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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第十六章 『銀河大戦』2 一日目午後

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194 進む技術と進まない技術

 そうこうしている間にも次々とプレイヤーたちがログインしてきていて、段々と会場が狭く……、あれ?狭く感じられないね?


「休憩前に比べると人口密度が下がっていませんか?」

「会場をいくつかに分けているんだろう。多分、この後の本番での組分けに関連しているんじゃないかと思うぞ」

「お?ということは、ここにいるチームの中のどれかが最初の対戦相手になるかもしれないのか?」

「そうとも限らないわよ。逆に対戦相手とは顔を合わさないような配慮をされているかもしれないもの」


 ヤマト君の予想もリルキュアさんの推測も、どちらもあり得そうな話だ。さらに言えば単にログインしてきた順番かもしれない。

 要するに、深読みするだけに無駄ってこと。


「どんなチームが相手だろうと、基本的にやることは変わらないから」


 まあ、相手に合わせて戦術を変えられるほど、戦力に余裕がある訳ではないというのが本音のところなのだけれど。

 肩をすくめながらそう言うと、皆も「それもそうだ」と言って笑っていた。


 ふむふむ。この様子からすると、一番心配だった――ボクを含めて――緊張で動けなくなるという展開は回避できているようだ。

 練習用フィールドでのタイムアタックが上手くいったこと、大まかには想定した通りに動くことができていたこと等が、心理的に良い方へ働いているのかもしれない。


 余談だけどミザリーさんが推察するには、「ステージのある近辺だけは共通の空間になっているのではないか」ということだった。

 つまり、出店させろと運営に迫っているプレイヤーたちは、あそこにいるだけで全部だということだ。


「いくつか根拠はあるのですが、一番は『笑顔』の運営の人たちも一緒にいるという点です。AIであるアウラロウラさんならば複数の空間に同時に存在するなどということもできるでしょう。しかし『笑顔』の彼らはベースが人間ですから、それほどの高負荷を処理することができないと思われるのです」


 簡単に言ってしまうと、人間を辞めちゃわない限りアバターの複数同時存在などという芸当はできないということだ。

 実際にこの方面の研究は以前から、それこそ仮想世界へと五感全没入(フルダイブ)する技術が確立した当初から行われているが、(かんば)しい成果が上がっているとは言い難い状況だ。


 何となく気になったので後から調べてみると、最も上手くいった事例でも、二つのアバターを同時に存在させることができただけ(・・)というものだった。

 基本的な行動はおろか、まともに思考することすらできなかったらしい。

 時間も短く、最長でも二秒弱とのこと。加えて、被験者の多くが実験直後にめまいや吐き気などを訴えており、安全性に疑問があるということで現在では一時凍結に近い状態なのだとか。


「複数の存在を展開したところで問題に対処できなければ意味がないですし、かかしと同じで良いのであればそもそも出張ってくる必要がありませんから。運営という()がいるということは、彼らが活躍できる空間となっているはずです」


 な、なるほど。一から十を知るようなミザリーさんの解説に、ボクたちはただただ首を縦に振っていたのだった。


「後は、わざわざここで出店を要望して、運営に手を掛けさせるようなプレイヤーがあれ以上いて欲しくはない、という個人的な気持ちもありますね」


 その点は素直に納得できる。

 今回の公式イベントでは出店について明確には否定していなかったけれど、だからと言って今さら会場となっているこの場所で要求するようなものではないと思うのだよね。


「あの連中がヒートアップしている原因は、運営がのらりくらりと明言を避けていることにあるようです。このまま時間が過ぎるのを待っているようにも見えますよ」


 遠視系の技能を用いていたらしい遥翔さんがその様子をつぶさに報告してくれる。

 さすがは探索特化。地味だけど便利な技能をお持ちですね。


「まあ、下手に首を突っ込んでも余計にこじれることになるのがオチだろうから、俺たちはここで静観しておくべきだろうな」

「それが賢明よね」


 運営なのだから、最悪は隔離するなり強制的にログアウトさせるなりといった権限があるはずだ。特に何かできる事はないという結論に達したボクたちは、騒いでいる連中をできるだけ視界に入れないようにしながら、まったりと過ごすことにしたのだった。


「間もなく午後一時二十分となります。プレイヤーの皆様はチームごとに集まって待機していてください」


 そして、時間となり放送が流れ始める。

 ただし、これまでとは違って開始を示す音はこれまでのアウラロウラさんの温かみのある肉声?とは異なり、無機質なものだった。


「これってやっぱり押しかけていたプレイヤーへのささやかな反抗ってことだよね」

「ささやかなのかはともかくとして、あの連中に対する無言の抗議であることには間違いないんじゃねえか」


 つまり「お前たちのせいで仕事に影響が出始めているんだぞ」という訳だ。いや、あのにゃんこさんのことだから「これ以上邪魔をするつもりならこちらにも考えがある」くらいの意味合いも込められていそうだね。


 そのことに気が付いたのかは不明だけど、運営氏の指示によってステージ間近に集まっていた人たちが徐々にその場を離れ始めたのだった。

 そして一定の距離を取った人たちの大半がいなくなる。どうやらそれぞれに割り当てられた空間へと移動させられたようだ。


「なんというか、こういう不思議現象もゲームならではというか、VRならではという感じですね」

「まあ、突然人が消えるとか、リアルではまずお目に掛かれない光景だよな」

「いやいや、リアルでそんなことが起きたら怪奇現象か謎の事件かで大騒ぎになるから……」


 リルキュアさんの冷静な突っ込みに、暢気な感想を口にしていたボクとヤマト君も苦笑いです。

 残念ながら瞬間移動などは実用化の目途が立っていないどころか、まともな実証実験すらできていないという話だからねえ。

 それにしてもそう考えてみるとまだまだ想像や空想に追いついていない事柄は多い訳で。

 世間の学者さんたちにはぜひとも頑張ってこれからも夢と希望にあふれた技術を実用化していってもらいたいものだね。なんて他人任せなことを考えていたのでした。


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