165 出会い
まさかあの話の流れから、ミノムシさんとリザードモールの襲撃が全く関係ないものだったとは……。
でも、よくよく考えたらあれからまだ数時間も経ってはいないのだよね。そんな短時間でたくさんのお偉方からのお説教アンド叱責を受けることはできないか。
さて、そうすると彼の行ったことは全て未遂であり、直接的には被害を受けたりはしていないということになる。
「(ミノムシさんへの個人的な罰などに関してはボクの方から言うことは何もありません。ただし、二度と同様のことが起こらないようにしてください)」
変に欲をかいたところで得などないだろうし、むしろお互いに信用度を減らすことになるだけだと思う。この辺りが落としどころだろうね。
何といってもさっきの様子からして、罰の内容がぬるいと判断すればアウラロウラさんの方でビシッとしつけてくれるような気がするもの。
「(分かりました。こちらはお任せください!)」
どちらかというとやり過ぎないように注意が必要かも?
にゃんこさんのお顔に満ちているやる気にどことなく不安に駆られながらも、任せると言ってしまった手前ボクにできる事はミノムシさんの無事を祈ることだけだったのでした。
余談だけど、ボクたちが広場から去った後すぐにミノムシさんの姿もまた消えてしまったのだとか。
彼が一体どうなったのかは……、誰も知らず、運営に問い合わせても「お騒がせ致しました。彼の処分は完了しております」という物騒な内容の一言が返ってくるだけだったという……。
怖っ!?
そして少しばかり時間は過ぎてその日の夜。
リアルでの晩御飯などを終わらせてから『OAW』にログインしたボクは、自分のワールドに戻ることなくメイション内をうろうろと探索していた。
あの後、プレイヤーたちから注目され過ぎてミノムシさんに見つかってしまいそうになったため、広場での用件が終わっていたこともあって急遽一旦ログアウトして姿を隠すことにしたのだった。
まあ、時間的にそろそろ休憩を入れる頃合いともなっていたから、ちょうど良かったとも言える。
本編ワールド内でのおじいちゃんたちとの会話も含めて、情報を整理したかったということもある。
ほら、新しい武器のこととか、今の内からじっくり考えておかないと決め切れずにずるずると先延ばしにしてしまいそうだからね。
思い立ったが吉日ということで「ハルバード」「動画」で検索してみると出るわ出るわ。
うわあ、こっちのやつなんてリアルで撮影したものだよ!?ひいいっ!危ない怖い!?見ているこっちの寿命が縮んでしまいそうだからパス、パス!
と、一人でドタバタやっているところにメールが届いた。送り主は……、アウラロウラさん!?
また何か問題でも発生したのかと慌てて開いてみたところ、危惧したようなことは起きてはいなかったのだけど、代わりに指令が一つだけ書かれていた。
「《公式イベントが開催された時のために、今の内からメイションにいる他のプレイヤーたちに顔を売っておいてください。なお、『テイマーちゃん』であることは秘密にしておいて結構です》」
ふむ。これはつまりあれだね、いざ本番になって、実はボクが『テイマーちゃん』でした!と発表してプレイヤーの人たちをビックリさせようという魂胆だね!
まあ、明後日の週明け月曜日には公式イベントに『テイマーちゃん』が参戦するという通知が行われる予定になっているし、それと合わせたようにメイションをうろつき始めたということから、勘の鋭い人ならば気が付いてしまう可能性はある。
が、それもまた公式イベントを盛り上げるための一興にしてしまおうと考えているのかもしれない。
そんな指令を果たすべく、ボクはあっちへウロウロ、こっちへキョロキョロとプレイヤーたちのお店を冷やかして回っていたのだった。
幸い、軍資金には困ることはなかった――ブラックドラゴンの一件でもらった報奨金のこと。このくらいの無駄遣いではなくなる気配もないです――ので、気になった品物は買い込んでいますよ。
主に食べ物関係ですぐにお腹へと消えてしまったけど。
「うん?これって……?」
それを発見したのは、雑貨系の大きなお店の軒先を借りるように出していた露店でのことだった。
それは、それぞれ一抱えはありそうな二人の女の子のお人形。
一人は金髪をドリルな縦巻ロールにしていて勝ち気な表情で微笑んでいる。それでも我が儘には見えないのは内心を映し出しているからなのかもしれない。
もう一人は真っ白な髪がはかなげな印象を与えながらも、その実芯の強そうな顔をしていた。髪の間からピョコンと飛び出したお耳が可愛らしさを倍増させていた。
「ミルファにネイト、だよね?」
「あはは。一発で見分けるなんて、さてはあなたも『テイマーちゃん』のファンね!」
ボクの呟きに楽しそうな声を上げたのは、この露店の店主であろうお姉さんだった。外見通りであれば年のころは二十歳くらいだろうか。
艶のある黒髪を肩くらいから三つ編みにしていたのだけど、なんとその長さは腰を下ろしている露店の床にまで届くほどだった。リアルでならばお手入れだけでも一苦労になりそう。
「いやー、実は私も『テイマーちゃん』のファンなのよ。しかも同じ『風卿エリア』でさ。彼女がパーティーを組んだっていうミルファシア様にぜひとも会いに行かねば!ってことでクンビーラにまで行ってみた訳。そしたらなんと、ネイトちゃんにも合うことができてね!運命って本当にあるんだって実感できた一時だったわ」
それでいいんですか、あなたの運命?まあ、本人が幸せそうなのだから、外野のボクがとやかく言うべきことではないのだろうけれど……。
あれ?でも、元はと言えばいえばボクが書いた報告を読んだせいでこうなったのであれば、ボクも当事者ということになる?
深く考えていくと泥沼にはまりそうだから止めておこうか。
「本当は『テイマーちゃん』の人形を作りたいのだけど、プレイヤーを基にするには相手の承諾が必要なのよねえ……。しかもプレイヤー同士でのトラブル回避のために運営の用意した専用のアイテムを使用しなくちゃいけないっている徹底ぶりだし。まあ、その分承諾してもらってからは気楽に作ることができるんだけど」
立て板に水の勢いで繰り出され始めたマシンガントークに、ボクは二重の意味で引きつった笑みを浮かべるしかなかったのだった。




