258 地下遺跡へ
まさかボクが『エッグヘルム』のリーダーだと認知されていたとは、驚き桃の木バナナの木、だよ。
あれ?何かが違う?
そもそもバナナは木じゃない?
あれれ?まあ、バナナが大型の多年草だということはさておくとして。
「二人はボクがリーダーで構わないの?」
「あなたが作ったパーティーなのですから、あなたがリーダーになるのが当然ですわ」
「そうですね。私も元々そのつもりでパーティーに加入した訳ですから」
ボクの問い掛けに何を今さらと言わんばかりの顔で答えるミルファと、苦笑まじりに同意するネイト。
まぢですか。理解していなかったのはボクだけだったとは……。
「別に気が付いていなかっただけで、必要な役割自体はしっかりと果たしていましたから問題はありませんわよ」
「むしろあそこまで無意識にやれていたことの方が凄いと思いますがね」
二人の言葉は半分本心で、もう半分は凹んでいるボクのフォローという感じかな。
ボク自身すぐ近くに里っちゃんという優秀な見本がいたからなのか、「これくらいはできないとね」という思いが強かったりするので。
「まあ、その辺はやっている間においおい自覚も出てくるやろ。で、どうなん?調子が戻っとるようならそろそろ出発しよか」
「あ、そうだね。いつまでものんびりまったりとはしていられないもんね」
すっかりボクたちの定宿として定着してしまった『猟犬のあくび亭』の女将さん特製のお弁当を食べたことで、空腹度はゼロに近い数値となっている。
さらにステータスでパーティーメンバー全員の様子を大雑把に確認してみたところ、しっかりと休憩を取ったためか対ガーディアン戦で減少していたMPなどもほぼほぼ最大値まで復活していた。
これなら隠しパラメータの疲労度も回復してしまっていると思われます。
回復薬など消耗品の類も持ち込んだ分はそのまま残っているので、こちらも補充する必要はないだろう。
さすがに全方位死角なし!とまでは言えないけれどね。
「地下遺跡に進む用意はできた?」
いつの間に起きたのか、エッ君とリーヴも準備は完了しているようだ。
「わたくしはいつでも」
「こちらも問題ありません」
二人の言葉を受けて、エルに向かって小さく頷く。
さあ、いよいよ地下遺跡探索の始まりだ!
階段を降り切る所までは辛うじて外からの明かりが届いていたが、目の前は深い闇に包まれていた。
通路のようになっている左右の幅は、ボクが両腕を真っ直ぐ横に広げたよりも少し広いくらいだから、おおよそ二メートルといったところだろうか。
地面の土がそのまま剥き出しになっているのではなく、補強のためなのか石でできたタイルのような物が全面に貼られていた。
「魔物の気配は今のところありません」
「ですが、こう暗いと何も見えませんわ」
「せやな。という訳で遺跡探索の必需品の一つ目が明かりや。できれば〔生活魔法〕の【光源】が欲しいところやな」
頭上に浮かせられる上に自動で移動するので両手が自由に使える事、火とは違って空気の影響を受けることがない事などなどいくつもの利点を説明してくれた。
「ちゅうても松明には松明の良いところもあれば利用価値の高いところもあるから、余裕があるなら一、二本は持ち込んどくべきやな」
ダンジョン探索基本講座その一を終えると、エルは【光源】を使って周囲を照らす。
予想した通り通路のような形状で、天井はそれほど高くない。真上に片手を伸ばした状態で垂直飛びをすれば指先くらいは触れられそうだ。
その天井も壁と同じく石のタイルで隙間なく覆われていた。
そして肝心の正面だが、【光源】の明かりでは照らしきることはできずに、進むべき先は闇に飲み込まれていたのだった。
ちなみに、ダンジョンなどの中でのマップとマッピング機能は特殊で、初期設定の状態だとボクの視界の範囲内、つまりプレイヤー自身が直接見た範囲の情報だけがオートで記録され、そして視界の端に表示されるようになっている。
コアな人などはこのオートマッピング機能をオフにして自力でマッピングを行ったりしているそうだ。方向音痴でこそないが、特別方位感覚が優れている訳でもないボクには到底できそうもない芸当ですよ。
あらかじめ決めておいた例の隊列順になって通路の奥へと向かう。
が、時々エルが壁や床を調べ始めるので移動速度は極めて遅い。さすがに罠関係の技能を取得して育てるほどの余裕はない――エッ君が興味深そうに見ているのは、単に好奇心を刺激されたからだと思われます――ので、ネイトと一緒に〔警戒〕を使って魔物に備えることにした。
彼女が特に指向性を持たせずに周囲全体に向けているのに対して、ボクは後方に絞って展開していく。普通であればしっかりと調査を行って何もない事を確認した背後から魔物が襲い掛かってくること等あり得ない。
しかし、ここはどこからともなく魔物が出現する――ように設定されている――ゲームの世界だ。用心しておくのに越したことはない。
まあ、地下遺跡ということで、魔物だけが通れるような隠し通路や隠し部屋が作られている可能性も無きにしも非ずだし。
そんなことを考えている間にボクたちは通路の突き当りにまで来ていた。
そう突き当り。
つまりは行き止まり。
「どゆこと?」
もしかして隠し通路か何かを見落としていたのだろうか?
だけどその役を担ってくれたのはその道の専門家でありとんでもないレベルのエルなのだ。今のボクたちからすればチート並みの能力だと言っても過言じゃない。
そんな彼女が見落としてしまうなどということがあるのだろうか?
「調べるからちょっと待ちいや。……ん?ここになんかあるで」
ぺたぺたさわさわと突き当りの壁に張り付くようにして探っていたエルが何かを発見したようだ。
「……何も見えませんわよ?」
「見ただけでは分からんようになっとるんよ。直接触ることでようやく判別できるかどうかくらいの凹凸があるんや。」
頭上に漂わせていた魔法の明かりを壁の側ギリギリにまで近付けて見せてくれたところ、周りは磨き上げたかのようにツルツルなのに、そこだけは不規則な影がほんの少しだけ浮かび上がってきたのだった。
「お、おおー……。確かにエルが最後に触っていた辺りだけ影ができてる……。これ、ボクたちが触っても大丈夫?」
「罠がないんは確認済みやから構へんで」
そう言う彼女の顔には人の悪そうな笑みが浮かんでいた。これはまだボクたちに内緒にしている情報があるようだ。
あっさり許可を出してくれた裏には、それに勘付くことができるのか試す意味合いがありそうだ。
いいでしょう。
その挑戦、受けて立つよ!




