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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第十六章 『銀河大戦』2 一日目午後

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196 まだまだ開始直前

 と、ここで大事なことを伝え忘れていることに気が付いて慌てて付け足す。


「そうそう、他のチームの直接声による指示に関しては基本的に聞き流すようにしてくださいね」


 いきなり話題が変わったこともあってか、メンバーの皆は頭上にいくつもの(ハテナマーク)を浮かべていた。


「どういうことだ?他のチームの指示が分かったなら、それを潰せるように動いた方が安全じゃないか?」


 確かにこれがリアルのスポーツなどと同じ環境であるなら、マサカリさんの言う通りだろう。


「理由は大きく分けて二つあります。一つ目は、それぞれの役割を果たすので精一杯となり、他のチームの動向を気にしている余裕がないと思えるからです。遥翔さんとリルキュアさんは他チームの撹乱や牽制、足止めをしなくちゃいけないですし、残るボクたちメンバーもスタート地点の近くのマスから片っ端に自陣地化していかなくちゃいけないですからね」

「だけど『テイマーちゃん』、ユニットが二つだけでも練習用フィールドと同じマスの数だけなら五分もあれば自陣地化できるんじゃないか?そうなると残りの十分は他のチームの動きに合わせて迎撃しないとまずいんじゃね?」


 試合時間は十五分間で、タイムアタックの時の調子を考えるとヤマト君の主張もあながち間違いだとは言えない。

 とはいえ、一点とても重要なことを見逃している気がする。


「相手が一チームだけならそういう対応の仕方もできると思うんだけど、今回のイベントだと三チームもいるから」


 あるチームの対応に集中している間に、残る二チームの強襲を受けてしまうということにもなりかねないのだ。


「近くのマスの自陣地化が完了した後は、残っている空白のマスや他のチームが陣地としたマスに攻め込んで行くか、それとも攻めてきた別チームに対処するかのどちらかをその場その場の状況で決めていくしかないと思う」


 成り行き任せな方針に微妙な顔をする皆。

 でもねえ、他のチームの人たちがどういう行動を取るのかすら分からないから、実際のところ対策の立てようがないんだよ。


「まあ、その点は一度やってみないことにはどうしようもないだろうから一旦置いておくとして、もう一つの理由を聞かせてくれないか」


 不満はあれどボクの言い分にもある程度納得できてしまったのだろう、マサカリさんが続きを促してくる。


「了解です。二点目、どちらかと言えばこちらの方が本命だと思っているんですが、声での指示は他のチームをだます目的で使われるかもしれないからです」


 それというのも、リアルとは違ってこちらにはチャット内会話という仲間内だけでやり取りができるツールが存在しているからだ。

 先日の『異次元都市メイション』や今朝の開会式の壇上でボクがアウラロウラさんと内緒話をしていたアレのことです。

 実は試合中は各チームごとにこのチャット内会話の専用回線が用意されていたのだ。


「わざと他のチームに聞こえるように嘘の指示を出しておいて、本当の指示はチャット内会話で行う、ということですね」


 ミザリーさんの予想に頷いて同意を示す。単純な方法だけど、その分そういう想定をしていなければ引っ掛かってしまう可能性は高いのではないだろうか。


「その言葉通りに受け取ってしまえば完全に裏をかかれることになりますから、はまれば効果が高い策だと思います」


 そして先にも記したように単純な方法だから、思いつく人は結構多いだろうとも予想できるのだ。


「引っ掛かったふりをして、逆に罠にはめるというのはどうですか?」


 と聞いてきたのは遥翔さんだ。ダンジョンなどに仕掛けられていた罠を時には利用して魔物を撃退することもあると言っていたから、その延長線で考えついたみたいだね。


「成功すれば強烈なカウンターとなるでしょうけど、そのためには隙を見せないといけないですからね……。対応を一つ間違えると、そこから食い破られてしまう危険性がありますよ。そのリスクをどう考えるかで、採用するかどうかは変わってくると思います」


 個人的には優勢から拮抗しているまでの状態であれば、無理にリスクを抱えるべきではないと考える。

 逆に劣勢で押し込まれている時であれば、積極的に狙ってみるのも手じゃないかな。そのくらいの博打に勝てないようでは、どのみち起死回生の一手とはならないだろうからね。


「でも、負けている時に焦ってリスクの高い方法に手を出しても、失敗するのがオチじゃないかしら?」


 リルキュアさんの言う通りその展開はあり得る。しかも結構な高確率で発生してしまいそうなところが難点なのだよねえ……。


「負けている時は精神的に余裕がないことが多いですからね。そういう時に限って予想外のアクシデントが発生したり、普段だと絶対にしないようなミスをしたりもするから」


 弱り目に祟り目とか、泣きっ面に蜂ということわざがある通り、困ったことに調子の悪い時には運にすら見放されてしまうなんてことはざらにあるものなのだ。


「やっぱりリスクの高い作戦には手を出さない方が無難だということになるのかもしれませんね。と言っても、それ以外に取れる手がないという状況になる可能性もありますけど」


 全てを見通せるわけではないから、結局は出たとこ勝負ということになってしまう部分はどうしてもあるのだ。

 そういう点からすれば、こうやって色々な作戦について考えておくというのも意味がある事だと言えるのかもしれない。

 もっとも、全部分かっているのであれば、そもそもリスクの高い策を選択しなくてはいけない機会なんてないのだろうけれど。


「色々難しく考えてたけど、要するに最初の作戦通りに進められれば優勢になるんだろう?タイムアタックだってあれだけの好成績になったんだし、俺たちだったらイケるって!」


 身も蓋もないヤマト君の一言に苦笑するボクたち残りの面子。

 が、そうやって悩みや不安をスパッと切り捨てておく方が案外上手くいったりすることもあるのも確かだ。特に今はタイムアタックでの好成績――相対的にはまだ不明だけど――という自信の元になるものが存在するのだから、有効活用してやらないと。


 対戦相手の戦術や戦法についての情報がないのはどこも同じなのだ。それなら当初の予定通り先手必勝で押して押して押しまくっていく方が、分かり易い上に戦意の高揚にもなって良いのかもね。


「ヤマト君の言う通り自信を持っていきましょう。ボクたちなら楽勝……、かどうかは分からないけど、きっと勝てる、はず!」

「そこはしっかりと言い切って欲しかったぜ」


 ため息まじりのマサカリさんの突っ込みに笑い声が上がる。

 そんなボクたちを他のチームの人たちは怪訝そうな目で見ていたのだった。


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