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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第十五章 『銀河大戦』1 一日目午前

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186 タイムアタックに向けて

「つまりですね、景品獲得を狙うなら練習開始から数分で完了させないといけないんです」

「一口に数分といっても幅があるわよ。『テイマーちゃん』は具体的に何分と考えているの?」

「一分です。ただこれは確実に上位に食い込むための最低ラインですけど」


 ボクの解答に目を丸くする皆。練習用フィールドは五マス掛ける五マスの全二十五マスとなっている。その内の一つはスタート地点なので実際には二十四マスを自陣に変えなくてはいけないことになる。


「一見すると不可能なように思えるかもしれませんけど、意外とそうでもないんですよね」

「え?」

「第一に、ここはリアルと違って全力疾走を続けることができます」


 より正確にはスタミナ的な隠し数値が存在しているらしく、少しずつ速度は落ちているそうだ。

 が、ブレードラビットの集団に追いかけられた時のことを思い出してみると、減少値は極々わずかだったような気がする。

 どんなに頑張ったところで――無駄に走り回らない限り――一キロに届きようがない練習用フィード内においては、はっきり言って誤差の範囲だろう。


「そして二点目。ボクたちは六人いますが、常に一緒に行動する必要はありません」

「言われてみればその通りだ!」

「一回目の時には皆で一緒に動いていたから、すっかりド忘れしていたわ……」


 仕様の確認もあったので大半は全員で行動していたのだ。

 あれはあれで、あーだこーだと言いながら色々試せて楽しかったけれど。


「という訳で、本番同様にいくつかのユニットに分けてやれば、一人当たりの負担は小さくなりますよ」


 例えば六人全員がバラバラに動けるのであれば、一人当たり四マスを自陣地化するだけで良いということになる。

 まあ、これは理想論的な話であり、実際のところはもう少し制約が付くことになるだろうけれど。


「もしかしなくと『テイマーちゃん』は既に作戦を練り上げているのではありませんか?」

「練り上げたなんていえるほど立派なものじゃないですよ」


 ミザリーさんの問いに肩をすくめながら答える。実際のところ何とか思い付いたというのが精々だったからだ。

 が、なぜかそれは謙遜と受け取られてしまい、皆からはその作戦を教えて欲しいと言われてしまったのだった。

 叩き台にでもしてもらえるのであれば、それはそれで嬉しいので別に構いはしないのだけどね。


「えっと、ボクが思い付いた作戦は……」


 練習用フィールドの図を出現させて説明していく。


「……………………」


 ところが開始早々に、改善点や問題点を探しだしたのか全員が黙ってしまう。そしてそれは説明が終わった後も続いていた。

 うーん、沈黙が辛い。


「……思ったんだけど、この作戦だと『テイマーちゃん』の負担が大きくないか?」

「私もヤマトさんの意見に賛成です。これでは不公平だと思います」


 最初に声を上げたのはヤマト君とミザリーさんだった。

 二人には本番と同じくコンビを組んで行動してもらうつもりだ。そしてその点についての異議はないもよう。


「そうかな?確かに担当するマスの数は多いけど、全部スイッチマスだから下手をすれば皆よりも簡単だと思うんだけど」


 もちろんそれは他の人たちと比較しての話であって、担当するマスが多いイコール移動距離が長いため、楽な役割とは言えないものとなっている。


 さて、今の独白(モノローグ)で気が付いた人もいるだろう。

 今回ボクが思い付いた作戦は、メンバー全員に対して相当な負担を強いるものだった。もう一歩踏み込んだならば「無謀な提案だ」と確実に怒られていただろうと思う。


「受け持つマスの数は四マス以上だし、ボク以外の皆はロボットマスが二つ以上ありますから、負担というなら全員同じくらいになると思います」


 反対意見を述べたヤマト君とミザリーさんコンビだって、状況次第では三つ目のロボットマスに進まなくてはいけないのだ。

 遥翔さんだって残る隙間を埋める形になるからボク以上に移動距離が長い。マサカリさんに至っては担当するマスが全部ロボットマスとなる。

 能力値や相性等々にも考慮してみた結果とはいえ、改めて見てみると偏っているなと思える内容だ。


「リルキュアさんはどう思いますか?」

「そうねえ……。それなりに『笑顔』歴が長いプレイヤー個人としては、もう一マスくらいは担当を増やして欲しいと思ってしまうわ」


 しまった!

 効率のことばかり考えて、そうした心情的なことにまで頭が回っていなかった。


「でもね、キャラクターとしてはこれが限界だろうと感じ取れてしまうのも確かなのよ」


 ピグミー種というリアルとは異なる体格の種族を選択しているからこそ、彼女にはアバターでの行動範囲の限界が分かっているようだ。


「ゲーマーの先輩としてはちょっぴり悔しいものがないと言えば嘘になるけど、その分与えられた役割はきっちりこなしてみせるわ」


 そう言って笑うリルキュアさんはとても素敵な大人の女性のように感じられた。

 ……見た目は幼女だけど。


 ともあれ彼女の一言が決め手となり、ボクの考えた作戦で練習用フィールドのタイムアタックに臨むことになるのだった。


「それじゃあ、最終確認を行いますね」


 先ほども発生させた図を再度空間に浮かび上がらせて皆に手順を説明していく。ちなみに左上の角をスタート地点としているよ。


「まずマサカリさんですが、対角線上に向かってロボットマスを順に潰していってください」

「おう!戦闘なら任せとけ!」

「次にリルキュアさんは真下に向かって順に進み、突き当りの右のスイッチマスが最後になります」

「了解。さっきも言ったけれど全力を尽くすわね」


 この二人のルートは分かり易いので迷うことはないはずだ。


「ヤマト君とミザリーさんのコンビですけど、リルキュアさんとは逆に右へと突き当りまで進みます。最終地点は左下のロボットマスか、それとも真下のスイッチマスかのどちらかになりますが、それは近くにまでやって来ているはずの遥翔さんと確認し合って決めてください」

「へへっ、どうせ俺たちがロボットマスになるさ」

「そうなれるように頑張ります」


 根拠のない自信だけど、それでも頼りがいを感じられるのはヤマト君の人柄なのかな。ミザリーさんのフォローがあるっていうのも安心感の元なのだろう。


「ボクは対角線を挟むようにしてあるスイッチマスを担当します。そして最後に遥翔さんですけど、残っている離れた場所にあるロボットマスを中心に担当してもらうことになります」


 ボクから見れば最も負担が大きいのが彼となる。移動距離が長いことに加えて、最悪担当する四マス全てがマサカリさんと同じようにロボットマスになるかもしれないのだ。


「いえいえ。こういう穴を埋めるような作業は自分の得意分野なので、気にせずに任せて欲しいです」


 うん。本当に良いメンバーと巡り会えたものだと思うよ。


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