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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第十八章 砦跡の調査

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252 ポチっとした結果

 エルがレバー型の仕掛けを操作したことで二つの変化が生じていた。

 一つは予想していた通り入口の登場。〔鑑定〕技能で偶然見つけた『地下遺跡の入り口』と表示されていた辺りの石がゴウンゴウン動いて、あっという間に地下へと続く階段が出現したのだった。


 そして、もう一つの変化がこちら。


「光が、集まってくる!?」


 砦跡の中央付近にキラキラとした光が集まって来たかと思えば、徐々に輝きが強まっていた。


「あれはダンジョンとかで特別な魔物が現れる前振りや!全員用心しいや!」


 なんですと!?

 エルの言葉をゲーム的に翻訳するなら、それってつまりボス級モンスターが登場する時の演出ってことだよね!?

 でもでも、普通そういうボスモンスターって最深部にいるものじゃないの!?

 まさかの初手からの出現とかどんな嫌がらせだ!?


 と、愚痴っていたところで状況が改善するはずもなく。

 それなら今できる事からやっていかないとね。まずはいつでも戦いに移れるようにアイテムボックスから武器を取り出し……、おおう!そういえばさっき製作したばかりの回復アイテム類があったのだった。


「みんな!これを持っていて!」


 幸いにもまだ戦闘状態(バトルフェーズ)には移行していないので、パーティーメンバーそれぞれのアイテム欄へと直接移動させることができた。

 そして最後のリーヴに渡し終えたところで、ついにボスモンスターがその全貌を露わにしたのだった。


「ギャオッスー!!」

「……………………」


 出現して早々に咆哮するボスモンスター。

 が、ボクたちはそれに対して呆然と見つめるより他なかった。


 理由の一つがその変な鳴き声だったのだけど……、それも見た目の衝撃に比べれば可愛らしいものだっただろう。

 なにせ現れたそれはとてつもなく不格好だったからだ。


「何なんですの、あれは……」


 強いて言うなら、小さな子どもが泥や粘土で作った何かをそのまま巨大化させた、ということになるだろうか。辛うじて頭らしき部分がある事や四本足である事などが察せられた。


「謎生物?ううん、むしろ生き物を模しているのかどうかすら定かではありませんね……」


 つまりは謎物体ということだね。

 チラリとエルへと視線を送ると、ゆるゆると静かに首を横に振っていた。冒険の経験豊富な彼女ですらも見たことのない姿形であるらしい。


「リュカリュカ、〔鑑定〕をお願いします!」


 そうだった!

 こんな時こそこの技能の出番で本領を発揮する絶好のチャンスではありませんか!


「〔鑑定〕!」


 スキャンビーム発射!

 みーっ!


 ……いや、そんな演出はないんだけどさ。あえて演出を入れるとするならそんな感じだったということで。


「出たよ!敵はレベル二十二の『ドラゴン風ガーディアンゴーレム』!?うええ!?あれってドラゴンのつもりだったの!?」


 エッ君の方はともかくとして、ブラックドラゴンという現物を頻繁に目にする機会のあるボクたちからすると、目の前のそれは彼とは到底似ても似つかない奇妙な何かにしか見えなかったのだった。


「そ、それは一旦横に置いとくとして。ガーディアン……、つまりこいつは地下遺跡の番人っちゅうことやな」

「しかもゴーレムということなので、生き物のような弱点が存在しません。レベル以上の頑丈さとしつこさがあると思っておいた方がいいでしょう」


 無機物なら公式イベントのロボットとさんざんやり合ったのでお手の物、とまではいかなくてもそれなりに対処の仕方は理解できていると思う。

 ちなみにガーディアンゴーレム――例え()なだけだとしても、これをドラゴンと呼ぶのはボクの美的感覚が許さなかった――は体高が二メートル強で、頭らしきところから尻尾の先までの長さがおよそ三メートルという、それなりに大きな体躯をしていた。


「予想できる攻撃手段は頭っぽい所にある口の噛みつきや、両方の前足っぽいものでの鉤爪攻撃といったところかしら」


 既に二本の剣を構えているミルファは準備万端といった雰囲気だ。まさか公主家の御令嬢がここまで戦闘狂だとは彼女の御先祖様でも思ってもいなかったに違いない。


「あれがドラゴンやって言い張るつもりなら、尻尾の叩き付けやブレスを真似た攻撃もあるかもしれんで」


 エッ君の〔不完全ブレス〕によって大穴が開いた巨大ロボの様子と、『オブジェクト破壊』なる効果が付与されているという運営の説明を思い出してしまい、ボクの顔は知らず知らずのうちに青ざめてしまっていた。

 そんなボクに気が付くこともなく仲間たちの会話は続く。


「近距離だけではなく中距離や遠距離にも対応していると?だとすれば厄介ですわね」


 ミルファさんや、そう言いながらも笑顔になっているのはどうしてなのでせうか?いつから君は強敵なほど燃える少年誌バトル漫画の主人公になったのよ!?

 しかしながらやる気となっていたのは彼女だけではなく、うちの子たちを含む他のメンバーも同様だった。

 ネイトなど小声でぶつぶつと呟いているところを見るに、すぐにでも〔強化魔法〕が使用できそうだ。


 余談だけど、リアルでもワニや大トカゲといった大型爬虫類の尻尾は凶器扱いされており、ものの本によればもっとも危険な攻撃手段だとみなすこともあるそうだ。


 そんなこちらの様子を察したのか、ガーディアンゴーレムの瞳らしき部分に剣呑な色に染まっていく。

 直後、その口から直系五十センチほどにもなる炎の塊が吐き出された。


「うわっとお!?」


 急いで緊急回避することで事なきを得たボクたち。

 唯一の被害はネイトの準備していた〔強化魔法〕はキャンセルされてしまったことかな。


「ネイトは一旦距離を取ってから〔強化魔法〕を!リーヴとミルファは陣形が整うまで壁役に徹して!エッ君は近付き過ぎて反撃を受けないように注意して!エルはエッ君のフォローをお願い!」


 素早く全員に指示を出しながら、火球の命中した場所を見やる。

 特に周囲の草へと燃焼していたり地面が抉れたりもしていないようだ。どうやらあれはブレス攻撃を模した魔法のようなものらしい。

 そうと分かれば一安心。少なくともガーディアンゴーレムの攻撃で地下遺跡が崩壊してしまうような事態は発生しないということだから。


 気を取り直すと目の前の敵に集中するべく、リーヴとミルファの後方へと陣取るのだった。


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