234 斜め上の現実
きっかけは『異次元都市メイション』で出会った二体の人形だった。
まあ、最初は可愛らしくデフォルメされていたから本人たちに見せればどんな反応をしてくれるのかな?くらいの悪戯心だった訳だけど。
それがひょんなことから『魂分けの魔水晶』なるアイテムを手に入れてしまった――人形の販売をしていたケイミーさんに押し付けられてしまった――ことから、大きく流れが変わってしまうことになる。
〔鑑定〕技能で調べてみたところによると、何とこのアイテムを使用することで魂の一部を器物に宿すことができるというのだ。
うん。そう言われても良く分からないよね。
なので、本編で一緒に行動していたゾイさんに聞いてみたところ、具体的には魂を宿した物を動かしたり、反対にそれを通して周囲の状況を見聞きできたりするとのことだった。
リアルで例えるならば、遠隔操作でラジコンやドローンを動かしているようなもの、なのかもしれないね。
「一番よく聞くのは<傀儡師>が配下の人形たちを意のままに操るために使用しているという話だぞい。後は、変わり者の<マジシャン>が無機物を使い魔にしているという噂もあったような気もするぞい」
もちろんしっかりとデメリットも存在するので、安易に使用するのは危険だときっちり釘を刺されてしまった。
ちなみに、後半の物凄く気になる内容については噂なのでよく知らないとあっさり流されてしまった。残念。
「それで、どうしていきなりこんなレアアイテムを持っていたのか、しっかり説明してもらおうか」
笑顔を浮かべるディランの圧力に屈して『異次元都市メイション』での出来事を話す羽目になったのも今ではいい思い出、と言えないこともないのかもしれない。
その割に反応が「ふーん。まあ、リュカリュカならそんなこともあるか」くらいの薄いものだったので拍子抜けしてしまったが。
ただ、これは熟練の冒険者で様々な場所へと足を延ばしたことがある彼らならでは、ということに気が付いたのは後からの事だった。
要するにおじいちゃんたちは不可思議な出来事にある程度耐性ができていた訳だ。
対して、それがない場合はというと……、
「造形の方は少々納得がいかないところもありますが、技術自体は素晴らしいものがありますわね!それに『異次元都市』だなんて!お伽噺だけの存在だとばかり思っていましたわ」
「ミルファの特徴をとらえた可愛らしいものだと思いますよ。わたしの方は……、こうして見ると面映ゆいものがありますからノーコメントで。『異次元都市』ですか。できる事ならば行ってみたいです」
持ち帰った人形の感想もそこそこに、うっとりとしたお顔で何やら空想しているミルファとネイトなのでした。
さぷらーいずでびっくり!?な反応を期待していたボクとしては微妙に肩透かしを食らった気分となってしまった。
だからだったのだろうか。
ついつい、こんなことを口走ってしまったのだ。
「二人もボクのテイムモンスターになることができれば、『異次元都市メイション』に連れて行ってあげることができるかもしれないんだけどね」
基本的にはプレイヤー本人のみしか出歩けないことになっているメイションだけど、プレイヤー同士で対戦練習を行える場所や、テイムモンスターやサモンモンスターの同伴を許可してあるお店など、一部の場所では呼び出すことができるようになっていた。
そのため、仮に二人がNPCではなくテイムモンスターという扱いであれば、少しくらいならば見学させることができたかもしれない、と思ったという訳。
「な、なんですって!?」
「それは本当ですか!?」
しかし、まさか二人がこれほどまでに食い付いてくるとは完っ璧に予想外だったよ。
そしてそうなった時の二人の悪知恵が働くことと言ったら!
「どうやっても人をテイムすることはできないと言われていますから、私たち自身がリュカリュカのテイムモンスターとなることはできないでしょう」
「そうね。それにわたくしとしても現在の立場を捨て去る訳にはまいりませんもの」
「そうだねー。バルバロイさんとの幸せな結婚生活もあるもんねー」
「そそそそ、それとこれとは関係ありませんわよ!?」
「はいはい。ミルファ、落ち着いて。リュカリュカも茶化さないでください。話を戻しますと、その一方でこの世界にはゴーレムやホムンクルス、さらにはクレイジードールといった無機物の魔物が存在しています。そしてそうしたモンスターもテイムモンスターとすることが可能となっています。リーヴを見れば一目瞭然ですよね」
「えっと、リーヴは正確には『魔法生物』という分類になる訳なんですが……」
「リュカリュカ、茶化さないでと言ったはずですよ」
「あ、はい。ごめんなさい」
「……ふふふふふ。ネイト、あなたのおっしゃりたいことが分かりましてよ」
「さすがはミルファ。あなたもそのことに思い至ったようですね」
「ええ。私たち自身がテイムモンスターになれないのであれば……」
「あの人形たちをテイムモンスターにすれば良いのです!」
「……は?え?うええええ!!!?」
敗因はその前の雑談の時に『魂分けの魔水晶』についての話もしていたことだった。あれよあれよという間に二人はそれぞれ自分を元にした人形に魔水晶を使用してしまい……。
「鏡でもないのに自分と向き合っているというのは、何とも不思議な感覚ですわね」
顔の高さにまで抱き上げた人形と見つめ合いながらミルファがそう呟く。その人形の方はというと、動きを馴染ませようとしているのかピコピコじたばたと懸命に手足を動かしていた。
「二つの景色が同時に見えている……。これはしばらく動きになれる必要がありそうです」
一方のネイトは、人形共々あっちを向いたりこっちを向いたりしてその感覚を確かめていた。
それにしても複数の視点があるのってどんな感じなんだろう?テレビの中継時などの分割画面のようなものかな?
ほうほう、どれどれ、おやおや、こりゃこりゃ。
二人して、いや四人?で楽しそうに動き回っている横で、〔鑑定〕を行ったボクはポカーンとした表情を浮かべることになってしまう。
二人が魂を分け与えた人形の説明には、『テイム可能。特殊モンスター扱い』という言葉が表示されていたのだった。




