視線を戻すと……。

 うわっほい!なんと多少の変化は感じているようだがはっきりとしたことは分かっていないようで、怪訝な顔で周囲を見回しているではありませんか!?

 お、おおう……。『OAW』のチンピラ冒険者たちですらはっきりと感じ取れたというのに、まさかエアリーディング能力が問われる現代ニポン社会で気付かれることがないとは思ってもみなかったよ。

 ここまで鈍感になれるとはある意味凄い人物なのかもしれない。


 もっとも、だからこそ親しくなりたいとは思えないのだけれどね!


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