206 三回戦1 かつてない危機
このように色々と考えさせられるところはありながらも、ボクたちのチームは一回戦、二回戦共に特に危なげもなく勝ち上がることができていた。
ところが、そのことが知らず知らずのうちにボクたちの心の中に油断を生む要因となってしまっていた。
そしてそれは、練習でのタイムアタックの時から続く好調さに後押しされたかのように、激しく牙をむいて襲い掛かってくることになったのだった。
「(『テイマーちゃん』、ごめん!死に戻っちゃった!)」
「(すみません。こちらも同じくです)」
切羽詰まった声でリルキュアさんと遥翔さんからの連絡が入ってきたのは、三回戦が始まってからまだ二分も経っていない時のことだった。
「(え?ど、どういうことですか!?どこかの濃ゆい顔のスナイパーに狙撃されちゃった!?)」
「(ぶはっ!?濃ゆい顔って……!!)」
「おい、落ち着け『テイマーちゃん』!ヤマトのやつに誤爆してるぞ」
うわっとぉ!?突然の事態に思わず口をついてしまった台詞がヤマト君のツボにはまってしまったらしい。ミザリーさんが一緒だったからロボットマスでも事なきを得たものの、一歩間違えればさらにスタート地点へと死に戻りしてしまう人が増えるところだった。
「(何が起きたのか分かりますか?)」
「(多分、ロボット相手の『じゃんけん勝負』に敗北したのだと思うわ。今、遥翔が不具合かどうかを含めて事情を調べているから、詳しい情報はもう少し待ってちょうだい)」
「(分かりました)」
どうせまだ一分近くはスタート地点から移動することができないのだから、情報収集は二人に任せておこう。
ただ、本番も既に三回戦目となっており、各チームの練習も含めるとこれまでに軽く六桁以上の実戦が行われているはずだ。今さら不具合が飛び出してくる確率は低いと思っておいた方が良いと思う。
そうなるとこの試合が中断、やり直しになることを期待するのは危険だね。
今の状況から勝つための手順を考えなくてはいけない。
「(皆!他のチームの動きはどうなっていますか!?)」
「(残念ながら遥翔さんたちが死に戻ったことに気が付いているようです。チャンスだと読んだのか何人か中央へと走ってきています)」
「(こっちも似たようなもんだ。この隙に攻め込んできそうだぞ)」
まあ、そうだよね。ボクがあちらの立場なら間違いなくこの機会を利用しようとするはずだもの。だけど、それならそれで分かり易いというものだ。
「残った全員でまずは攻め込まれないように防衛線を作ります。最低限の二十四マスは確保できるように急いで!」
これさえ守り抜ければなんとでも立て直しを図ることができる。
逆に言えばそれ以上攻め込まれてしまえばリルキュアさんたち二人が復帰してきても巻き返しは難しいということになってしまうだろう。
大声でのボクの指示を聞いてこちらの意図に勘付いた数名が邪魔をしようと迫ってくるのが見えた。
「(向かってこない限り、防衛線を超えようとする人たちは無視してしまって構いませんからね。後、多少なら穴があっても問題ないです)」
「(そうなのか?でも、それだと俺たちの陣地が荒らされるんじゃないか?)」
「(それなら遥翔さんたちが動けるようになってから取り戻せば良いだけ。でも、自分たちの方に攻め込まれているのに、それでも居座ることなんてできるかな?)」
意地の悪い口調でそう言うと、すぐ側にいたマサカリさんがギョッとした顔になった。
「(まさか防衛線を構築した後に攻め込むっていうのか!?)」
「(マサカリさん大正解!まあ、その前にボクだけで先行してきますけどね!)」
「(『テイマーちゃん』一人じゃ無茶だろ!?)」
「(ふふん!ここは無理をしてでも格好つけるところなんだよ)」
なんて冗談めかして言ってみたけれど、ここが正念場であることは冗談でも何でもない。
どんどんと攻め立てていって対戦相手のチームのプレイヤーたちにプレッシャーを与えて、今の状況がボクたちにとって不利でも何でもないのだと印象付けておかないと、守勢に回ったところで押し切られてしまいかねないのだ。
「ということで、この近くの防衛線構築はお願いしますね」
「分かった。こっちは任せとけ!……死ぬなよ」
「もっちろん!」
わざとらしくフラグが立ちそうなやり取りをしてからニヤッとお互いに笑いあう。
ふふふ。戦友はやっぱりこうでないとね。
「(うがーっ!くそっ!『テイマーちゃん』、三分で追いつくから俺たちが行くまで持たせろよ!)」
「(いいえ、二分です)」
「(了解。待ってるからね)」
ヤマト君とミザリーさんのいる方に向かってぐっと親指を立ててから見せてから、勢いよく走り始める。
一歩一歩踏み込むごとにグングンと加速していくその感覚はリアルの物と比べても遜色がない。
もっとも、息切れをすることなくトップスピードのまま走り続けることができるので、軽快さという点では比べものにならないけどね。
行きがけの駄賃ということで、通り道にあったスイッチマスを自陣に変えながら、フィールド中央部を目指す。
え、ロボットマス?もちろん半泣きになりながら逃げ回っていますが、何か?
風切り音を上げて振り下ろされる剛腕を――ボク主観では――華麗なサイドステップで避けてからロボットマスを抜けきる。
ようやくど真ん中四マスの内の一つであり、ボクたちの防衛線の要になるマスに到着だ。ふわりと浮き上がるように中央にスイッチの台が登場する。
「『テイマーちゃん』だな!弱り目に付け入るようで気は進まないが、ここは俺が頂くぜ!」
「いいや、俺たちが貰う!」
予定外だったのは攻めて来ようとしていた敵対チームの人たちと鉢合わせしてしまったことかしらん。
互いに牽制し合いながらもスイッチの台へと一直線に向かってくる。このまま競走したところで間に合わない!そう判断したボクは瞬時に思考を切り替えた。
「同じマス内にいる敵対プレイヤー全員に対して直接戦闘!」
宣言すると同時に使用するための魔法を選択し、一気にMPを注ぎ込む。
「【アクアボール】!!」
「んなっ!?」
「でかっ!?」
過剰積み込みによって生み出した巨大な水球に、驚愕の叫び声を上げる敵対チームの二人。
しかし、一度走り始めてしまうと急には止まれないのは車も人も同じだ。
加えて、横に逃げるという選択肢は初めて目の前でオーバーロードマジックを見た衝撃で吹き飛んでしまっていたらしい。もしかすると、互いにスイッチを奪われまいとする心理が働いたのかもしれない。
ともかく、二人は避けることもできずに【アクアボール】の直撃を受けることになったのだった。




