255 弱点発覚
炎弾雨あられな攻撃が追加されてしまったことであっという間に形勢逆転されてしまったボクたち。
が、実はこの技には意外な落とし穴というか弱点が存在していた。
それを発見できたのはひとえにボクの優れた観察眼の賜物で……。
すみませんごめんなさい。嘘です。まったく偶然の産物でした。
既に説明した通りこの技には溜めの時間が存在している。この間にも多少の攻撃はしてくるものの、基本的には防御重視でありこちらからすれば攻撃の機会ということになる。
のですが、だ。後に大技が控えていると思うと、ついつい気持ちが焦ってしまいがちになってしまっていた。
そのため連携が上手くいかないどころか、
「【ピアス】!あ、あれ?」
「なにやっとるのよ!やるならしゃんと決め!」
攻撃のタイミングがズレてしまってせっかくの闘技がほとんど空振り状態になってしまうだとか、
「しまった!?きゃう!」
「【ヒール】!ミルファ、一度下がって周囲をよく見て!」
逃げる方向を間違ってしまい余計な損傷を受けてしまう等々、全体的に動きが雑になってしまっていたのだった。
そしてこの時もボクは攻撃することに夢中、というか何とかしないといけないという強迫観念にとらわれてしまっていた。
「リュカリュカ!?」
悲鳴じみた声でみんなから呼ばれたと気が付いた時にはもう遅く、ほぼ目の前で炎弾が発射されそうになっていたのだった。
今から走ったところで降り注ぐ数が少なくなる場所にまで辿り着くことはできない。そんな絶望的な状況を理解してしまったというのに、ボクの心は黒く染まったりはしなかった。
正直なところ、後から思い返してみてもこの時のボクの思考はぶっ飛んでいたとしか言いようがない。
もったいつけても仕方がないので素直に言ってしまいますと、逃げられないと悟った次の瞬間にボクが思い付いたのが、
「あ、屋根がある」
だった。まあ、これだけでは意味が分からないと思うのでもう少し詳しく説明すると、ガーディアンは炎弾を吐く時、途中で止められないようにするためなのか体を大きく持ち上げてできるだけ高い位置に頭を持っていこうとしていた。
四肢――元々歪な上にこの時には右前足がなくなっていたけど――は伸ばされていて、胴体の下にはなんと屈めば潜り込める程度の空間が開いていたのだ。
ここまで言えばもう分かってしまったよね。
ええ、もちろんそこに逃げ込みましたとも。罠かもしれないなんてことは少しも考えずにね。
実際『笑顔』ではそういうえげつない仕様の攻撃をしてくる巨大レイドボスもいたらしいです。わざと自分の下に逃げ込ませておいて、その巨体でもってプチっと潰してきたそうだ。えぐい。
レベルの低いボクたちパーティーに合わせてくれたのか、それとも元より組み込まれていなかったのかは不明だが、幸運にもガーディアンはそうした罠を仕掛けてくるようなことはなかった。
それどころか炎弾発射中はそれのみに掛かりきりになって、他の動きを一切しないようになっていたのだ。
「えいえい」
そのことが分かったのは、目の前に晒されている無防備なお腹をプスプスとハルバードの穂先で突いてみたからだ。
いや、何と言いますか逃げ込んだまでは良かったけれどそこから動くこともできないし、ぶっちゃけ暇だったのですよね。
それで無反応なのをいいことにプスプスと延々突きまくっていたら……。
「ギャ、ギャオッスー……」
といつもの気合の抜ける鳴き声が聞こえてきたかと思うと、いつもより早く――と言っても精々二、三秒くらいなものだったけれど――炎弾発射が終了したのだった。
さらにこれまでにはなかった疲れ切ってへばるような動きを見せたのだから、さあ大変。
「ちゃーんす!全軍とっつげきー!」
ここぞとばかりに攻撃を加えるボクたち。特に【三連撃】に【クロススラッシュ】、【マルチアタック】といった複数回ヒットする闘技持ちの三人は水を得た魚のようになっていた。
これは後から聞いた話だけど、こういう技はフェイントなども含んでおり、なかなかすべての攻撃を綺麗に当てることはできないのだそうだ。その点ガーディアンは巨大な上に行動停止ペナルティ状態だったので、気持ち良いほど全弾クリーンヒットになったのだとか。
そんなハイテンションになりつつあった接近戦闘組に対して、遠距離アンドサポート組の二人は冷静に状況を見てくれていた。
「敵が動き出しそうや!」
「全員下がってください!」
行動再開の合図である微かな身動ぎを見逃すことなく教えてくれたお陰で、被害を受けることなく距離を取ることができたのだった。
敵のHPは……、おおう!なんと残り三割を切っているではないですか!
どうやらあの無防備状態の間は防御力も低下するもようです。
その後ガーディアンはこちらを警戒してなのか通常攻撃のみの対応となっていたが、しばらくするとまたもや炎弾発射準備のため防御中心の動きへと切り替わった。
あー、こういうパターン化された動きを繰り返すところを見ると、ここはやっぱりゲームの世界なのだなと思い知らされるね。
「ネイトとエルは観察とフォローをよろしく。リーヴは二人の護衛に回って。エッ君とミルファはボクと一緒に牽制と妨害の準備。炎弾発射へ変わった瞬間に懐に飛び込んで動きを止めるよ」
微妙に白けつつある気持ちを無理矢理心の片隅へと追いやり、みんなに指示を出していく。
例えパターン化されて一定頻度の割合で繰り返される動きだとしても脅威であることには変わりはないのだ。今はまず、しっかりと倒しきることを最優先にしないとね。
そして溜めの期間を終えたガーディアンの動きが変わる。
「今!二人とも一気に削って!」
安全圏である胴体の下に潜り込むことはそこそこにして、敵の行動を早々にキャンセルするため闘技の使用も含めて攻撃していく。
とはいえ、さほど広い空間ではないため、どうしても動きが制限されてしまうのがいたいところだ。
最初の一撃はともかく、結局はプスプス攻撃に終始することになってしまった。ミルファも似たようなものだったが、両手にそれぞれ武器を持っていることから回転率は高くプスプスプスプスになっていた。
一方で、体格が小さいエッ君はある意味独壇場と言える活躍を見せていた。
ちょっ!?今の【昇竜撃】で一瞬ガーディアンの体が浮き上がらなかった!?数十倍の体積の相手を浮き上がらせるとか、もう、ホントにどんだけですか……。
再び「ギャ、ギャオッスー……」という情けない悲鳴が上がるのも時間の問題になりそうだよ。




