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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第十八章 砦跡の調査

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256 倒したけれど

 ボクとエッ君とミルファの三人で攻撃したお陰で、ガーディアンの炎弾まき散らし攻撃は開始から十秒ほどでキャンセルすることができた。

 そしてその後の『輝け!第二回ガーディアンをボコボコにするぞ選手権大会』でボクたち全員に叩きのめされて、舞台から退場していくことになったのでした。


 と、文字にするととても楽勝だったように思えるかもしれないけれど、実際には相当ギリギリの状況だった。

 後衛で回復のネイトですら攻撃に参加しなくてはいけなかったという時点で、どれだけ僕たちが追い詰められていたのかが分かってもらえるのではないだろうか。

 何とか敵が反撃を始めるよりも先にHPを削りきれたというのが正確なところ。


 行動不能状態が解除されて動き出した瞬間には、ガーディアンの瞳がギラリと真っ赤に光り輝いていたので、あのままであれば盤面を引っ繰り返してボクたちの努力を全部無に帰してしまうような凶悪な必殺技が放たれていたとしてもおかしくはなかったとおもう。

 【流星脚】で止めを刺したエッ君は大金星でありボクたちのパーティーの救い主だったと言えるだろうね。


「エッ君、ガーディアンが動き出そうとした時にボクは「下がりなさい」と言ったはずだよね?結果的に倒すことができたから助かったけれど、そうでなければ君はあそこで死んでいたかもしれないんだよ」


 とはいえ、それはそれこれはこれ。

 今言ったように、あの時のエッ君は完全に命令無視をしていたため、現在お説教の真っ最中となっております。

 エッ君本人も結果として上手くいっただけだということは理解しており、お説教を開始した直後からしゅんと小さくなっていたのだった。


 なぜボクがここまで強く叱っているのかと言えば、〔不完全ブレス〕の存在があったためだ。『オブジェクト破壊』効果による周囲の被害もさることながら、この技能はこの子に決して軽くはない負担を強いてしまうものだった。


 実際に公式イベント二日目のエキシビジョンバトルで使用して以降、エッ君は調子を取り戻すことができずに何と丸一日以上『ファーム』から外に出てくることができなかったほどだ。

 一種の夢の中という扱いであったの場ですらそうなってしまったのだから、これが本編のワールド内であればどれほどのことになってしまうのか、考えるだけで恐ろしいよ……。


 そして、テイマーとテイムモンスターの『親密度』や『信頼度』によっては勝手な行動を取り易くなることがあるそうだ。

 これらは完全な隠しパラメータであり、この呼び方も『笑顔』のプレイヤーたちが色々と検証する際に便宜上そう呼んでいるだけのものだったりする。


 そして厄介なのが、この二つのバランスによっては高い数値を維持していた――と思える状態だった――としても、テイムモンスターは独自の思考による動作を行ってしまうことがあるという点だ。

 例えば、『信頼度』がそれなりに高くとも『親密度』がとてもとても高い状態だと、命令違反となってでもテイマー本人を守るような動きをすることがあるのだという。


 これ、先ほどのエッ君の行動にも当てはまると思いませんか?


 つまりエッ君は、ガーディアンを倒しきることでボクを守ろうとしていた可能性があるのだ。

 今回使用したのは【流星脚】の闘技で、加えて無事にHPをゼロにすることができた。しかし、もしもあの時〔不完全ブレス〕を使用していたならばどうなっていただろうか。

 砦跡どころか地下遺跡まで崩壊していたかもしれないし、何よりエッ君の命の灯火を消し去ってしまうことになったかもしれないのだ。


 こうした事情があり心配の芽を早々に摘んでおくためにも、しっかりとお説教を行うことにしたのだった。


「ちゃんと反省はしてくれているようだけど、やってしまったことが事だからね。罰として今日のお昼ご飯は抜き、魔石だけです」


 そう告げた瞬間、エッ君の頭上には暗雲が立ち込めて背後にピシャーン!と雷が落ちる。

 ……ような光景を幻視してしまいました。

 まあ、それくらいショックだったようで、あからさまにズドーンと落ち込んでいたのだった。それを見てリーヴが慰めるべきなのか、それとも見守るだけにしておくべきなのかとオロオロしていた。


 余談だけどドラゴンの生態は特殊で、こちらの世界での一般的な動物とも異なっているそうだ。

 生命維持のためのエネルギー等の補給も必ずしも食物から取る必要はなく、一定量の魔力さえ吸収出来れば問題なく活動できるらしい。

 ソース元はブラックドラゴンなので間違いないです。


 そのためエッ君も魔石さえあげていればご飯を食べる必要はないのだけれど……。生来から食いしん坊気質だったのか、それともボクたちとの生活ですっかり食べることの楽しみに目覚めてしまったのか、やたらと食べることにこだわるようになってしまっていたのだった。

 まあ、リーヴも魔法生物のはずなのにやたらとご飯を食べたがるし、きっとその辺は個人差、個体差ということなのだろうと無理矢理納得することにしている。


「あの、リュカリュカ?エッ君が反省しているのはあなただって分かっているのですから、お弁当は食べさせてあげても良いのではないですか?」

「ダメダメ!罰は罰としてしっかり受けさせないと!なあなあの態度を続けていれば、いつしか関係も適当なものになっちゃうもの!という訳でエッ君の分はみんなのお弁当に上乗せしておくからね。ちゃんと処分してね」


 言いながらこっそりとウインクすると、ボクの意図を悟ったらしいネイトたちはにっこりと笑い返してくれた。

 が、落ち込んでいるエッ君とそれを慰めていたリーヴは、お昼ご飯を食べ始めるまでボクたちのやり取りの裏側に気が付くことはなかったのでした。


「それにしてもあれだけの強敵を倒したというのに、得られたのがこれだけというのは肩透かしというか残念なことでしたわね……」


 眉根を寄せながらミルファが差し出してきた二つのそれは、赤く色づいた宝玉のような物だった。

 と言っても真紅だとか透明感のある赤ではなく、どす黒く淀んだ色合いだったけど。


「『緋晶玉』ねえ……」


 ボクが〔鑑定〕によって知ることができたのはその名称のみ。うぬぬと思いながらエルにもお願いしてみたのだが、


「あかん。うちでも分かったんは内包していた力を使い果たしとるっちゅうことだけや」


 やれやれ……。

 ようやっとのことで倒したというのに、あのガーディアンめ、とんでもない置き土産を残していってくれたようだ。


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