266 壁画鑑賞会
ネイトの師匠筋に当たる人のことも気にはなるけれど、そちらはあくまでも向こうの動き次第ということになるため、待ちに徹するしかなさそうなのが残念なところ。
当初の目的であったミルファの御先祖様のお墓があるという可能性もまだ残っていると分かったことでもあるし、今のボクたちでなければできないだろう問題に取り掛かるとしましょうか。
「どの壁画に仕掛けが施されているのは分からなかったんだよね?」
「そうや。けど、間違いなくどれかには仕掛けがある。それだけは断言しとくわ」
後々から考えると、この台詞を含むエルの行動はおかしいんだよね。
だってレベル五十以上のキャラなんだよ。技能の熟練度だってきっとそれに伴って高くなっているだろうし、ボクたちが解けるだけの仕掛けが分からないなんてことはなかったはずなのだ。
ゲームとしての補正が働いていたのか、それとも何かの理由があってエル自身が能力を抑えていたのか、恐らくはこのどちらかだろうとは思うのだけど真相は闇の中だ。
周囲も相変わらず真っ暗だしね!
「それではまずは全ての壁画を見てみるというのはいかが」
「賛成です。どのようなものが描かれているのかが分からなければ、仕掛けを考えることなどできませんからね」
ミルファの提案に乗って、絵画鑑賞会第二弾となったのだった。
最初の島のものを含めて壁画は全部で五つあった。
「あ、これって『大霊山』だよね」
「こないけったいな形しとる山がそうなんぼもあるはずないやろうからな」
ということで二枚目は『風卿エリア』のシンボルでもある『大霊山』だった。
構図としてはふもとから見上げているというもので、右下から左上に向かってズドーンとそびえ立っている様をダイナミックに描いているね。
背景の青空には白い雲と……、何だろう?鳥なのかな?一つだけ小さく影のようなものが浮かんでいたのだった。
「リュカリュカ、気になることがあったのかもしれませんが、先に残りも見てしまいましょう」
「あ、そうだったね」
ネイトに促されて三枚目の壁画へと向かう。
「これはまた一気に趣きが変わりましたわね」
ミルファが言うように風景画のようでもあった先の二枚とは異なり、今度の絵の主役は労働にいそしんでいるらしい多くの人々だった。
「つるはし持ってトンネル掘り掘り?」
「いえ、これは恐らく鉱山の様子ではないかと思います」
その証拠にと指さされた先にあったのが、色鮮やかに描かれた宝石のようなものだった。
「んん?でも自然にある原石ってこんなに綺麗だったっけ?」
「あら、リュカリュカはよくそのことを知っていましたわね。その通りですわ。ほとんどの宝石は熟練した職人の手によってその秘められた美しさを開花させるのだと言われておりますの。例外となるのは魔物から取ることのできる魔石くらいなものかしら」
魔石は魔物の体内で成長していくとも言われていて、その魔物がより強くなっていくことによって大きさも輝きも増していく傾向にある。
あくまでプレイヤー間で取引される際の話だけれど、おおよそでレベル三十を超えた辺りから一般的な宝石よりも魔石の方が高い値が付き始めるのだそうだ。
ボクたちのレベルで相手にできる魔物では微小サイズの魔石が取れるのが精々だけど、それでも他のドロップアイテムに比べれば断然価値のある代物となる。
「まあ、そこいらは分かり易いようにしとるんか、それとも描いた本人が知らんかったんかのどっちかいうところとちゃう」
ここはエルの意見が大正解だろうね。一目見てすぐに分かる象徴になるものがあった方が、見る人に何を題材にしているのかを伝えやすいというものだ。
それでも、さっきのボクのように的外れな答えを導いてしまう人もいるのだろうけれど。
「それにしてもこの絵描き、王侯貴族のパトロンが付いとったんかもしれんで。山積みにされとる宝石が本物みたいや。これは相当現物をよう見とらんと無理やと思うわ」
おや?
いくらこの後で加工することが決まっているとはいえ、この扱いはおかしくはないだろうか?もしも崩れて傷でもついてしまったら、それこそ大損害になってしまうのではないのかな?
……あー、でもこれもさっきと同じ理由なのかもしれない。こんなに乱雑に扱えるほど豊かな鉱脈だという誇張した表現方法だとか。
……考えたところで製作者の意図が読める訳でもないし、次の壁画にいきますか。
「今度は部屋の中ですのね。段々脈絡がなくなってきましたわ」
「これにも複数の人たちが描かれてしますが、目当ては彼らということではなさそうです」
そう。多分喜びに沸いているのだろう笑顔の男たちを尻目に、その絵の中心には別の物がドドンと居座っていた。
「これはカラクリとか魔導機械いうて呼ばれとるもんに近い気がするわ」
「魔導機械?」
「早い話が魔道具とかマジックアイテムのもっと凄いもんやな。古い古い時代にはな、この魔導機械のお陰で色々と便利な生活ができとったらしいで」
簡単に言うとオーパーツのようなものらしい。ただこちらの場合は完全に解析不能である割に、一部は現在でも使用可能なのだとか。
「ああ、『古代魔法文明期』のことですわね」
「お?ミル嬢、ちゃんと知っとるやん。……って、クンビーラの公主の血筋なんやから当たり前のことやったな」
「ええ。……ですがてっきりこれもお伽噺の類だと思っていましたわ」
「世の中に出回るもんやないから、そう思うんもしゃあないわ。見つかったいうて聞いた途端、大国が手を回してすぐに国宝に指定して取り上げてしまうんよ。そもそも古い時代過ぎて魔導機械が見つかるような遺跡自体がほとんどない。まあ、その割に発見された魔導機械は新品みたいに綺麗なことが多いらしいけど」
わざわざ大国が独占しようとすることには訳があり、この『古代魔法文明期』について書かれた本には、当時大きな戦争が何度も行われていたという記述が登場しているからだ。
つまり、発見された魔導機械が超兵器であるかもしれないという危険性から、一般には流通しないように取り計らわれているのだそうだ。
「ちゅうんは建前で、超兵器が手に入れば世界征服も夢やないから、らしいで」
うわあ……。特撮ヒーローものの悪役組織みたいな考えだ……。
もっとも、そういう悪いことを考える人のところには、まともに動かない失敗作ばかりが持ち込まれるのが常だったのだとか。




