253 ドラゴン風ガーディアンゴーレム
ボクたちのパーティーで回復役といえば、言わずと知れたネイトとなる。
その的確な判断と〔回復魔法〕によってこれまで何度も窮地を救ってくれており、まさにパーティーの守り神だ。
そんな彼女だけれど、戦闘開始直後から序盤にかけては主に別の役割を担うことになる。
「敵の強さがどれくらいか分からないから、防御優先でお願い!」
ボクが言わずとも恐らくは元よりそのつもりだったのだろう。小さく頷いたかと思うと、すぐにネイトから【ガードアップ】の魔法がミルファへと飛んでいた。
対象の選択も絶妙だったね。左手に防御用の短剣を持つとはいえ、盾持ちのリーヴに比べるとどうしても防御面でミルファは脆い部分があるからだ。
「く!……ふっ!」
落ちてくるような鋭い爪の一撃を、ミルファは横から短剣をぶつけることで強引に軌道を変えてく。
こんな無茶ができるのも防御力が上がっていたからこそできる芸当だ。もっとも無理がたたったのか、当たっていないにもかかわらず彼女のHPは大きく減少していた。
「ミルファのおバカ!向こうの得意そうな力で対抗してどうするの!ちゃんと自分に有利な方へと引き込みなさい!」
即座に先ほど作ったばかりの回復薬をぶつける。お説教も一緒に飛び出したのは彼女を心配するがゆえの事だったということで。
当の本人からは「痛いですわ!?」と文句が上がっていたようだが気にしない。後頭部に直撃してしまったのは偶然です。
こうした間にもガーディアン、正式名称ドラゴン風ガーディアンゴーレムの攻撃は続いていた。
が、首を振って頭頂部の角による攻撃は、本家本元ドラゴンであるエッ君にひらりと軽やかにかわされ、広範囲を巻き込もうと企んだ尻尾の薙ぎ払いは、リーヴの【ハイブロック】によって出始めで止められてしまっていた。
さらにエッ君は【三蓮撃】で、リーヴは【クロススラッシュ】による反撃をしっかり決めて痛撃を与えていた。
ただでさえ情けない顔なのに「ギャオッス、ギャオッス……」と悲鳴まで何だか情けなくて、微妙にこちらが悪いことをしているような気分になってしまいそうだ。
まあ、その点は何とか耐えるとして、このまま某狩ゲームのように部位破壊とかできたりしないかな?
アイテムドロップが増えるかもしれないというのもさることながら、あちらの攻撃手段を減らすという意味でも効果的なので狙ってみてもいいかもしれない。
「二人はそのまま攻撃!特にリーヴは尻尾を切り落とせないか試してみて!」
リアルでの動物の話だが、長い尻尾は体のバランスをとるために使われていることが多いらしいです。それがなくなってしまうとなれば、様々な行動に悪影響が出るのではないかと思ったという訳。
さすがに四本足なので立てなくなるということはないだろうが、移動や攻撃時の動作に支障が出る可能性は十分にある。
「エルは一人に攻撃が集中しないように、適度に嫌がらせを仕掛けておいて」
「了解や。任せとき!」
いくら彼女が冒険者としても優れているとはいっても、いきなりボクたちに合わせて動くことはできないだろう。
そのため、比較的自由に動けるようにしてあげた方が本領を発揮できると考えたのだ。
さて、それではボクもそろそろ本格的に参戦といきましょうか。
うん。どうせ接近戦ともなれば魔法を使う余裕なんてないだろうから、まずはド派手にやっちゃいますか!
「思いっきりいくから、みんな離れて!」
「なっ!?エッ君、リーヴ!退避しますわよ!」
いやいや、そんな大慌てで逃げなくても、ちゃんと巻き込まないようにするってば。友情に満ち溢れたミルファたちの反応に、ボクの目からも大量の汗が流れ落ちていきそうだよ……。
むむう。こうなったらこの負の感情もまとめてガーディアンへとぶつけてやりましょう、そうしましょう!
「いっけえ!【アクアボール】!」
これでもかというほど念を込めに込めまくった魔法を解き放つ。
不細工な造形のためなのか、それともゲーム的な仕様なのかは不明だが、ろくに避けることもできなかったガーディアンの胴体にそれは命中し、炸裂したのだった。
「ホンギョエー!」
そしてまたしても響き渡る間の抜けた悲鳴。気合いとか戦意とか色々と大切なものが抜けていきそうだから止めて欲しいんですけど。
へにゃへにゃと崩れてしまいそうになる足を叱りつけて、接近戦を仕掛けられる位置まで近付いて行く。
こいつってば姿形は奇妙で変なくせに眼光だけは鋭いね。その目は剣呑どころか強烈な敵意を宿してボクを見据えていた
「ミルファはボクと一緒に囮係だよ。やれる?」
「もちろんですわ!」
気負いも不安もない返事に内心ほっとする。どちらかと言えば彼女は攻撃寄りだからエッ君同様遊撃の方が持ち味を発揮しやすいのだ。
しかし現状、リーヴでなければあの尻尾攻撃を止めることはできない。そのためどうしても今回は盾役もできる彼女に正面に居てもらわなくてはいけなかったのだった。
「わたくしよりも、あなたの方こそ大丈夫ですの?」
投げ掛けられた言葉同様、こちらを見つめるミルファの目は真剣そのもので。
まったくこの子は……。普段はどこか抜けたところのあるお嬢なのに、こういう時だけは目端が効くようになるんだから。
「正直に言ってこんな大きな敵の前に立つのは怖いよ。でもね、ボクはもっと色んな所へ行って色んな景色を見てみたい。だからこんなヘンテコモンスター程度で立ち止まっていられない、よ!」
叩きつけられるように振り降ろされた右前足を大き目のサイドステップで左側へとかわす。
反対の右側にはミルファがいるはずだ。
「やるよ!」
「ええ!」
短いやり取りの後、ボクたちの声が重なる。
「【スラッシュ】!!」
狙うは攻撃の直後で無防備になっているその右前足だ。ほとんど同じ個所にハルバードの斧刃と細剣の刀身が殺到する。
そのまま勢いを殺すことなく二つの凶刃は前足の中へと潜りこむと、一瞬の後に反対側から姿を現した。同時にガーディアンがこれまた情けない叫びをあげて大きくその体勢を崩れさせる。
「うっひゃあ!?」
潰されないように慌てて飛びのくボク。見れば土煙の向こうにミルファたちの姿が見える。どうやら全員無事に退避できていたようだ。
「グオオオ……!」
そして怒りに満ちた瞳もまたこちらを見ている。
よろけつつ立ち上がったガーディアンだが、その右前足は切り取られて消滅していた。




