280 危険な時間
強敵が待ち受けるなら打ち倒せばいいし、罠があるなら喰い破ればいい。
そこまで極端な脳筋思考にならなくとも、逆にこちらが罠へと誘導するという手だってあれば、イベントを進めていく途中できっと参戦してくることになるだろう対立する相手に押し付けてしまうという方法だってある。
いざ覚悟を決めてしまえば、取れる手段などいくらでも思い浮かんでくるような気がするのだった。
「ところでリュカリュカ、あの仕掛けの解き方は分かりましたの?」
とミルファが尋ねてきたのはそんな時のことだ。あの仕掛け、というのは四枚目の壁画にあった窪みのことだろう。
「うん。燃料だということが分かったから、はめ込む物はこれで間違いないと思う」
取り出したりまするは三枚目の壁画に隠されていた『緋晶玉』だ。恐らくは現物の魔導機械もこれら天然の蓄魔石をエネルギー源として動いていたのだろう。
「これをこちらの窪みへと押し当てますと……。うん。ぴったり!」
まるであつらえたかのように、いや、実際その通りなのだろう『緋晶玉』は余計な隙間もなくきっちりと窪みに収まったのだった。
………………。
あれ?
だからどうしたと言わんばかりに何も起きないんですけど!?
うええ!?あれだけ偉そうな前口上を口にしたのにハズレだったとか非常に居心地が悪いのですが!?
みんなの顔が某動物のようになっている気がして、怖くて振り返ることができないです。
本格的にパニックになりかけた頃、背後からゴゴゴゴ……、と重苦しい音が響いてくるのが聞こえた。
音の正体を確かめようと慌てて振り向いてみれば、五枚目の壁画の正面に当たる部分の壁の一部が横にスライドして、新たな道ができ上がっていた。
しかもその道は真っ暗だったこれまでとは異なり、薄ぼんやりと明かりが灯っているではないか。
しかーし!そんな重要な事柄に気が付くこともなく、ボクはひたすら安堵の息を吐いていたのだった。
だって、あれだけ偉そうなことを言っておいて間違いだったなんてことになってごらんよ。立つ瀬がないどころの話じゃないでしょう。
きっとボクの株は大恐慌並みに大暴落してしまったことだろう。
そういえばこちらの世界には株だとかそういう概念はまだ生まれていないような気もするから、この例え方をしたところで意味が通じないかもしれない。
同じく列車もないから、話しが脱線したという言い方も通用しないかも?
探せば他にも似たような事例はいくつもありそうな気がする。
はっ!あまりの衝撃の大きさに意識が余計な方向へと脱線をしてしまっていたよ。あ、だからこの言い方ではダメなのかな?
いやいや、これは一旦横へ置いておこうか。
というか、落ち着けボク。
深呼吸だよヒッヒッフー!
「ふう……。この地下遺跡に降りて来てから、ある意味一番驚いて緊張したかもしれない」
「わたくしとしましては、むしろ先ほどのあれで落ち着きを取り戻せたということに驚きですわ……」
半分本気で半分冗談なボクの台詞と行動に、律儀にも突っ込みを入れてくれるミルファ。
ちなみに、どこまでが本気でどこからが冗談だったのかは内緒。
「そこはもう、リュカリュカだからとしか言いようがないですね」
「ネイやん、それただ考えるのを放棄してるだけとちゃう?」
二人にも気を遣わせてしまっているね。それだけあの待ち時間は――精神的に――危険なものだったということなのですよ……。
さて、気を取り直して新たに開いた先を見て「明かりが付いてる!?」「最初からでしたわよ!」というやり取りを経てから突入してみると……。
「奥から四体追加!今度は……人間型や!」
「ちょっ!?三度目のお変わりは少量が基本でしょうが!?」
「意味が分かりませんわよ!?」
「二人とも!口ではなくて手を動かす!」
次々に現れるゴーレムたちと連戦をする羽目になっていた。
魔法生物というものに分類されるゴーレムの特徴として、普通の生き物のような明確な弱点が存在しないという点がある。これがボクたちパーティーとは相性が悪かった。
それというのもミルファやエルがそうした急所を突くという攻撃方法を得意としていたからだ。まあ、得物がそれぞれ細剣と短剣なのだからその攻撃方法はお察しというところ。
加えてエッ君もそんな二人に近い部分があるため、実質前衛の攻撃力が大幅に低下した形となってしまったのである。
こうした急所攻撃ですが、ゲーム的な処理としては会心の一撃による大ダメージという扱いになっているそうです。
必然的に盾役のリーヴと、突き斬り叩きとある程度の万能性のあるボクが最前線に出ることになっていた。
「このままだと数に物を言わせた物量で押し切られちゃう。リーヴ!今相手にしているやつはエッ君とミルファに任せて、奥から来る四体を【クレバーウォール】でまとめて足止めしておいて!」
動物型のゴーレムの飛び付き攻撃をするりと受け流すと、リーヴが奥へと向かって数歩進んだ所で広範囲防御技を展開する。
これでしばらくは時間が稼げる!
「させませんわよ!」
一方放置された形となったアニマルタイプゴーレムは、本能的――あるの!?――にその行為が自分たちの邪魔になると理解したのか、反転しようとするも辿り着いたミルファたちによってその場に釘付けされることになったのだった。
「ネイト、攻撃魔法で数を減らすことを優先して。申し訳ないけど、エルは臨機応変に押されているところの援護をお願い!」
「分かりました」
「了解や」
残るメンバーにも一通り指示を送ってから、ボクも目の前の敵へと集中する。最初に思いっきり斧刃の部分で吹っ飛ばせたのは運が良かった。
以降、ボクが相手取っていたアニマルタイプゴーレムは再度痛撃を受けないように慎重に間合いを計っていたのだ。お陰でみんなに指示を飛ばす余裕ができたという訳。
しかし、さすがにそれ以上は許してくれそうにもない。本物の猛獣さながらの姿で威嚇の声を上げ始めたのだった。
そう、なんと今回戦闘になっているゴーレムたちは地上で戦ったドラゴン風のガーディアンゴーレムとは異なり、忠実に元になった生き物を再現していたのだ。
自分と同じくらいの大きさの猛獣とかひたすら恐怖でしかないんですけど!?
果たしてボクは無事に目前の敵を倒すことができるのか!?
そしてボクたちパーティーは無事にこの戦いを乗り切ることができるのか!?
次回に続く!
「リュカリュカ!真面目にやりなさい!」




