226 隠しボスへの対応
ボクたちが観戦していた試合は猪突猛進即死に戻り小僧君の影響もあってか、隠しボスである巨大ロボを倒すのにほとんどの時間を注ぎ込む結果となってしまったのだった。
後半なんてほとんどのプレイヤーがやけっぱちで突撃を繰り返していたからね……。
大人数のプレイヤー同士の戦いというよりは大規模なレイドボス戦という有り様だった。
「しかも死に戻り前提のゾンビアタック戦法とか、予想外にもほどがある……」
「まあ、映像的には確かに微妙だったわ。ギャグ系の動画にするにしても、上手く編集できるだけの腕が必要になりそう」
でも、やっている人たちは結構楽しそうにしていたんだよね。
「あそこまで徹底的に引っかき回されたら戦術も何もあったものじゃないだろうからなあ。開き直って攻撃最優先に切り替えたのかもしれない」
「後はあのおバカ小僧にMVPを取らせないために、あえてそうしたっていう可能性もあるぞ。あいつ最初から全力で攻撃してたから、結構たくさんのポイントを稼いでいたみたいだし」
確かにあれだけ好き勝手やっていた人に、いいところを持っていかれたくはないだろうね。
きっと敵側だけでなく味方側もチームの人たちにも、そうした反発する気持ちがあったのだろうと思う。ある意味、彼の行動がフィールド内のプレイヤーの心を一つにしたと言えるのかもしれない。
「もしも最初からそれを狙っていたのだとしたら、凄い策士かもしれない」
「あれが策士?ないない。ただの自己中だよ」
「そうねえ、私もあれは天然だと思うわ」
皆さん、速攻で否定してきましたね!?
まあ、自分で言いながらも「それはないだろうな」と思ってしまっていたのだけれどさ。
「それでもあいつの動きのせいでプレイヤー同士の戦闘が少ない回数に抑えられたのは事実だ。陣地化したマスの数も似たようなものだし、隠しボスからのポイント配分で勝敗が決まることになりそうだ」
つまり、結果の予想が難しいということになる。別に何かを賭けていた訳でもないので、どちらが勝とうとも問題ないのだが、観戦していた身とすれば何となくすっきりしない気分となってしまうのだった。
「他の試合はどうだったんでしょうかね?」
ふと気になり、他の試合の動画へとチャンネルを変えようとしたところ、
「俺たちが見ていた試合は『笑顔』の圧勝だったぞ」
少し離れた場所に置かれたソファに座っていた人たちがそう教えてくれた。
……あちらもなかなかに座り心地が良さそうですな。ごろ寝とかするのもアリかも。
「最初は何とか互角で推移していたんだけどね。一か所抜かれたことで連鎖的に崩れてしまったんだ。あそこで立て直しができていれば面白い戦いになったかもしれない」
他の人からも話を聞いてみると、全体的にそういう流れの試合展開のものが多かったようだ。
中には『OAW』側の反攻作戦が上手くはまって五分以上に巻き返していた試合もあったようだけど、やはり少数に止まっているもよう。
「キャラクターの基本レベルが違えば、プレイヤーの経験値も違っているだろうから、それは仕方のないところだろう」
最終的にはそこに行き着いちゃうよね。大物食いなんてそう簡単にできるものじゃないだろうし。だからこそ大金星なんて呼ばれたりもするのだから。
「ねえ、『テイマーちゃん』。ちょっと来てくれる?」
「はいはい、ただ今」
これまた少し離れた場所にあるソファベッドを占拠していたお姉さま方から、ちょいちょいと手を振って呼ばれたので何事かと思って近づいてみる。
「ほら、これ見て。隠しボスを倒さずに放置していた試合が結構あるみたいよ」
と、いくつもの試合の静止画を見せてくれた。
時間は終了間際で、言葉通りにドでかい巨大ロボがどれにも写り込んでいた。
「隠しボスのこの辺にいる人たちって逃げているように見えない?」
「……本当だ。それほど必死しそうな顔はしていないけど、確かに逃げようとしてますね」
少なくとも攻撃しようとか、動きを止めようとしているようには見えない。巨大ロボは大量のポイント持っている――らしい――が、出現場所や進行方向など予測が付かないことも多い。
よって、そうした不確かな点を嫌うような人たちであれば、無視するという選択肢が取れないことはないだろう。
問題は相当邪魔だということだろうか。巨大ロボは縦横それぞれ十メートル以上もある。そこまでいくともはや巨大な壁か建造物だ。
そんな物にぐおんぐおんと動かれている様を想像してみて欲しい。きっと視界の隅に映るだけでも、気を取られてしまいそうになるはずだ。
加えて、大質量というのはそれだけで強力な武器となる。さっきの突撃小僧君のように歩く動作に巻き込まれただけでも、スタート地点直通便に強制登場させられる羽目になるかもしれないのだ。放置するのはあまりにもリスクが多いような気がする。
「よほどマスの陣地化と、相手チームのプレイヤーを倒すことによるポイント稼ぎで勝てる見込みがあっということなのかしら」
「逆に根拠のない自信だったのかもしれないわよ」
ボクたち外部の観客も含めて、試合中のポイント総数を確認することはできなくなっている。辛うじて本番と同じく陣地化しているマスの数が分かるだけだ。
レベル差によって相手プレイヤーを倒した際のポイントが異なる仕様になっていることから、集計システムが組み上がっていないというのは考えられない。なので、これに関しては運営がわざと公表していないということなのだろう。
多分、リルキュアさんのようなレベルが高い反面、戦闘関連はからっきしという人が集中的に狙われてしまうのを防ぐためだと思われます。
「成功したのか失敗したのかはともかく、そういう作戦もあるということですね」
「今の段階だとそうとしか言いようがないか。まあ、最終的に参加者が一番楽しそうだったのは『テイマーちゃん』たちが見ていたあの試合のような気がするわ」
半分は自棄になっていたところもあったのだろうけれど、ノリと勢いだけで突っ走ることで参加していたプレイヤーたちは皆ハイテンションになっていたようだね。
対して、巨大ロボに突撃しては蹴散らされるの繰り返しだったから、はっきり言って見ている方としては微妙だった。
せめて近くにいる人同士だけでも闘技を発動するタイミングを合わせたり、魔法などの遠距離攻撃を弾幕として利用したりすれば、もっと効果的に巨大ロボにダメージを与えることもできたような気もする。
……ふむ。
もしかすると、全体を俯瞰して指揮を執るような人が一人いるよりも、局所的に少人数のグループに指示を出せる人が何人もいる方が有利となるのかもしれない。




