284 いじわるな確率
幸いなことにカギとなるアイテムの存在はすぐに発見することができた。
扉の前であーでもないこーでもないと話し合っていると、何とゴーレムが復活――今度はアニマルタイプでした――してきたのだ。
慌ててそれらを倒したところ、それまで何も残さず消えてしまっていたのに、なんと小指の先ほどの小さな『緋晶玉』を残していったのだ。
はい、もうお分かりですね。
つまりその小さな『緋晶玉』こそがカギになっていたという訳です。
しかし、そこからが大変だった。どうやらこの『緋晶玉』、ドロップ率がかなり絞られていたようで、それこそ何体もゴーレムたちを倒さなくてはいけない羽目になってしまったのだ。
時間だけでなく通路を一つ曲がるごとに復活するように設定されていたのか、無意味に待つことすらなかったものの、壁画のあった空間とこの一番奥の扉の前との間を何回も往復もすることになったのだった。
「正確には、十三往復ですね……」
説明ありがとう、ネイト。
しかもこういう時のお約束なのか、数が揃った途端やたらとドロップしてくるようになってしまったというオマケ付き。
結局扉の前へと戻ったボクたちの手元には、十七個もの『緋晶玉』が集まっていましたとさ。……ちくせう。
ちなみに、ゴーレムのタイプとドロップ率との間に因果関係は――今のところは――見つけることができなかった。多分、検証するなら最低でも各種百体以上は倒さなくてはいけないだろう。
さらに正確なデータということならその数倍は必要になってくるだろうから……。
うん。とてもじゃないけど、ボクたちには無理。
「ほんまはもうちょっと休憩を入れておきたいところなんやけど……」
「時間が経つとまたゴーレムが復活してきてしまいますから、ここは諦めて扉を開いた方が良さそうですね」
これだけ仰々しく華美な装飾が施されている扉だ。仕掛けがあるなしに関わらず、開いた向こう側で何が出てきたとしてもおかしくはない。
そんな訳で可能な限り最大となるようにHPを回復させておく。これで何も出てこなかったら……、ちょっともったいないけど。
まあ、いざという時のための保険だと思って仕方がないと割り切るしかないかな。
特に今はまだMPを回復させるアイテム類が存在していないので、せめてHPくらいは万全にしておかないとね。
一応、作成するためのレシピ自体は掲示板などで調べて知っているのだけれど、肝心の素材となる物を入手することができないのだ。
その素材というのが『コナルア草の根っこ』だ。
コナルア草自体は傷薬や回復薬などの元になるもので、これまでいくつも採取しているし、それを回復薬などに加工もしている。
が、根っこの方はというと、どんなに丁寧に根元から掘り返してみても入手することはできなかった。
先人たちの調査によると、どうやらシステム面でロックが掛かっているようで、ゲームの総プレイ時間とレベルによって解除されるようになっているらしい。
ボクの場合はどうやらレベルの方で引っ掛かってしまっているみたいで、入手できるようになるまで、もう少しということであるようだ。具体的には十五レベルが目安とのこと。
持ち込んだアイテムのほとんどを使い切る勢いでHPを回復させると、ついに扉を開け放つ。
「おおー……。今度のはなかなかに強そうかも」
「とりあえず、逆ではなくて良かったですわね。後からアレではきっと油断してしまっていたでしょうから」
「そうなってしまうんも分からんではないんやけど、これ見て「強そう」の一言だけで終わらされるとは、遺跡を作った人らも予想しとらんかったやろうなあ」
「よほどの凄腕でもない限りは普通、初見となるでしょうからね。むしろ本物と見間違うのではないでしょうか」
ボクたちの感想で気が付いた人もいるだろうけれど、念のために答えを発表しておこう。
扉を開いた先、縦横高さそれぞれ十メートルほどの空間にいたのは、枯草色をしたドラゴンのゴーレムだった。
〔鑑定〕技能で調べてみたところ『ガーディアンゴーレム・ドラゴンタイプ』と表示されている。『風』が付かなかったところに製作者の気合が覗えるというものだ。
実際、先の通路で戦っていたゴーレムたちと同じようにその造形は細かい。
「まあ、まさか本物のドラゴンを毎日のように見ている人がやってくるとは、予想もしていなかっただろうね」
そう、ブラックドラゴンを見慣れているボクたちからすれば、良くできているとはいえ、その動きなどに微妙な違和感を覚えてしまう出来栄えだったのだ。
「でも、レベルは地上にいたアレよりも高いから注意して」
地上にいたガーディアンゴーレムはレベル二十二だったのに対して、今ボクたちの目の前にいるドラゴンタイプはレベル二十五と三レベルも高い。
空間の広さとの兼ね合いで小さくなってしまっているサイズなど、それだけでは単純に比較できない部分はあれど、少なくともアレよりも弱いということはないだろう。
ボクたちが戦いに備えて気合いを入れようとした瞬間、先手を取ってドラゴンタイプが吼えた。
「ギャオッスー!」
「そこは一緒なんかい!?」
ビシィっと間髪入れずに突っ込んだエルはさておき、ドラゴンタイプの発した情けない声に、込めようとしていた気合いが霧散してしまうボクたち。
「ギャオッス!」
それを好機と見たのか、こちらに行動する間を与えることなく口から火球を吐き出してくる。
「にょわっ!?」
飛び込み前転の要領で慌てて飛びのく。みんなもめいめい回避行動には成功したようで、被害らしい被害はない。
が、着弾地点を見てボクは絶句してしまった。そこにはなんと赤々とした炎が躍ったままになっているではないか!?
どうやら着弾後もしばらくは影響が出る類の攻撃であるようだ。
ちなみに魔法だけで再現することはできないけれど、あらかじめ油をまいておくといった準備をしておけば、似たような状況を作り出すことは可能だ。
「ネイト、補助魔法は攻撃優先でお願い。みんな、できる限り速攻で片を付けるよ!長引けばそれだけ不利になるかもしれないからね」
エッ君とリーヴのうちの子たちコンビと、ミルファの前衛組がドラゴンタイプに向かって駆け寄って行く後姿を見ながら、ボクは魔法による攻撃のために集中を開始していた。




