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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第二十章 地下遺跡探索2

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277 魔導機械と宝石

 結論から言おうか。『壁画に〔鑑定〕技能を使って楽々仕掛けを大発見作戦!?』はものの見事に失敗に終わった。

 それというのも〔鑑定〕だけではなく感知系の技能が効かないように特殊な妨害の魔法が施されていたためだ。エルが仕掛けの詳しい部分について何も分からなかったことにはそうした理由もあったらしい。

 保存だけでなく、そんなことにまで魔法を使っているなんて、やはりこの遺跡は今とは比べ物にならないくらい高度な魔法技術が使用されているようだ。


 ちなみに、壁画の名前だけは分かったのだけど、そちらも左端の『壁画A』から始まり、以降順にBからEへと、名前というよりは識別のための記号が割り振られているだけなのだった。


「おにょれ、名前からでもヒントになればと思ったのに……」

「ああ、リュカリュカも〔鑑定〕を使(つこ)うてみたんやな。どうや、なかなかに気合の入った隠蔽(いんぺい)度合いやったやろ」

「本当にね!ここまでノーヒントにこだわられると、ここにある壁画からだけでどこまで真相に迫ることができるのかを試しているんじゃないかとすら思うよ。まあ、そっちはともかく、仕掛けなのか罠なのかの判別は付いた?」

「罠っちゅう線はひとまず低そうや。問題は仕掛けを作動させるためにこの窪みにはめ込むための物が分からんことやなあ」


 そう。これを発見させるためのヒントがどこかに配置されているというのがよくある展開というやつだと思うのだ。

 が、さっきも言ったように、ここにそんな気の利いたものは置かれてはいなかった。


「外部から持ち込まなくてはいけないということではないのでしょうか?」

「うーん……。アリかナシかの可能性で言うたらそれもアリなんやろうけどなあ……」


 複数の場所を行き来したりして、絡み合ってしまっているそれぞれの謎を少しずつ解きほぐした結果、最後に答えに辿り着くという流れも候補のうちの一つではあるのかもしれない。


「でも、ここに関係ある物と言えば、宰相さんからの依頼を受けるきっかけになった冠くらいのものだよ」


 まさかクンビーラの街中の様子を知るために駆け出しの頃に受けた倉庫整理の依頼が、こんな大事ことになるとは予想だにしなかったよ。

 そして冒険者の等級的には、まだこの駆け出しからは抜け出せていないというのがなんともはや。


 ちなみにあの冠だけど、過去にクンビーラ公主の頭を飾った正式なものであることに加え、現在風卿の由来の品という怪しげで出所不明の噂が付きまとっているため、クンビーラのお城で厳重に守られていたりする。

 最終的に埋葬し直すとするならば、こういった噂の払拭(ふっしょく)も必要になりそうだ。


「それに、あの冠でここの仕掛けに使えそうなのは、それこそ飾りに使われていた宝石くらいな、もの、で……?」


 おや?……宝石?


 どこかで聞いたことがあるかと思えば、それもそのはず。すぐ隣の『壁画C』こと三枚目の鉱山の絵だ。あの中に宝石とおぼしきものが乱雑に積み上げられていたのだ。


「エル、明かりをお願い」


 それだけ告げてみんなよりも一足先に件の壁画の前へと駆け寄っていく。

 至近距離からじっくり見てみると、赤みを帯びながらも透明感を持ち魔法の明かりを受けて光るそれは、絵だとは思えないほどのリアリティさを持っていた。


「まさか、ね……」


 ふと頭に浮かんだ突拍子もない思い付きに苦笑しながらも、確かめずにはいられない好奇心から、そっと壁画へと手を伸ばしていく。


 そして、積み上げられた頂きで一際存在感を発している一つに触れた瞬間、ポロリと転がり落ちてくるようにボクの手の中へと飛び込んできたのだった。


「まさか絵の中に本物が仕込まれていただなんて……」


 呟いたミルファだけでなく、ネイトもその隣でコクコクと首を縦に振りながらも目をまん丸にしていた。エルだけは眉根を寄せて難しい顔になっていたけれど、それは実物がある事に気が付かせない隠蔽の仕組みの高度さ具合に気が付いてしまっているがゆえのことなのだろう。


「でも、宝石?」


 ここにきてもボクにはこれが仕掛けを解くための鍵だとは素直に信じられないでいた。

 だって、エンジンのような機械に宝石の飾りを付けるだなんておかしくはないだろうか?まあ、仕掛けを解くためのギミックであれば、そのくらいのものなのかもしれないけれど。


「いや、それはリュカリュカの言う通りや」


 という訳でみんなに相談してみたところ、即座にエルからこの言葉が返って来たのだった。


「そうなのですか?」

「魔導機械っちゅうんはごてごてした見かけに反して、とてつもなく繊細な物らしいわ。それこそちょっとした重さの違いや歪みなんやですぐに動作不良を起こしてまういう話や」


 リアルでの精密機械を考えれば何となく納得はできる話だ。

 うちの子たちを含めた他のみんなは驚いているね。こちらでは道具というと生活に密着しているものが連想されて、そういうものは大抵頑丈に作られているから。

 まあ、より詳しく見ていくと専門用具などはそれなりに緻密で繊細な物も多くあるのだけれど。


「特に宝石は(まじな)い的な要素が強いからな。魔導機械と組合わすんは余計に難しいように思うわ」


 一口に(まじな)いと言っても多岐に渡っていて、(のろ)いなどのブラックなものから祝福などのホワイトなものまで幅広い。

 宝石の場合はその見た目が美しいことから、ほとんどが後者として利用されているのだとか。


「ミル嬢なら幸福を呼び寄せるやとか、厄を退けるとかいう売込み文句を出入りの宝石商から聞いたことがあるんとちゃうか?」

「確かに聞いたことがありますわね……。てっきりこちらの気を引くための口上なのだとばかり思っていましたわ」

「そういう部分が全くないとは言わんけど、(いわ)れが多いんもまた事実やな」


 ミルファのように上流階級であれば、そうした知識も必要になってくるのかもね。


「他人事みたいな顔しとるけど、リュカリュカやネイやんも知っておいて損はない事やで」

「え?」

「私たちもですか?」

「そうや。こういう知識があれば買い叩かれることも、いわく付きの物や偽物を掴まされることも少のうなるからな」


 言われてみれば全く無関係と放置することはできないかも。

 一人前の冒険者となるには、きっと他にもたくさんの知識が必要になってくるんだろうな。そんなことを思った。


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