185 基本作戦決定
一回目の練習を踏まえて考察を行い、本番での基本戦略を決定していく。
「遥翔さんは機動力を生かして中央から奥のマスを自陣地化しつつ他のチームを引っ掻き回してください。リルキュアさんも似たような動きになりますけど、何はともあれロボットマス自陣地化して拠点を作ることが最優先となります」
そうやって二人が他のチームを足止めしたり動きを鈍化させたりしている間に、残るメンバーでスタート地点近くのマスを確実に自陣地にしていくというのが基本的な流れとなる。
「そっちはできるだけタイムロスなく進めるように、通常戦闘でロボットを倒せるヤマト君とミザリーさんのコンビとマサカリさんプラスボクの二手に分かれて進めていこうと思います」
ただしヤマト君たちは常に一緒に行動するけれど、マサカリさんとボクは状況によってはさらに二手に分かれることになりそうだけどね。レベルが低すぎて対ロボット戦では役立たずでも、スイッチを押すだけならマサカリさんよりも素早くこなすことができるからだ。
「自陣化するマス数の目標はどのくらいかしら?」
「そうですね……。練習用フィールドと同じ二十四マスにプラスアルファを取れれば、ある程度は安定して勝つことができるんじゃないかと思っているんですけど」
今回のイベントは一試合につき四チームによるバトルロイヤルで行われるため、三チームの動向に気を配らなくてはいけない。さらに、初期状態に比べて別チームの陣地になったマスを奪うのは面倒になっている。
これらのことから、どのチームもスタート地点近くのマスを確実に自陣化することを優先するのではないかとボクは予想していた。
「終盤の中央付近のマスの取り合いで勝敗が決すると考えているんですね」
「そういうパターンの試合が多くなるとは思っています」
「それに対して、うちは序盤から他チームへと攻め込んで行く訳だな」
マサカリさんの言葉にコクリと首を縦に振る。
まあ、プレッシャーを与えたり撹乱させたりするのが主目的なので、厳密に言えば攻めるのとは少し異なるのだろうけれど。
「でも、作戦が上手くいったとしても極端に大勝ちできるのは一回戦だけになると思います」
「え?どうして……、ああ!対策を取られたり真似されたりするってことですね!」
今回のイベントでは試合の順番による有利不利を無くすために全ての試合が同時に行われるようになっている。しかしそのもようは記録されており、休憩時間などには自由に閲覧できるようになっているのだ。
また、対戦相手も分かるようになっているので、遥翔さんの言う通り熱心なチームであれば確実に次の試合までの間に研究をして何かしらの手を打ってくるはずだ。
「二回戦以降については今から考えていても仕方がないわよ。トーナメント形式だから、それこそ一回戦負けして終わりになってしまうかもしれないんだから」
リルキュアさんの台詞に苦笑いを浮かべる。正論なだけに幼女な外見の彼女に言われるととてつもなくシュールに感じてしまうのだよね。
と、そんな風に最終確認をしていると、どこからともなく「ピンポンパンポーン♪」という聞き覚えのある声が響いてくる。
校内放送とかの前に流れてくるアレを真似ているらしい。馴染みのある音調に男性陣の三人が「ぶふっ!?」と吹き出している。
相変わらず芸が細かいというか遊び心が満載というか……。お茶目な猫さんです。
「プレイヤーの皆様におかれましては本戦前の準備中のところ失礼いたします。間もなく十一時半となります。練習用フィールドへの挑戦は十一時五十九分までとなっておりますので、まだ挑戦回数が残っているチームの方は早めにトライしてください。制限時間になりますと強制的に終了することになります。先の説明でも行ったように短時間クリアなど成績優秀なチームには後ほど景品が贈られますので頑張ってください」
ボクたちもまだ挑戦回数は一回残っている。前回で仕様の確認はできているので、次は景品狙いでやってみるのも面白いかもしれない。
「また、十二時になりますと全員を最初の場所へと転移することになっていますので、その時間にはログインしているようにお願いします」
いなかったからといって出場権をはく奪したりはしないけれど、せっかくの機会なので集まってもらいたいとのことだった。
運営のさびしんぼ疑惑浮上です。
実際のところはホームページ等へ映像を上げるのに、人数が少ないようでは格好がつかないという部分があるようだ。
「それではよろしくお願いします。以上で放送を終わります。ぴんぽんぱんぽーん♪」
うん。最後もやっぱり自分で言ってたね。
クスクスと笑っていたら皆の顔つきが変わっているのに気が付くのが遅れてしまった。
「景品か……」
「どんな物なのか分からないのは不満だけど、貰えるものなら貰っておきたいわよね」
「同感です。それに目的が明確であれば努力のし甲斐もあるというものですから」
「今の自分たちがどれくらいやれるのか、試してみたいというのもありますね」
「さっきの話し合いでも思ったけど、俺たちなら結構いいところまで行けるんじゃね?」
おお!皆さんやる気になっておられる。
確かに今の段階での全力がどれくらいになるのかは確認しておくべきだろう。ついでに景品も魅力的だし。
そこで確かな手ごたえを感じられれば本番への弾みとできる。逆に上手くいかなくても直前の段階で欠点や改善点を見つけられたということになるので、それはそれで価値がある。
どう転んだとしてもマイナスにはなり得ないのだから積極的に挑戦してみるべきだろうね。
「水を差すようで申し訳ないんですけど、せっかく挑戦するんですからしっかりと作戦を練っておきませんか?」
口を挟むと、皆ハッとした顔になる。こういうことは勢いも大事なので、そのままでも面白い成績は残せたかもしれない。
でも、どうせやるのであれば次へと繋がるようにしたいと思うのだ。
「作戦を練るって言っても、もう時間がないぜ?」
ヤマト君が表示させたデジタル時計風の数字を指さす。
アウラロウラさんによる放送から既に五分が経とうとしており、その事実に他のメンバーたちも顔をしかめていた。そんな彼らにニッコリと笑顔を向ける。
「ということは、まだ十五分はあるってことだね!」
そう言い切ったボクに、皆は唖然としていた。




