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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第十八章 砦跡の調査

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245 エルフちゃん、参入

 波乱尽くめだったかもしれない『笑顔』との合同公式イベントも終わり、チーミルとリーネイについての報告も終えたということで、ようやく気兼ねなく本編の方へと戻ることができるようになった。


 リアルでもゲーム内でもそこそこ忙しい毎日を過ごしていたボクだけど、その一方でワールド内のクンビーラにも色々と変化が生じていた。

 とはいえ、ある一点を除けば当事者たち以外に話題に上ることもなかったので、それほど大したことじゃなかったのかもしれない。

 まあ、反対に言えばそれだけその一点が異様だということになるのかもしれないけれど。


 で、その一点というのは……、長々と説明するよりも実物を見てもらった方が早いだろう。


「という訳で、あちら、クンビーラの街上空をご覧ください」


 どこかの観光ガイドよろしく、ちょっと大げさに右手を上げてそちらの方向を示してみる。


「今日も良い天気ですわね。青空に白い雲と黒い竜が映えますわ」

「もうすっかりおなじみの光景となりましたね」

「いやいや、ちょっと待ちい。あのブラックドラゴンのことも突っ込み所満載やけど、なんで二人ともリュカリュカの突然の奇行に当たり前のように反応してるんよ」


 順にミルファにネイト、そしてエルフちゃんの台詞となります。

 それにしても奇行とか酷くない?腹立たしいのでスルー決定です。


「短い期間で街の人たちがブラックドラゴンさんに慣れてくれて良かったよ」

「それは式典とその後の宴会が功を奏した形ですね。やはり間近でブラックドラゴンを見ることができたのが良かったようです」


 人数制限はあったけれど、クンビーラに住む一般の人たちにもブラックドラゴンと接する機会を設けたのだそうだ。特に尻尾に触らせてもらえた子どもたちには大好評だったのだとか。


「今となっては外部からやって来た初見の者でもなければ、驚くような人はいなくなりましたわね」


 それとてクンビーラにやって来る際に街の外で目撃していることも多いので、今のように上空を飛んでいる姿を見たくらいで取り乱してしまうような人はまずいないのだそうだ。

 慣れって凄いね。まあ、エルフちゃんはまだ言いたいことがあるような顔をしていたけれど。


 さて、そのエルフちゃんですが、今日に限ってなぜボクたちと一緒にいるのかというと、ボクが同行をお願いしたからだ。

 より正確に言うと、例の墳墓探索を進めるために探索系の技能()持っているだろう彼女に協力をお願いしたのだ。一応、形式的には宰相さん(ミルファパパ)にそうした人材を派遣してもらえるようにお願いしたということになってます。

 現在エルフちゃんはクンビーラ周辺の裏の情報収集役として宰相さん直属の配下となっている。つまりクンビーラを、引いてはボクたちを裏切る心配がない相手だと言うことができるのだ。


「さすがに数代前の公主様のお墓ともなると、どんな秘密が飛び出してくるのか分かったものじゃないから。信頼ができて、なおかつ口の堅い人が必要だよ」


 という訳です。もっともこれはミルファたちに彼女の同行を納得させるために必要な内容であり、ボク自身としては『毒蝮』捕縛までの一連の流れに協力してくれたこと等から、裏切りの心配は一切していなかったのだけれどさ。


 ちなみに、「エルフちゃん」では呼びにくいので、今回同行している最中は「エル」と呼称することになっています。

 エルフだから「エル」……。とてつもなく安直だけど、彼女の立場や存在を理解するためにはこの上なく分かり易い臨時の偽名なのかもしれない。


「それにしても、お父様がエルのような方を配下としていただなんて知りませんでしたわ」


 そう呟くミルファの顔には自分の知らない父親の姿があることへの不満が見て取れた。


「ミルファのお父様はクンビーラの宰相様ですし、いくら家族とはいえ話せないことがあるのは当然のことだと思いますよ」


 そんな彼女をやんわりとネイトが窘める。


「それについては理解しています。わたくしが悔しく感じているのは、エルのような一見して目立つ方の存在に今の今まで気が付くことができなかったということなのですわ!」


 エルフちゃん、もといエルは種族単位で引きこもりであるエルフ女性だ。

 現状クンビーラに定住しているエルフは彼女を除くと冒険者協会の支部長のデュランさんただ一人となる。つまりそれだけ珍しいということになるのだ。


 加えてエルフ種族(ひきこもりーず)の特徴である超が付きそうな美形という点もしっかり引き継いでいるから、はっきり言ってかなり目立つ。

 その上、口を開けばそこから飛び出すのはカンサイ弁。ちょっぴり属性を盛り過ぎではないだろうかと突っ込みたくなるくらいなのだ。

 そんな存在に気が付くことができなかったというのは、武を志しているミルファ的には大きな失態として感じられてしまうようだ。


 チラリとエルと目配せをして、どのように説得するべきかを決めていく。


「あー、ミルファさん?落ち込ませてしもうて申し訳ないんやけど、うちの事に気が付かんかったのは当たり前やと思うわ」

「どういうことですの?」

「はいはい、落ち着いて最後までエルの話を聞こうね」


 暗に実力不足だと言いたいのか、と詰め寄りそうになるミルファをどうどうと抑える。


「だって、うちが宰相さんの配下になったんが数日前のことやから」

「は?」

「へ?」


 この回答はミルファだけでなくネイトにとっても驚きだったようで、二人揃って間抜け、げふんげふん!愛嬌のあるお顔になってしまっていた。

 それにしてもエルもぶっちゃけたね。信用よりも隔意を持たれないことの方が重要だと判断したのかな。

 もしかすると、信頼と実績はこれから一緒に行動している中で築いていけばいいという自信の表れなのかもしれない。


「日数的には短いけど、配下にしてもらったからには全力を尽くすし、信頼してもらえるように尽くすつもりやから、改めてよろしゅう頼んます」

「……分かりました。あなたのことはその行動を見て判断させてもらいますわ」

「日数の短さならわたしもそれほど変わりませんから、ミルファとリュカリュカが納得しているのであれば否はありません」


 ということで、エルがボクたちのパーティーへと臨時加入することになったのだった。

 良かった。これで少なくともお墓の中で迷子になるということはなさそうだよ。


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