19 ランダムイベントの完了
「あなたもドラゴンさんが町の守護竜になることには反対なんですか?」
どうにもその人の立ち位置が掴めなかったボクは、単刀直入にそう切り出した。
「まさか!ドラゴンの中でも上位に位置すると言われているブラックドラゴンが守護してくれるとなれば、これほど心強いものはないさ!」
あ、これは間違いなく本心だ。新しいゲームの発売日を前にした里っちゃんと同じようなワクワクした表情をしているもの。
「こんなことを言うと不謹慎だと思われるかもしれないが、ドラゴンをこの目で見ることができるとは思ってもみなかったから、今、こうしていられるのが夢のようだ」
この調子なら、クンビーラ側の受け入れについては彼に任せれば大丈夫そうな気がする。
「ということだから、ブラックドラゴンさんは今日から『自由交易都市クンビーラ』の守護竜ね」
「ま、まて!我はまだ同意した訳ではないぞ!」
往生際の悪いオオトカゲだなあ。
「……敗者は勝者の言うことを一つだけきくこと」
「うぐっ!?」
さっきの勝負に付けた条件の一つだ。ボクにしか勝利条件が設定されていなかったことから目をそらさせる目的で付けていただけなんだけど意外なところで役に立ちそうだ。
「まさか偉大なドラゴンが口約束とはいえ、一度交わした約束を反故にするようなことはしないよねえ?」
「……分かった。この街の守護竜になることを宣言しよう」
勝った!
《ランダムイベント『竜の卵』が完了しました。結果を精査しています。しばらくお待ちください》
インフォメーションが流れた!
随分と大掛かりだとは思っていたけれど、やっぱりイベントだったんだ!?というか超初心者には遭遇しないようにしておいて欲しいです。
エッ君が止めてくれたお陰で助かったけれど、そうじゃなければ今頃おじさんの荷馬車の上からやり直しになっていたところだ。
《精査が完了しました。結果を発表します。
竜の卵…保護。ただしテイムして仲間にしているので生存ボーナスは無効とします。
ブラックドラゴン…未討伐につき、討伐ボーナスはありません。
NPC…死傷者なし。ボーナスとして技能ポイントを二個お送りします。
街…被害なし。ボーナスとして技能ポイントを二個お送りします》
ほうほう。つまり『技能ポイント』とやらを四個もらえた訳だね。
それにしてもブラックドラゴンって倒せるんだ……。一体何レベルまで上げればまともに戦えるようになるのやら。
そして街や人が無事だったことでボーナスが出たということは、被害が発生することを前提としてイベントが作られていることを意味しているのだと思う。
そういえば、エッ君に出会った場所自体は街の中だったよね。いつの間にか外に出ていたから良かったものの、もしものんびりしていたら、ブラックドラゴンが街中に降り立っていた可能性すらあったのだ。
改めて思い返してみるととんでもないイベントだったね……。
ホント、よく生きていられたものだ。
インフォメーションの確認をしている間にも、騎士さんとブラックドラゴンの話し合いは続いていたようで、正式に守護竜となるために、近々街の支配者である公主様とかいう人と会うことになったようだ。
「その時にはお嬢さんにも同席してもらいたい」
「全力で拒否します!と言いたいところだけど、ダメですよね……?」
「ダメだな。巻き込まれたことを考慮したとしても、事の原因は君の腕の中にいるその幼竜にもある。それらの事を踏まえてしっかりと説明してもらうことになるだろう」
はあ、お偉いさんと面会なんて気が重いなあ……。
「ところで話は変わる、というか、この場合は原点に戻るというべきか。一体全体どういった経緯で君はその幼竜と出会うことになったんだね?」
騎士さんに問われ、いい機会だからクンビーラの街に入って以降のことについて話しておくことにした。
「あー、つまり君は大通りを真っ直ぐ行けば到着していたところを、わざわざ裏路地に入って行ったと?」
そう言われてしまうと身も蓋もないというか、なんだかボクがすっごくおバカちゃんのように聞こえてしまうのですが。
「だが、そのおかげで幼子の命が救われたのだ。感謝する」
ブラックドラゴンさんに感謝される時が来るなんて!出会った時からは考えられない状況だ。
まだほんの一時間前のことなんだけどさ。
「そして男たちから逃げている間に、街の外に出ていたと」
「まあ、そのくだりは信じられないとは思いますけど、気が付いたらあの辺りにいました」
振り返って例の粗末な建物を指さす。すると、騎士さんや衛兵さんたちの目が鋭く細められたような気がした。
「あそこか。壁の内側はどのあたりになる?」
「はっ!グヤギン一党が取り仕切っているスラムの中でも特に治安の悪い一帯だろうと思われます」
「この後すぐにでも取り締まりに向かう。それとここから抜け出す者がいないとも限らない。事が完了するまで、この場にも見張りを置くことにする」
「はっ!」
見張りねえ。でも、それってブラックドラゴンさんにここに居てもらえば済む話じゃないのかな。
どうせここまで関わってしまったのだから、このくらい進言しても問題はないだろう。
「すき好んでドラゴンの目の前を通ろうとする人なんていないんじゃないですかね?」
「それは……、確かにその通りだな。ブラックドラゴン殿、お願いしてもよろしいか?」
「そやつらは幼子をさらった痴れ者の仲間かもしれないのだな。そんな愚か者に我が手で引導を渡せる機会を与えてくれるというのだ、断る理由がない」
いや、引導を渡してもらっちゃ困るんだけどね。
背後関係や他との繋がりなどを吐かせる必要があるから、できれば殺さずに捕まえておいてもらいたいものだ。
その後、ボクは騎士団と関わりがあるという宿屋を紹介してもらった。そして翌日には冒険者協会まで誰かが同行してくれるというお接待ぶりだ。
実際は、また迷子になって騒動を起こされたら困る、という何とも返答に困る理由だったけれど。
「つ、疲れた……」
ベッドにエッ君と並んで横になると、お休みの挨拶も早々にログアウトすることになったのは言うまでもない。
こうして、波乱尽くめだったボクのプレイ初日はようやく終わりを告げることになった。
わずか数キロ先の目的地にすらたどり着けなかったという不名誉な記録を残して……。
次回投稿は明日の朝6:00の予定です。




