227 成すべきこと
前半戦の考察をしている間にあっという間に休憩時間の五分は過ぎ去り、いつの間にか後半戦が始まっていた。
が、残念ながら今度はゆっくりと観戦している時間はない。ボクは先ほど思い付いたばかりの少人数グループごとの行動についてチームの皆に話していた。
「つまり、無理に行動を統一しようとはせずに少人数ごとにそれぞれ動き回る方が、かえって効率が良いかもしれないってことか」
「今回はフィールドが広いし、パーティー単位での活動に慣れているならその延長線の感覚でいけるんじゃないかと思うんですよね」
単なる多人数同士の対戦ならしっかりとした指揮系統の元で戦う方が有利かもしれない。しかし、今回は隠しボスという強力な不確定要因が存在している。
どちらかと言えば絶えず変化し続ける状況に、臨機応変に対応できる能力が求められているように思う。
「もちろん、個々人の判断で動くのもアリです」
三百人もいるのだから中には見ず知らずの人に指図されるのは嫌という人や、集団行動が苦手だという人だっているだろう。
現に今だってボクが提案しているのを冷ややかな眼で遠巻きに見ていたり、無関係だと完全にそっぽを向いていたりする人が少なからずいた。その辺は個人の考え方やスタンスの違いなのでどうこう言うつもりはない。
こちらのチームで参加することには納得してくれているみたいなのでそれで十分です。
もっとも、できるだけ全力を尽くすというのがボクのスタンスなので、それに文句をつけてくるのであれば反論するつもりだ。
とはいえ試合開始前に険悪なムードになってギクシャクしてしまうのは避けたいところ。今のところそういう気配はないので密かに一安心していたりするのだった。
それとボク自身、いざ試合開始となればユーカリちゃんとの対戦のために個人行動をすることになると思う。なので、単独行動に対して強くは言えない部分があるのだ。
……うーむ。
どうやら自分で思っていた以上にユーカリちゃんと戦うことを楽しみにしているようだ。こんなに好戦的な性格をしていたのかしらん?と我がことながらビックリですよ。
そんな心境の変化に苦笑してしまいそうになっていると、何やら周りの人たちが困惑した顔になっていた。
「どうかしましたか?」
「あー、いや、説明を聞いてから言うのも何なんだが……。『テイマーちゃん』は俺たちが勝ってもいいのか?」
「???所属しているチームが勝てるように努力するのは当たり前のことじゃないですか」
「でも、『OAW』のプレイヤーが相手なのよ?」
「ああ!裏切り者だとか思われないか心配してくれているんですね!その辺りのことは大丈夫、というかなるのようにしかないらないと思ってますので」
ボクとユーカリちゃんが入れ替わってしまったことについての事情説明は運営がやってくれているだろうし、何より文句を付けようだとか粗を見つけてやろうだとかするやつらからすれば、どんな状況であろうとも関係がないのだ。
例えば試合の結果が勝とうが負けようが、「ここが悪かった」とか「あの部分が問題だった」とケチをつけることだろう。
「ああいう連中は揚げ足を取ること自体が目的ですからね。まともに相手をするだけ損ですよ」
「達観してるなあ……」
里っちゃんたち生徒会のお手伝いをしていたことで、事なかれ主義の大人たちや不満を口にするだけの生徒たちを嫌というほど目にしてきたので。
もっともそれ以上に、今よりももっと環境や状況を良くしようと頑張る人たちを見てきたから、人間不信にもならなければ、斜に構えて世の中をあえて悪く見ようとすることもなかったのだけどね。
「とにかく、ボクのことはお気になさらず。それに向こうは向こうで『コアラちゃん』がアドバイスをしているはずですから」
「え!?そうなのか!?」
「何もしないでくれと言われない限りは絶対にやっているでしょうね。そして……」
「向こうはただでさえ自分たちが不利だと分かっているから、むしろ積極的に案を出してもらっているだろうな」
「なので、ボクも少しは役に立たないとと思って意見させてもらいました」
「そういうことなら納得だ。じゃあ、また何か思いついたら遠慮なく言ってくれ」
「了解です。でも、過度の期待はしないでくださいよ」
ユーカリちゃんほど出来は良くないので。
さてと、ではでは何かヒントになるような事が起きていないか、現在行われている後半戦の試合を見てみるとしますか。
シアタースペースから少し離れた位置に一脚だけ置かれていた椅子にこれ幸いと座り込んでスクリーンを呼び出す。
ポチポチと公式イベント動画、実況と進めて、適当に試合を選択。
画面に表示されたのは、襲い来る怪獣を迎撃、もとい隠しボスである巨大ロボを倒そうと奮戦するプレイヤーたちの姿だった。
どうやらこの試合に参加した二チームはどちらも巨大ロボの討伐を優先してポイントを稼ぐ方針のようだ。十重二十重に周囲を取り囲み、遠距離からは魔法や矢が定期的に撃ち込まれている。
一方、接近戦では複数のグループがそれぞれ順番に囮になることで、その他の人たちが比較的安全に攻撃できるようにしているようだ。
まあ、それでも攻撃に夢中になり過ぎて反撃を受けてしまう人や、移動の際の足の動きに巻き込まれてしまう人が続出しているようだけど。
それでも前半戦でボクたちが観戦していた試合とは比べ物にならない勢いで、巨大ロボのHPを減らすことに成功していた。
特に巨大な戦斧を担いだプレイヤーときたら、軽く数人分のダメージを一人で叩きだしている。
「って、あれ、マサカリさんだよ!?」
確か昨日の時点ではエキシビジョンバトルには参加しないと言っていたはずなのに。
そこまで考えを巡らせた時点で、こちらに転移してきた直後に見せてもらった『笑顔』運営からの通達のことを思い出した。
「態度の悪いプレイヤーを処分した結果、参加枠に余りが出たのだったっけ。で、再考の要請に応えて改めて出場することにした、という感じかな」
秘密にしていたのは元々は参加者全員を一まとめにした戦いになるはずだったからで、その時にボクやミザリーさんを驚かすため、のような気がする。
そうなるとリルキュアさんや遥翔さん、ヤマト君などもどこかのチームで出場していたのだろうか?




