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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第十九章 地下遺跡探索1

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268 エルが耳にした噂

「ガクガクブルブル……」

「なあ、これいつまで続くんよ?」


 ネイトのお説教が終わってから一息ついた後も未だに恐怖に震えていた。

 ……ミルファとエッ君が。リーヴは大分持ち直してきてはいるけど、微妙にまだ腰が引けているね。


「叱られた本人が一番けろっとしとるいうんもアレやけど」


 エルさんや、胡乱げな目でこちらを見ないように。


「こう見えても、しっかりと反省はしているんだけどね」


 ボクだって別に何ともない訳じゃない。叱られれば落ち込みもするのだ。ただ、凹んでいるのを意図的に外には出さないようにしているだけのことなのだ。

 この辺のことは子どもの頃からの習い性というか癖のようなところがあるので、例え改善するにしてもなかなか難しいものがあるだろうと思っている。


 ただ、生まれてからまだ日の浅いエッ君にこれまでずっと一人でいただろうリーヴと、集団での行動や生活に不慣れであるうちの子たちはともかくとして、ミルファも一緒になって怖がっているというのはどうなのか。


 超が付きそうな美少女だから、絵面的には問題ないどころかスクショを売りに出せば一瞬でプレミアがついてしまいそうなくらい大変素晴らしいものではありましたがね!


「も、申し訳ありませんの。子どもの時にやんちゃしてお父様やキャシーお姉さまに叱られた記憶が蘇ってきてしまいまして……」


 宰相さん、初めて会った時もボクのことそっちのけでミルファにお仕置きしていたもんね。

 こめかみに握り拳グリグリのウメボシ攻撃で……。うん。娘と言えども年頃の女の子相手なのに容赦ないです。


 公主様は懐いていたという表現をしていたがキャシー様、カストリア公主妃様も、実際のところは可愛がるを通り越して構いたおしてしまっていたような気がする。

 だからミルファからすれば頭が上がらない相手だったのかもしれない。


 もちろん二人とも親愛の情を持っていたのは間違いないけれど、その分叱る時には、しっかりきっちりとやっていたのではないだろうか。


「子どもの頃からミルファはかなりお転婆(てんば)だったみたいだしねえ」

「そ、そんなことありませんわよ。少しお城の庭にある木に登ってみただとか、物見塔にこっそりと侵入しただとか、騎士団の訓練に参加させてもらっただけですもの!それだって、ロイが一緒の時にしかやっていませんわ」


 ロイさん哀れ……。きっと幼い頃から半ば強制的に婚約者候補兼お目付け役として側に居させられたのだろうが、その頃からずっと振り回されていたんだろうね。

 しかもミルファがトラウマになりかけるくらい叱られたということは、それ以上にコムステア侯爵たちからお仕置きを受けていたに違いない。


「ボク、ちょっと子どもの頃のロイさんに同情しちゃいそう。きっとミルファが何かしでかす度に、「どうしてお止めしなかったのだ」とか「婚約者であるお前が御さなくてどうする」とか言われていたんだろうね……」

「なっ!?どうしてリュカリュカがそのことを!?」


 わーお……。あくまでもボクの勝手な予想だったのだけど、見事に的中してしまっていたようですわよ、奥様。


「惚れた弱みなのかな」

「ミル嬢の婚約者っちゅうとコムステア侯爵様んところの若さんやんな?あのお人は完全にミル嬢にまいってしもうとるわ。恥ずかしいんか本人はそっけない態度を取ろうとしてるみたいやけど、バレバレやで」


 そういえば初対面の時には斜に構えているというか、そっけないふりをしていたような気がする。もしかするとあれも彼女の気を引こうとして空回った結果なのかもしれない。

 直後には呆気なく仮面がはがれていたような気もするし。


「若さんで思い出したわ。ミル嬢、あの人といっぺんきちんと話おうとく方がええで」

「え?」


 エルという思わぬ人からの忠告に、ミルファはネイトの剣幕に怯えていたこともすっかり忘れてしまったようだ。

 というかボクたちもその話は気になります。


「うちの立場柄クンビーラ城内の色んな噂が入ってくるんよ。そん中に件の若さんのことも混じっとったんや。本来は守秘義務とかあるから話せるもんやないんやけど、この件は放ったらかしとるとクンビーラのお家騒動にまで発展しかねん問題やからな。ここなら誰かに聞かれる心配もないやろうし特別や」


 お家騒動とかなんだか物騒な展開になってきたかも?


「分かりましたわ。このことはロイに問い質す時以外には絶対に口外しないと誓います。リュカリュカもネイトも巻き込んで申し訳ありませんが、絶対に秘密にして下さるよう切に願います」

「ええ。もちろんですよ」

「仲間の頼みはきくものだからね」


 ミルファからここまで念押しされた事だから、冒険日記にも書かない方向で。

 この遺跡探索のことなどなど他にも書くことはいくらでもあるから苦情は上がるような事もないだろうが、運営の意向も確認しておきたいのでアウラロウラさんに一報だけは入れておくようにしよう。


「それで、ロイに一体何がありましたの?」

「ミル嬢の影響もあってか、あの人も今でも頻繁に騎士団に顔を出しとるやろ。その時に同期っちゅうか年の近い連中と親睦も兼ねて飲みに行くこともあるみたいなんよ」


 いわゆる飲みニケーションってやつだね。


「で、その時に不安に思うとることっちゅうか愚痴をもらしたことがあったらしいわ。その内容やけど、ミル嬢がリュカリュカやネイやんたちとばっかり一緒におって全然城に帰って来うへんからやな、その……、見放されてしもうとるんやないかと思い詰めてしもとるらしいわ」


 ええー……。あれだけミルファからの好き好き光線を受けておいてですか?

 ボクはてっきりミルファ大好きプレイヤーたちからの恨みの波動が世界を越えて届いてしまったのかと思ったよ。


「リュカリュカ、投げやりな気持ちになるのは分からないでもないですが、事は私たちにも関わってくることですからね。放置せずにしっかり見届ける必要がありますよ」


 そうだね、ネイト。あなたの言う通りだとおもうよ。

 でも、できる事ならその恋物語に興味津々で好奇心に満ち溢れたキラキラと輝く瞳は何とかしておいて欲しかったかな。


「せやけど、男女の感情いうんは一度もつれ始めると厄介なことになってしまいがちや。早めに解きほぐしておくのが肝要やで。それに、いらんことを吹き込もうとする危ないやつが現れんとも限らんから」


 つい先日も『毒蝮』とかヴァジュラからのちょっかいがあったばかりだ。エルもそれに巻き込まれてしまった形だったから、この点を一番心配しているのだろう。


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