212 新しい作戦
結論、やっぱり無理!
だって、運営の解答としては絶対に勝てるようには設定していないって明言しているのと同じなんだよ。必勝法なんて存在しないも同然だ。
「それでもあえて言うなら、じゃんけんに勝て!ってことになるかな。それとも直接戦闘で頑張るとか」
これにはチームのも皆も苦笑いですよ。まあ、実際のところ何の解決策にもなっていないのだから当然でしょう。
しかも正論ではあるところがまた厄介だったりするんだよね……。
運営の言い分や、負けた時のことを含めて遥翔さんたちのこれまでの『じゃんけん勝負』の時の感想を聞いてみるに、ボーナスが発生しなかった時には普通のじゃんけんのようになっていたのだそうだ。つまり強制敗北ではないので、ここで勝つことができさえすれば何の問題もないということになるのだ。
また、『じゃんけん勝負』に負けるのが嫌なのであれば、そもそもそちらを選択しないで直接戦闘を行うという方法もある。
もっとも、直接戦闘では勝ち目がないプレイヤーへの救済措置という本来のあり方からは見事に逆転してしまっているともいえるけれど。
それでもミザリーさんとヤマト君がコンビを組むことで安定して倒せるようになったように、やり方次第ではそちらの方が有効な場合も多いだろう。
長々と説明をしてきたけれど、このような部分があるためボクが言った台詞はある意味的を射ているものであったという訳です。
「結局、これといった手はないのかあ……」
そう言ってヤマト君が嘆息する。聞いていたリルキュアさんと遥翔さんも浮かない顔だ。
その時ごとの運も絡んでくるから、なかなか「じゃんけんは得意」だと自信満々に言える人は少ないだろうからね。
加えて二人とも直戦闘のための手段は乏しくロボット相手に勝つにも、相当な時間が必要となることだろう。
うん?
ああ、遥翔さんもリルキュアさんも、ボクとは違って全く歯が立たないという訳ではないのですよ。ただ十五分という時間が区切られている試合中にそれを行うのは現実的ではないというだけでの話なのだ。
かといってそれを補うためにコンビを組もうにも、該当する人材がいないというのが難しいところでして……。
うーん、空気がよろしくないです。
こういう時は逆転の発想でプラスになった点を探してみようか。
まずはなんと言っても『じゃんけん勝負』で負ける可能性があるということを、今の状況で知ることができたということだと思う。
例えば、試合終盤でギリギリの攻防をしている時に発覚したならば、それが元で敗退していたかもしれない。
こうして勝利して、さらには次の試合のために対策を考える時間が取れただけでもボクたちは有利な状況にあると言えそうだ。
ということを語ってみたのですが、
「おー……。凄えポジティブシンキングだ」
高評価だったのはヤマト君だけで、他のメンバーは逆に苦笑を強くしてしまったのでした。残念。
それでも重苦しかった空気が少しはマシになったかな。
「まあ、ちょっと強引な感はあるけれど『テイマーちゃん』の言うことも間違いではないわね」
「そうですね。こうやって色々と考えることができるというのは、見方によっては幸運だったと言えそうです」
フォローありがとうございます。
二人の優しい心に思わず涙が浮かんできそうですよ。
「それで、次の試合の時はどうする?俺はともかく遥翔とリルキュアは『じゃんけん勝負』なしでは厳しいんじゃないか?」
マサカリさんが言うように問題はそこだね。
「今すぐ思い付く作戦は二つ。一つは今まで通りのやり方でいく方法です」
遥翔さんとリルキュアさんが攻め上がって敵チームの進行を食い止めている間に、ボクたち残るメンバーが足元を固めてしまうという流れだ。
「これの利点は慣れていること、要するにボクを含めて全員が自分の役割を熟知しているという点です。『じゃんけん勝負』に関しても負ける可能性があると分かっているので、いざという時にも何とか対応できるんじゃないかと思ってます」
今回はその心積もりが最初からできているので、慌てることなく機敏に動くことだってできるのではないかとひそかに期待していたり。
ただ、その時次第でどう動くのかは変わってくるので、良く言えば臨機応変に、悪く言えば出たとこ勝負で対処するしかないというのが不安の種かな。
それと、実は心配な点はもう一つある。
「リルキュアさんたちには三回戦の時と同じく敵チーム側へと進んでもらうことになります。当然、ロボットを相手にしてもらうこともあると思うんですが、……できますか?」
「……正直なところ、ちょっと怖いわ」
「自分も、失敗したらと考えてしまいそうです」
やっぱり微妙にトラウマっぽくなっているみたい。
二人とも責任感が強いタイプのようなので、負けたことよりもその後のチームとしての調子が乱れてしまったことの方が大きな傷になっているような気がする。
その証拠に三回戦の終盤では二人とも、初期状態よりも勝つのが難しくなっている敵チームの陣地となっていたロボットマスを自陣地化することに成功していた。
なので、落ち着くための時間さえ稼ぐことができれば、再びロボット相手にも『じゃんけん勝負』ができるようになるのではないか。
「分かりました。それじゃあ、作戦その二でいきましょう」
人差し指一本だけだったところにピッと中指も立てて、ボクはその作戦について話し始めた。
「と言っても、ボクとリルキュアさんの役目が入れ替わって、遥翔さんにはスタート地点近くのスイッチマスの方を優先的に自陣に変えてもらうだけの話ですけどね」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!ということは『テイマーちゃん』が一人で囮役になるってことか?」
「いえす」
立てた二本の指をピコピコと動かしながら、マサカリさんの質問に答える。
「あの追いかけっこはかなりハードですよ。魔法や弓といった遠距離から攻撃されることもありますし、こう言っては申し訳ないですが、レベルの低い『テイマーちゃん』には難易度が高過ぎるのでは?」
「遥翔さん、その低レベルなところを有効利用するんですよ」
「低レベルを?……ああ!そうか!レベルが低いから戦闘方法の選択権は『テイマーちゃん』の方にある訳ですね!」
そういうこと。プレイヤー同士の戦闘は、同じマスの中に入ったプレイヤーの内最も低いレベルの者に与えられるようになっている。
そしてその選択には数秒の猶予が与えられているのだ。
「選択時間の内に他のマスへ逃げることができれば、他のチームのプレイヤーは攻撃も何もできずに終わるという寸法なのですよ!」
後は……、うん。頑張って逃げ切ろう!
「敵対チームのプレイヤー対策は分かりました。でも、マスの自陣地化についてはどうするつもりでしょうか?囮が一人だけとなると、スイッチマスだけではすぐに引っ繰り返されてしまうのではありませんか?」
ミザリーさんの心配していることについても、既に考えてありますよ。
「その通りだと思います。だからロボット相手には奥の手を使う予定です」




