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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第十九章 地下遺跡探索1

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263 叱られたくはないのですよ

 一通りやいのやいのと騒いだ後で、ようやく話を進めることになったボクたち。

 余談だけど、この間にエルからのマジ説教が入ったりしています。とりあえず美人さんが本気で怒るとすごく怖いとだけ記しておきますですよ。ガクブル。


「島の伝説やその(たぐい)となりますと、太古の昔西の大洋に存在したと言われている幻の古代文明の話が有名ですわね。ただ、外の大陸から伝わってきた話なので信憑性(しんぴょうせい)という点では疑問が残りますわね」


 リアルで言うところのアトランチスな謎という感じかな?

 ミルファは否定的だけど、あれなら解釈次第では摩天楼があっても不思議ではない気もするね。題材として使用した可能性はあるかもしれないということで候補その一としてメモメモしておきます。


「ああ、そういう話であれば確かに私も聞いたことがありますね」

「なぜそこでボクを睨む……」

「……なぜだかリュカリュカの言った通りになってしまいそうでしたので」


 理不尽な態度に苦情を申し立てるも、ネイトにはさらりとかわされてしまった。

 それどころか逆に理不尽な言いがかりが追加されてしまったような気がする!?


「ネイトの気持ちはよく分かりますわ。リュカリュカと話していると、まるで掌の上で転がされているように感じてしまうことがあるのですわよね。普段は世間知らずでポヤポヤしているというのに」

「ボクが一般常識に(うと)いことは認めるけれど、世間知らず云々を箱入り娘のミルファには言われたくはないなあ」


 技能構成は戦闘特化だけど、それでもミルファはお嬢だからかこちらも大概に庶民の常識からはズレていたりするのだ。

 後、普段でもポヤポヤはしていないと断言しておきます。


「まあ、世間の常識については二人とも追々理解してもらうとして。話を戻さないとまた怖いエルフのお姉さんに叱られてしまいますよ」

「ネイやん、そこでうちのことをダシに使わんといて!」


 ネイトが冗談めかして言った直後に、エルからの抗議の声が飛んでくる。

 思わず先ほどの光景が頭をよぎってしまい、びくりと肩をすくませながら周りを見回してみると、十数メートルくらい離れた場所でエルが魔法の明かりによって照らさし出されていたのだった。


「地獄耳……」

「誰が地獄耳や!石材で囲まれ取る空間やから声がよう響くようなっとるだけや!というか、ホンマに聞こえるんか試すのに悪口を選んでくるとか、どんだけ性根がねじ曲がっとんねん!」


 いやあ、打てば響くような良い反応をしてくれるから、ついね。


 それはともかくとして、今のは本当に小声でぽそりと呟いただけで、すぐ近くにいたミルファたちですら聞き取れるかどうかという声量だった。

 実際、ボクたちから少し離れて間近で壁画を見つめていたエッ君とリーヴには聞こえなかったもよう。

 だからエルが高性能な聴覚をもっているのは間違いのない事実だと思うよ。


「……あれだけ高い技量を持っている彼女がわたしたちに同行してくれているというのも不思議な話ですね」

「全くですわ。一体どうやってリュカリュカがエルを口説き落としたのか気になる……、いえ、それ以前にどうやって知り合ったのかということの方が疑問ですわね」


 君のところの実家の来客用の風呂場で命を狙われたのがきっかけですが、何か?

 と、当然その事は口外できるはずもない。エルは状況不利と見たのかさっさと調査を再開させていたし、ボクの方も余計なことを言ってしまいそうなお口にはチャックして、微笑みを浮かべて曖昧に誤魔化しておくことにする。


「くっ!その勝ち誇ったような笑みがムカつきますの!」


 おんやあ?渾身のアルカイック風なスマイルだったのですけど?

 リアルでは里っちゃんだけでなく雪っちゃんたち中学時代の生徒会メンバーにも「はあ……。癒される……」と好評だったはずなんだけどな。


「ミルファ、言葉遣いが悪くなっていますよ。あまり汚い言葉ばかり使っていると、宰相様に悪影響を受けていると判断されて、城から外に出られなくなってしまうかもしれませんよ」

「う……。それは困りますわね」

「それに、リュカリュカの妙な秘密主義は今に始まったことではないでしょう。いずれ洗いざらい吐かせてしまえばいいのですから、気にしないでおくのが一番ですよ」


 あれ?今度はどこかで聞いたような台詞が?

 ただし何倍も物騒な雰囲気になっておりますけどね!


「とにかく話を戻すと、ミルファの言った内容に似た話は私も聞いたことがあります。しかしそれの出所はどこかの町の酒場だったように記憶しています。ですから酔っ払いの与太話だと思って詳しくは聞いていませんでしたね」


 そういう事情なら仕方がないというものだ。リアルでもこちらでも、酔っ払いほど道理が通じない人たちというのはそうはいない。

 ボクだって同じ状況なら絡まれたくないと思って間違いなく逃げているだろう。


「……そういえばある町の神官様から興味深い話を伺ったことがあったのを思い出しました」

「どんな話?」

「海の彼方には、海で亡くなった人たちが行き着く島があるのだとか。そこには苦しみも悲しみもなく、人々はただ安息の中で日々を過ごしているそうですよ」


 こちらはいわゆる死後の世界、それも天国や極楽といった方面の話のようだ。

 ネイトにその話をしてくれた神官というのが海沿いの漁村出身だったそうで、その人の故郷に伝わる地域密着型の伝承らしい。

 こちらの世界(『OAW』)での世界宗教である『七神教』はあくまで大枠であり、その土地によって様々な土着信仰へと変化することを禁止していないため、こういう伝承が生まれ育っていくのだろう。


「そうした土地柄のためか、一昔前までは墓地というものがなく、遺体は海へと流していたのだそうですよ」


 へー、ほー、と思わずミルファと二人してネイトの話に聞き入ってしまったよ。それにしても相変わらず世界設定にはこれでもかというほどに様々なことを詰め込んできているね。

 もっとも、今回の壁画の手掛かりにはならなさそうなのが残念なところ。

 死後で、しかも安らぎを覚えるような場所であるなら、花畑や可愛らしい小鳥に小動物などの定番所が描かれているのではないかと思うのですよ。


 まあ、リアルの物品豊かな都会生活に慣れ親しんでいた人なら、そういう自然豊かな場所よりも壁画に描かれていた摩天楼が立ち並ぶところの方が心安らぐかもしれないけれど。


 一方で、人伝(ひとづて)に伝わったり長い年月をかけて継承されたりする過程で変化した可能性もないとは言えない。


 結局のところ、これもまた順位は低いものの候補の一つということにはなりそうだ。


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