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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第十四章 公式イベントに向けて

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161 実は出世頭でした

「えっと……。なにゆえミノムシ?」

「それはあの者がルール違反を犯したからですね」


 ルール違反?どういうことだろう?詳しく尋ねようにも立ち止まってしまったボクを置いて、アウラロウラさんはそのままスタスタと歩いて行ってしまっていた。

 こんな場所で置いて行かれては大変なので、慌ててその背中を追いかける。


 ミノムシさんはちょうど広場の中央、高さにして二メートルくらいの位置に足先がくるようにして釣られていた。

 リアルとは異なり体格をある程度自由に決めることができる『OAW』においては身長が二メートル前後というプレイヤーも少なくはない。そんな人たちが集っていても見えるという、何とも絶妙な高さに配置されていたのだった。


 それにしてもあの人を釣っている縄なんですが、どこかに繋ぎ止めているという訳でもなく、上部の先端は空中に溶けるようにして消えているね……。

 ゲームの世界ならではの不思議映像と捉えるか、それとも建物等を設定するのを省いた手抜きと捉えるかは、見ている人次第ということになりそうだ。


 ボク?ボクは割とどうでもいいというか、未だにどうしてアウラロウラさんが出張ってきているのかが理解できずに、そこまで気が回ってはいなかったというのが本音のところだった。


 そのアウラロウラさんだけど、どうやらプレイヤーの間では結構名前も顔も知られた存在であるみたいだ。

 先ほどから彼女の姿を見ては緊張している人や、周りの人に慌てて声をかけている人を頻繁に目撃することができていた。

 微妙に体を強張らせていたりビクリと肩を跳ねさせたりしているのは、十中八九、彼女のイタズラの餌食になったことがあるためだと思われます。掲示板などの書き込みを見てみた限り、被り物から着ぐるみまで幅広くやっているみたいだからね……。


 ただ一つ気になるのが、一部プレイヤーたちの動きだ。にゃんこさんを、正確には彼女の胸の辺りを見た後でミノムシさんを確認するように見て、そして「なるほど」と頷いていた人たちがいたのだ。


 ちなみに男女差はそれほどないように感じられた。まあ、比率的には男性の方が多かったのだけど、そこは、ほら。視線が引き寄せられるというか不可抗力な部分もあるのでしょう、きっと。

 そもそも運営の公式発表によると、プレイヤー全体の男女比からして男性の方が相当多いという結果が出ているのだから、そこまで大きな偏りがあるとは言えないと思う。


 それはともかくとして、彼らは一体何に納得していたのかしら?

 現状で尋ねることができそうな相手となると、少し先を相変わらずの速度で進んでいくアウラロウラさんただ一人のみ。

 問題はさっきも言ったように、周囲のプレイヤーさんたちから注目されているということだ。そんな彼女に話しかけたりすれば、当然ボクまで目立ってしまうことになる。


「リュカリュカさん、何か聞きたいことがおありなのでは?」


 などと逡巡(しゅんじゅん)していたところに、注目の的になっていた猫さんからお呼びがかかってしまう。

 おうふ……。完全にわざとだよ。

 むしろ一番効果的な頃合いを見計らっていたのだろう。


「むうう……。わざとボクを広場の中まで引き込みましたね」

「申し訳ありません。少し時間が押していまして、早急にリュカリュカさんのことを他のプレイヤーに周知しなくてはいけなかったもので」


 ボクのことを周知?

 ……ああ、そう言えば公式イベントの開催が近付いていたね。確か、ちょうど一週間後だったのではないだろうか。


「ということは、もしかしてこれは全て仕込み?」

「いいえ。あの者が違反をしたのは事実ですし、先ほどの『噴水広場』でのワタクシの失言などに関しては成り行きということになります。人間に近い反応や行動をするという設定が裏目に出てしまいました」


 アウラロウラさんの話によると、彼女の本来の業務はあくまでも初回案内役ファーストナビゲーターであり、ゲームを始めたばかりのプレイヤーのキャラクターメイキングに助言を行ったり、世界観の説明をしたりするというものだった。

 その役割上、AIたちの中でも特に人間臭い挙動をするようにプログラミングされていたのだが、当初の予定では実際にゲームを始めたプレイヤーとの接触がないはずだったので、問題点となるとは想定されていなかったのだった。


「ところが趣味で行っていた変装が、ことのほかプレイヤーの方々から反響をいただくことになりまして」


 うん。まあ、ボクの時もかなりのインパクトがあったからね。愚痴る人もいれば面白がる人だって当然いただろう。

 というか、あれは趣味だったのか……。


「そこにリュカリュカさんのあの一件です。実はキャラクターメイキングを終えてゲーム開始直後に『竜の卵』をクリアしたとあって、ワタクシたちの間では大騒ぎになっていたのですよ。なにせあのイベントは、運営内部でもよほど運が良くなければクリア不可能なのではないかと言われていたほどの鬼畜難易度ですから」


 突発的に発生する理不尽を表現してみた、というのが作成した担当者の弁であるのだとか。

 そんなイベントを作る担当者もおかしいけれど、それを実装させてしまう『OAW』運営チームの方も相応にぶっ飛んだ集団だと思う。


 余談だけどボクの場合、テイマーという職業を選んでいたことに加えて、前提となるイベント選択と噛み合ったことで、クリアするための道筋ができたのだそうだ。


「それでもブラックドラゴンにあのような形で勝負を持ちかけて勝利に持ち込むとは、誰一人として予想していない展開でした。味方になる勝利ルートを作っておいて良かったと、先の担当者は心底ほっとしていましたね」


 ただ、クンビーラの守護竜にさせるという流れまでは読みきれてはいなかったようで、ブラックドラゴンの里帰りは、いわば急遽データを作成するための時間稼ぎだったようだ。

 そしてアウラロウラさんはというと、キャラクターメイキングの際のやり取りを請われてボクの窓口役に抜擢されてしまったという訳だ。


「そうした経緯からワタクシの職務の幅がどんどんと広がるということになってしまい、ついにはこうして『異次元都市メイション』にまで出没しなくてはいけなくなってしまったのです」


 機能面も強化され、今では各種メインシステムに次ぐほどの処理能力を与えられているそうだ。

 リアルで例えるならば大出世というところかな。微妙な表情具合から察するに、本人的には大歓迎とは言い難いのかもしれないけれど。


 まさか、こんなことまでリアルに準拠する羽目になるとは、運営も予想していなかったに違いない。


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