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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第十七章 『銀河大戦』3 二日目

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236 チームリュカリュカ総攻撃

 繰り返し武器と武器がぶつかり合う音が響く。エッ君とチーミルにリーヴ、そしてボクと次々に攻撃を繰り出してはユーカリちゃんを守勢に押し込めていく。

 レベルにも技能熟練度にも圧倒的な差があるのだ。まともに切り結べば到底勝ち目なんてない。ここは多少強引にでもこちらに分がある人数の多さを活かした手数でもって押し止めておくより他はない。


 これが寄せ集めの人同士なら連携どころかまともな協力もままならずに、逆に足の引っ張り合いをする羽目になっていたかもしれない。

 しかしボクたちはこれまで長らく一緒にパーティーを組んできて、この面子での戦闘はお手の物と言えるくらいには慣れていた。


「【スラッシュ】!」


 エッ君たちが三人がかりで彼女の右手側へと意識を誘導させてくれている間に、左手に回り込んでハルバードの斧刃を背中に叩き付けるように振り回す。


「ふっ!」

「そっち!?」


 に向かって避けるの!?


 なんとユーカリちゃんはあえてリーヴたちのいる前方に飛び込むようにすることで難なく避けてしまったのだ。それだけでなく、くるりと前転した勢いを利用して大太刀を振るうことで安全圏の確保までして見せていた。

 ……抜き身の刃物を持ったままで飛び込み前転とか、リアルでなら絶対にやりたくないわー。こういう無茶な動きもVRゲームの中ならではなのかもしれない。地味だけど。


「隙ありですわ!」


 それでも強引な動きとなった分だけ姿勢に(ひず)みが生じていた。

 弾かれたように飛び出したチーミルが肉薄した状態でその小さな両手に握られた剣を連続で振るう。直後、金属質同士が接触して軽やかな高音が発せられた。


「速度は大したものだけど重さが足りなかったわね。そのくらいでは崩されてあげられない」


 ベースとなっている人形の重量がそれほどでもないことに加え、ミルファ自身がスピードと手数で翻弄する技巧派(テクニカルタイプ)だ。そのためか、どうしても攻撃の重さという点が犠牲になってしまいがちだった。


「ご忠告痛み入りますわ、ね!」


 わずか数回打ち合っただけで確実に欠点を言い当てられてしまい、若干不貞腐れ気味となるチーミル。それでも引くことなく前へ前へと出ながら剣を振るい続ける。


「ピアス!」


 そんな奮闘を続ける彼女の助けになるようにと、がら空きとなっているように見えるユーカリちゃんの背中に向けて突きの攻撃を繰り出す。

 ズルい?

 現在ボクの卑怯君はどこかへ旅立ったまま行方不明となっているので問題ないのです。


「残念、そっちは誘いなのよ」


 チーミルの攻撃を軽々といなしながら、ユーカリちゃんのギラリと光る目が振り向きざまにボクを射抜く。


 テイムモンスターを引き連れた<テイマー>と戦う際の定石――大抵は<サモナー>にも同様のことが言える――の一つに、本人を優先的に狙うというものがある。

 相手がプレイヤーであるなら本人を倒した時点で勝ちとなるし、NPCの場合でも頭を潰すことにより組織立った動きを阻害することができるようになるためだ。<テイマー>や<サモナー>に近接攻撃よりも遠距離攻撃を中心とする人が多いのは、こうした側面がある事も関係していた。


 何が言いたいのかというと、今のボクはものの見事に彼女の仕掛けた罠に引っ掛かってしまったという訳だ。

 獲物を見つめるような瞳にそのことを痛感すると同時に、思っていた通りの行動を取ってくれた彼女に対して笑みがこぼれていた。


「それはこっちも同じなのよね!」


 すぐに攻撃の動きを取り止めて回避行動へと専念する。

 そんなボクの行動に大太刀を振るう動作をしながら、ユーカリちゃんが声なき叫びを上げた気がした。こっちはこっちでしゃがみ込んだ頭の直上を硬質な刃が通り抜けて行くのを感じて、彼女の叫びに対応する余裕なんて一欠片すらもなかったけどね!


「今だよ!」


 辛うじてこの一言を口にできただけでも頑張った方だと思う。

 そして機会をうかがっていたリーヴとエッ君が攻勢に移る。


「逃げ――、無理か。【堅気功】!」


 しかし、そこはやはりユーカリちゃんと言うべきか。避けられないと判断するや否や、守りを固めることで少しでも受けるダメージを減らす方針へとすぐさま転換していたのだ。

 もっとも、使用した闘技が防御系統のものだとボクが理解したのは、二人が攻撃を終了して後想定していた以上に彼女のHPが残っていたからだった。


 再びユーカリちゃんの周囲を取り巻くように布陣するボクたち。対するユーカリちゃんは、隙あらば攻撃をしかけようとしているうちの子たちを視線だけで牽制しながら、ゆっくりと口を開いた。


「闘技を装うなんて搦手を使ってくるとは思わなかったわ」


 闘技には一度使用すると基本的には動作が完了するまでキャンセルを行うことができないという欠点が存在している。基本的にとあるように実はいくつか方法があるらしいのだけれど、現状ボクは知らないし使うこともできない。

 にもかかわらず闘技を使用したはず――だと思い込んでいた――のボクが途中で回避行動をしたため、ユーカリちゃんは盛大に驚いたという訳だ。


「単純だけど効果的だったでしょ。特にあの位置からの攻撃の場合は」


 相手の後方、死角からの攻撃だ。本来は無言で不意を突くのが正解だろう。

 たまに創作物で先ほどのボクのように技の名前を叫んだり「隙あり!」とか言っていたりするシーンを見かけることがあるけれど、自分の居場所を知らせて優位面を投げ捨てる無意味な行動ではないかと思うのだよね。

 今回わざわざそれを行ったのは、威力を重視した闘技を用いたと思い込ませるためと、意識をボクの方へと惹き付けることでエッ君たちへの警戒を下げさせるという二つの狙いがあったのだった。


 ちなみに、この小技自体は『笑顔』プレイヤーは元より『OAW』のプレイヤーにも広く知られているものの一つだ。

 NPC相手だとミルファやエッ君くらいにしか通用したことがなかったので滅多に使用することがなかったけれど、ここ一番の大勝負で上手くはまってくれたようだ。

 ただ、あちらの隠し玉のせいで成果のほどは微妙なものとなってしまったが。


 闘技のお名前的に、技能名は〔気功〕というところだろうか。自分自身のみを対象としたバフが中心の技能のようだけど……。

 あの子のことだからそれだけで終わるとは思えないんだよね。


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