232 ロマン武器
「それで、勝負の内容はどうするの?」
「せっかくこんな良い舞台があるんだから使わない手はないでしょ。次はバトルで勝負だよ」
ボクからの返答にユーカリちゃんの口元に挑発の色が浮かぶ。
「つまり『じゃんけ――」
「まさか!せっかくこの子たちがいるメリットを捨ててどうするのさ。当然、通常戦闘だよ」
何よりレベル差を考えると『じゃんけん勝負』での勝率もそれほど高いとは思えない。
「ふうん、そうなんだ。でも私は強いよ。あなたが自分たちの力量を見誤っていなければいいね」
と、さらに挑発するような言葉を重ねてきておりますが……。
歓喜に溢れたキラッキラした瞳になってます。目は口ほどに物を言うとは言うけれど、ちょっとこれは饒舌過ぎやしませんかねえ!?
本心ダダ洩れで心のセキュリティが心配になってしまうレベルだよ!?
ユーカリちゃんの仕草に諸々心配になりながら装備を整える。
武器を取り出したころにはエッ君とリーヴの準備も終わっていた。
「ハルバードとは変わり種に手を出したものね」
「『笑顔』の方でもそういう扱いなの?」
「使い慣れれば便利だし強いって聞くよ。ただ、なかなかそこまでの習熟度には至れないんだって」
ユーカリちゃんの言う習熟度とは、ゲーム内の数値で表されている熟練度ではなくプレイヤースキル的なものの事だろう。経験とか慣れとも言い換えることができるかもしれない。
例えば「槍で突く」といっても、両手で構えてしっかりと足を踏み出した勢いを込めて突くものもあれば、片腕を動かすだけの動作もある。
大ダメージを与えることを主眼とするならば当然前者の方が有利となるが、不意打ちや牽制などでは場合によっては後者の方が効果的な場合だってあるのだ。
このように状況に適した動きを瞬時に判断できる事、そしてその動きを頭の中で思い描いて、実際の動作として再現できる事。
これこそがプレイヤースキルの神髄であり、これにかかる時間が短ければ短いほど高いプレイヤースキルを誇っていると言えるのではないだろうか。
まあ、あくまでもボクの個人的な感想なので、異論は認める。
話を戻すと、ユーカリちゃんいわくハルバードはそうしたプレイヤースキルが育てにくい割に、プレイヤースキルに依存する面が大きいのだそうだ。
一方で、多様な攻撃手段を持つことからロマン武器としての人気は高いのだとか。
「あなたのことだから、ロマン方面から使うようになった訳じゃないのよね?」
「当たり。先達からのアドバイスがあったから、かな」
「『OAW』の先達ということはNPC?反応が悪いという話を聞いていたけれど、あの猫さんといい、短い間に随分と改善されていたみたいね」
正確には主要NPCなどプレイヤーと頻繁に接触する可能性がある人のみ高性能な応対をするらしい。
そのため大通りを歩いている人たちの大半は、突然目の前に飛び出そうともいきなり挨拶をしようとも一切の反応を示さない。
クンビーラの市場をうろついていた時、危うく正面衝突しそうになったNPCが無表情のままぬるりとした動きで避けて去って行ったのは、今思い出しても恐怖しか感じないトラウマ事件だった……。
「きみの方は完全にロマン武器だよね、それ」
こちらの情報ばかり明け渡すのもなんなので、ユーカリちゃんの背中からぴょこんと見えているそれを指さして言った。
その細さや反り具合からすると、アレなんだろうなあ。
「やっぱり刀だって分かっちゃった?」
「そりゃあね。しかも柄頭から刃の先まで合わせると身長くらいはありそうなんて、ロマン武器以外の何物でもないでしょうが」
何といつの間にか彼女が背負っていた刀は、柄頭のある彼女からだけでなく左足の方からも長いその身を見せていたのだ。幅はともかく長さだけなら、大剣使いのお兄さんが背負っていたものと同じくらいに見える。
「いつの間に剣道なんて習ったの?」
「習っていないわよ。これだけ長さが違ったらリアルの刀とは別物だもの。それに本当に基本中の基本くらいなら動画でも見られるから」
「えーと……。じゃあ、それ以外は独学ってこと?」
「漫画とかアニメの動きを参考にしたこともあったかな」
漫画を参考……。普通なら「なにをバカなことを」と返すところだけれど、この子の場合は本当に何か益となることを吸収している可能性があるから油断できない。
「具体的にどんな動きを参考にしたのかは秘密よ」
おっと、先に釘を刺されてしまった。これ以上の情報漏洩は期待するだけ無駄か。
両陣営からプレイヤーさんたちが集まって来て周りも騒がしくなってきたことだし、そろそろボクたちの第二回戦といきますかね。
ボクの意識が変わりつつあることに気が付いたのか、ユーカリちゃんが一瞬で巨大な刀を抜き放つ。
凄いね。刀だけでなく鞘の方も同時に引くことで、引っ掛かることなく、すんなりと抜き取ってしまった。
「一呼吸で戦闘準備完了?まるで手品か何かだわ」
冗談のような長さの刀を構えるその姿はとても様になっており、ずっとその体勢でいたと言われても違和感すら覚えないほどだ。
あ、ちなみに鞘の方はアイテムボックスへと仕舞ったのか、それとも元よりそういう仕様なのか、いつの間にか消え去っております。
幸いにもボクには相手の立ち姿や構えを見ただけで、その人の力量を感じ取れるような能力が備わっていなければ経験を積んでいる訳でもない。
よって、何の気苦労もなく彼女の前へと立つことができた。
「最後の確認だけど、本当に私とやり合うの?いくらその子たちがいても私との力の差を埋めることはできないと思うわよ」
「あのね、今さら怖気づくようなら最初から喧嘩を吹っ掛けたりはしていないから」
いや、あれはあの場の勢いだったから、ユーカリちゃんがどれだけの強さであっても同じことをやらかしたかもしれない。
……ま、まあ、それはともかくとして!
「それに、負けるつもりはないから!」
これ以上の言葉は要らないとばかりに彼女に向かって走り寄っていく。
それが無謀な突撃に見えたのか、一瞬悲しそうな表情を浮かべた後、凛とした雰囲気へと切り替えていた。
里っちゃんが本気になった。
ゾクリと肌が粟立つ。ボクの両脇のエッ君とリーヴもそれをしっかりと感じ取っていたもよう。
戦いになると判断したら即座にボクたちでも分かる圧力をかけてくるところなどはさすがとしか言いようがない。
このままぶつかり合えば確実に負ける。
嫌でも理解させられたこれこそが現実だ。
だけど、それで止まってしまうようならボクはここにはいない。
「さあ、二人とも出番だよ!」
ユーカリは最初、短剣二刀流のスピードファイターにしようかと思ったのですが、何となくミルファとかぶるので、大太刀にしてみました。
しかし、彼女は一体どんな漫画の動きを参考にしたんだろう……?




