204 シンプルイズベスト?
ユニークアクセス6万超え。
ありがとうございます。
それと、長くなってきたので章を分けました。
「まあ、ない物ねだりをしてもしょうがない。それに俺は基本的に『テイマーちゃん』と一緒に動くことになるから大丈夫だ」
そう、ボクたちのチームでは運良くユニットのほとんどに魔法を使える人材がばらけていたのだ。
マサカリさんとボクのコンビでは言うまでもなくボクが、ミザリーさんとヤマト君コンビは両者ともに使用可能。リルキュアさんも職業は<アルケミスト>だけど、お酒造りには欠かせないということで水を生み出せる〔生活魔法〕だけでなく、いくつかの属性魔法を習得していたのだった。
残る遥翔さんだけは攻撃魔法を使えなかったのだけど、こちらは思わぬ方向から対処方法が見つかった。
「あ、自分のことなら問題ないです。〔投擲〕技能を持っていますし、専用のアイテムもそれなりの数を持ち歩いてますから」
ダンジョンでは離れた場所から罠を作動させるなどという機会もあるそうで、それ用の小型投擲ナイフを数十本単位で持っているのだそうだ。しかも、正確に目標に当てないといけないためか、彼の〔投擲〕技能は高い熟練度を誇っていたのだった。
「自分〈筋力〉はないし、小型投擲ナイフも投げやすさを重視して作られているので、攻撃には全くと言って良いほど使えないと思っていました。でも魔法発動の邪魔をできるのなら、戦闘でもできる事が増えそうです」
戦闘面での非力さについては常々から思うことがあったのだとか。
ダンジョン探索に特化していて、かなり名の知られている有名プレイヤーであってもそんなことが気になってしまうのかと少し驚いてしまった。
まあ、ゲームにおいてバトルは花形で一等人気なコンテンツとなっていることが多いので、やはりそこで活躍できてこそという意識が強いのかもしれない。
このくらいで押さえておかなくてはいけない点については一通り説明することができたかな。
ちなみに、残る三チーム目を完封していた『キングオブデビル』の方法はというと、二人の<マジシャン>系プレイヤーが交互に連続で魔法を使うという力押しなものだった。
そのためバラバラに動き回るボクたちにとっては全滅の危険性は少なく、対処法としては同じ先手必勝のやり方が通用する、はずなので深くは話し合われることはなかったのだった。
「ヤマト君、まだ何か気になることがあるの?」
考え込むようなそぶりの彼を見て、伝え忘れていることがなかっただろうかと不安に感じてしまう。
「うん?ああ、悪い。そういう訳じゃなくて、ちょっと別のことを考えてた」
「別のこと?」
ボク自身もそうなのだけど、初心者の意見というものは案外バカにできないものがある。
その世界の常識に染まっていないため、運営や熟練プレイヤーが思わず見落としてしまっていたことにも気が付くことができるためだ。
プレイ時間こそ短いものの、今回の過剰積み込みの件に関してはボクもどっぷりとあちらの常識に浸かりきってしまっている。初心者のヤマト君ならではの意見は聞いておいて損はないだろう。
「どうしてわざわざ技能ではなく裏技っぽい形で実装しているのかと思ってさ」
オーバーロードマジックが裏技っぽいというのはボクも賛成だ。
が、どうしてその形態での実装なのかと問われると……、どうしてなんでしょう?
「考えたことがなかったけど、言われてみると不思議かも?」
ついついミザリーさんと顔を見合わせてしまったが、彼女も分からないのか首を横に振っていた。
マサカリさんと遥翔さんは高レベルで熟練プレイヤーと言っていい存在ではあるものの、魔法についてはからっきしなのかお手上げだというジェスチャーをしていた。
「あくまでも私の予想ってことで聞いてね」
唯一自分なりの答えを見出せたらしいのは、見た目は幼女中身は酒好きのリルキュアさんだった。
「多分、プレイヤーの側に依存する部分を作りたかったんだと思うの」
「プレイヤーに依存?」
「そうよ。ほら、武器系の技能で【マルチアタック】とか【マルチヒット】の闘技を覚えられるでしょう。あれって、動きをプレイヤーが自由に決めることができるじゃない。過剰積み込みもそれと同じようなものかもしれないと感じたのよ」
つまりは、プレイヤー個々人の特色が出せる箇所を作っておいたのではないか、ということだった。
「威力不足を補うような使い方はもちろんだけど、他にも範囲を広げるだとか用途は色々とあるように思うわ」
はうっ!?そ、それは盲点だったよ。
ゾイさんから教わった時の内容がそうだったから、ついつい攻撃力を高めるためだけのものだと思い込んでしまっていた。
「確かに、他のゲームに比べても『笑顔』と『OAW』は使えるようになる魔法の数が少ないと言われているな。属性と三すくみを組み合わせることで戦術の幅が広がるようにはなっているが、慣れてくると物足りなく感じるやつもいるらしい」
とはマサカリさんの説明です。
各属性魔法の熟練度を上げることで使用できるようになる魔法は、上級まで成長させても九つだとされている。しかも上級の属性魔法技能をマスターすることでようやく使用できるようになる大規模強力魔法を除くと、どの属性魔法でも同じ型の魔法ばかりということになっていたのだ。
そのためかネットなどでは「魔法使い系職業の初心者にはうってつけのゲーム」だと揶揄されることもあるらしい。
「逆にこのシンプルさが売りにもなっているということは運営も理解できているだろうから、今さらやたらと魔法の種類を増やすのは避けたという可能性もある」
他のゲームとの差別化を図る要因になっているならば、それを活かす方向に進めていくべきだと判断したというところかな。
その上でプレイヤーごとの自由度を増やすことを模索していった結果、過剰積み込みのシステムに辿り着いたということなのかも。
ちなみに、実は闘技の方も【ピアス】や【スラッシュ】など基礎的なものが多かったりします。
リザードモールに対してディランが放った【クラッシュ】も、防御力無効というロマンあふれる効果を持っていたけれど、動き自体は至って分かり易いものだった。
が、こちらはリアルの延長という位置付けで実際に体を動かす――まあ、アバターなんですけどね――ためなのか、シンプルである事の方が好まれる傾向にあるのだそうだ。
例えば、連続攻撃ができる【マルチアタック】にもオート設定が組まれているのだけれど、
「最初は面白いんだが……。身体を長時間勝手に動かされるっていうのは気持ちのいいものじゃなかったぜ」
ということで、すぐに体勢維持のための補正効果のみがあるセミオートか、完全マニュアルに移行する人がほとんどなのだとか。




