257 ビックリな新事実の発覚
「さあ、今日も一日がんばろー!」
ログインして早々にそう告げるボクを、みんながポカンとした顔で見つめている。
おやおや?一体どうしたというのかね?
余談だけど、ボクのテンションが高いのには昨日の一戦でエルを除く全員のレベルが一つ上がっていることも関係していたりします。
「お嬢、またリュカリュカが変なこと言い出したんやけど?」
ぼそぼそとミルファの耳元で失敬なことを呟いているのは一早く復活したエルだ。内緒話を装ってはいるけど、それって全然隠すつもりないよね?
「割といつもの事ですわね。あなたも早くなれるようにしないとこれからが大変でしてよ」
「あ、あはははは……」
ミルファさんや、あなたの毒舌も割といつもの事になりつつあるのですが気付いてますか?
ネイトに至っては笑って誤魔化すだけで止めもしなければ訂正すらしてくれないし。仲間たちの熱い友情に思わず目から汗が出てきそうになりますよ!
まあ、個人的にも今の一言は「あ、やっちゃった……」と思っているから、くどくどと文句を言い募ることはしないけれどさ。
ボクにとってはリアルでの生活を終えて約一日ぶりでも、ゲーム内だけのミルファたちからすればガーディアン戦終結後のお昼ご飯タイムを終えてからわずか二十分ほどしか経っていないことになっているので。
ちなみに、うちの子たち二人はお弁当を食べ終えた――エッ君にはみんなから「食べきれないのでお裾分け」という体で食べさせた――後のボクのお昼寝タイムという名のログアウト、ログインに付き合ってくれていたためか、まだ夢の中のようです。
ボクがログインする頃合いに合わせて起きてくる仕様になっているようなので、そろそろ起き出してくることだろう。
「それでエル、これから地下遺跡に潜入していく訳だけど、あらかじめ何か注意しておくことはあるかな?」
ボクの問い掛けが真面目なものに変わったことによって、エルの方もそれ以上は茶化すことなく考え始めてくれた。
そして待つこと三十秒。「全員ダンジョンとか遺跡は初挑戦やったな」と前置きしてから話し始めた。
「昨日打診があってから必要になりそうな道具類は一通りうちが揃えとるから、基本的には勉強と見学やな。はっきり言うて事前知識もない初挑戦のあんたらができる事はなんもあらへん。というか頼むから余計なことはせんといて。冗談やなしにダンジョンの中では一人の迂闊な行動がパーティーを全滅させることもあるんや。まずはそのことをしっかり心に刻んどいて」
いつになく真剣で厳しい口調のエルに、ボクたちはゴクリと喉を鳴らす。
「特にリュカリュカ。エッ君は好奇心が旺盛みたいやからしっかり言い聞かせといてな」
「了解です!」
ビシッと敬礼でもって返すと、なぜか胡乱な表情をされてしまった。解せぬ。
「まあ、余裕があるようならできるだけ解説するから、実地訓練やと思うてしっかりうちの後をついてきたらええわ。ああ、でもリュカリュカとネイやんは〔警戒〕技能持ちやったっけか?」
「その技能なら持っているよ。ところで、なんで二人は愛称っぽい呼び方なのにボクだけはそのままなの?」
「そうかそうか。まあ、その質問は明後日の方に放り投げとくとして」
放り投げられた!?
しかも明後日の方向って回収する気なしだよね!?
「恐らくうちは罠があるかどうかを調べるんに手一杯になると思うから、魔物が近くにおらんか〔警戒〕で探っておいて欲しいんよ」
「分かりました。そちらの方は任せてください」
「いざ魔物が近寄って来た時にはわたくしに任せて欲しいですわ」
「あないなガーディアンが番しとったくらいやから、地下遺跡の方にもどんな魔物が潜んどるか分からんよって、くれぐれも慎重に頼むで」
がびーん!とボクがショックを受けている間に色々なことが決まっていく。
まあ、エルにはそのために助っ人に来てもらったのだから当然の行動ということにはなるのだろうけれど、なぜか微妙に腑に落ちないと感じてしまうのは、ボクの心が狭いからなのだろうか。
後、隊列を決める時くらいはせめてボクにもしっかりと声を掛けておいて欲しかったなあ……。
ちなみに、その隊列順がこちら。
まず先頭には罠がないか等を調べるためにエルが就くことに。
二番手には戦闘要員のミルファだ。ただし状況に応じてエルの護衛役も熟さなくてはいけないということで、エッ君が補助に付くことになっている。
好奇心の赴くままに走り回ったりしないように、よく言い聞かせておかないと。責任重大だよ。
三番目はメインの〔警戒〕要員兼回復役兼戦闘補助となるネイト。敵は何も前方からばかり現れるとは限らない。そのため隊列の中心となる場所に彼女を置いておくのだとか。
四番目、主役は遅れてやってくるという訳でついにボクの登場です。役割としてはネイトの護衛とサブの〔警戒〕要員といったところ。他にも臨機応変に戦闘に参加することになっているよ。
最後尾にして五番手はリーヴ。言わずと知れた背後からの奇襲対策だ。魔法生物系なのでほとんどの状態異常は受け付けないし、防御力も高いので危険が伴うこの位置にはうってつけということらしい。
「という感じやけど、どない?」
「配置理由も良く分かるし、いいんじゃない。というかなにゆえボクに聞くの?エルの方が経験者なんだから良く分かってると思うんだけど?」
「いや、それでも最終的な決定はリーダーであるあんたがするもんやろうが」
うん?
何やら聞きなれないワードが飛び出してきませんでしたか?
「リーダー?」
「リーダー」
コテンと小首を傾げながら呟いたボクに対して、ピコンと一本立てた指をこちらに向けながら同じセリフを口にするエル。
傾いた首の角度を深くしながらくるりと体の向きを変えたところ、
「リーダー」
エルと同じポーズでもってハモってくるミルファとネイト。
「え?ボクってリーダーだったの!?」
「気付いてなかったんかい!」
即座にエルが突っ込んできていたけれど、それどころじゃない。
何とビックリ驚きの新事実が発覚ですよ!?
というのも、ボク個人としては精々が会話やら何やらのまとめ役くらいにしか思っていなかったからだ。ゲームシステム的にも世界観的にも知らないこと、分からないことだらけなので、皆から色々意見を言ってもらったり説明してもらったりしてばかりだったのに、まさかリーダーとして認知されているとは予想外だったよ。
余談だけど、戦闘で指示を出していたのは中衛で戦場全体を把握する必要があり、指示を出しやすい立場にいたからというだけのつもりだった。
実際、ボクが前線に出ている間はネイトがその役を担ってくれていることも多かったしね。
ただ彼女の場合は、魔法による回復役や補助役を兼ねているため、常に指示を出すことができないという部分もあったのだった。




