151 できることできないこと
おじいちゃんが武器――だと思う――の巨大な金棒で地面をドカン!と殴りつけると、土の中に潜伏していたはずのリザードモールが瀕死の状態で浮かび上がって来た。
「え!?ちょっ!?何が起きたの!?」
「落ち着けリュカリュカ」
こんな不思議現象を見せられて落ち着いていられますか!
「地響きで目を回させたわけじゃないよね?それならこんなにダメージを負っていることの説明がつかないし、それにあの時、衝撃の威力が拡散することなくリザードモールに向かって行ったように感じたよ」
うちの子二人もコクコクと頷いているから、的外れな事は言っていないはずだ。
「ほっほっほ。案外冷静だったようだぞい」
「ああ、そうらしいな。……理屈としては今お前が推察した通りだ。と言っても、俺も詳しく理解している訳じゃないんだがな」
まあ、おじいちゃんも良く言えば感覚派、悪く言えば脳筋思考だからね。必要な時に要求通りの結果が出るなら問題ないとして、細かい原理については気にしていなかったとしても不思議ではない。
「えーと、ゾイさん。解説お願いします」
「分かったぞい。……しかしその前に、あいつを倒してしまった方が良さそうだぞい」
そういえば、おじいちゃんの謎な一撃でも倒しきれてはいなかったのだった。
「了解です。ささ、止めを刺してきてください」
パワーレベリングをさせてもらうつもりなんてさらさらない。それにそもそもの話として、『OAW』ではパーティー内でのレベルの差や、倒した敵とのレベル差が大きい時には獲得できる経験値が大幅に低くなるように設定されている。つまりパワーレベリングができ難いようになっているのだ。
今回の場合、パーティー内にボクがいることで少なからず獲得経験値は減ってしまう。
しかし魔物とのレベルが近い分、おじいちゃんたちが最後まできっちりと倒しきった方が二人にとっては多くの経験値を貰うことができるのだった。
ここまでで気付いた人もいると思うけれど、レベル差による獲得経験値の減少は低レベル側だけでなく、高レベル側でも発生するようになっている。
ボクの護衛という依頼の面もあったけれど、一時的であれおじいちゃんたちがパーティーを組んで同行してくれることに驚いたのはそういう点もあったからだ。お守りをしなければならない上に稼ぎが減るとなれば、進んで引き受ける人はいないだろうし、ね。
「少ないとは言っても経験値を貰えるようになるんだから、リュカリュカが止めを刺した方が良いんじゃないのか?」
「ううん。ボクだと止めを刺しきれない内に復活してきちゃいそうだから、遠慮しておくよ。いくら瀕死でも、四十以上もレベルが上の相手から攻撃されたらただで済みそうもないし。それに稼ぎということなら〔風属性魔法〕や〔鑑定〕を使った分の熟練度が貰えるだろうから、それで十分」
経験値の減少に反比例するように、高レベルを相手に使用した技能の熟練度は多く獲得できるようになっているのだ。
ただし、これはあくまでも低レベルが高レベルを相手取った時のみが対象となるので、高レベル側にとってメリットにはならないため注意が必要だ。
ちなみに生産系の場合は、レアな素材を扱うことで同様の結果を得ることができるようになっている。もちろん、成功率は株価のストップ安並みに低く設定されているので、貴重な素材を無駄にするのが前提という扱いとなる。
そうしたボクの言い分が通り、リザードモールはゾイさんの魔法でさっくりと止めを刺されて鱗や爪などの素材へと変化したのだった。
《イベント『大地からの刺客』が完了しました。結果を精査しています。しばらくお待ちください》
インフォメーションも流れたし、一安心というところだね。
「さすがにこの件は冒険者協会だけでなく騎士団にも報告しておかなくちゃいけないと思うぞい」
「そうだな。最初の奇襲で街道にできた穴も直してもらわないといけないからな。東の町に着いたら一旦『転移門』でクンビーラに戻っておくか」
証拠品としてリザードモールの素材をアイテムボックスへと仕舞いながら、おじいちゃんたちが今後について話し合っている。
ボクはというと、まともに戦闘を行っていないので報酬については辞退していた。イベントの精査でもそういう扱いとなっていたので追加の報酬もない。
でも、熟練度に関しては予想していた通りしっかりと貰えていたので問題なしだ。
さて、二人の会話で出てきた『転移門』だけど、移動を簡略化するために街などに設置されているもので、いわゆる瞬間移動が可能な代物のことだ。
それなりに人口の多い町以上でなければ設置されていなかったり、訪れた場所にしか転移できなかったり、はたまた人間種――プレイヤーが選択できる種族のことだと思っておけば問題なし――しか使用できなかったりと制限も多いけれど、タイムロスなく離れた町へと移動できるとっても便利な施設であることに変わりはない。
余談だけど、東の町とクンビーラ間の移動代金は、なんと傷薬一本分の値段と同じ三十デナーという驚きの安さだったりします。
「ゾイさん、ゾイさん。それも大事だけど、ボクとしてはさっきの解説もお願いしたいところなんですが?」
「ほッほっほっほ。リュカリュカにしてみればそれが一番気に掛かることだぞい。東の町に着くまでの道すがらに話してやるぞい」
そういうことならば急いで出発できるように準備しなければなりますまい。〔鑑定〕で馬たちの様子や荷車に損傷がないかを確認していく。
うん。異常はなし。いそいそと荷台へと乗り込んで待機します。
「……なんで正座なんだ?」
「何となくだね!」
「さよか……」
馬に乗ったおじいちゃんからの突っ込みにキリッとした顔で答える。まあ、教わる際の身構えということで。あ、エッ君とリーヴは無理しなくてもいいから。
「ほっほ。それでは解説を始めるぞい。まずディランが放ったのは、打撃系の武器技能で習得することのできるものの一つで【クラッシュ】という闘技だぞい」
「MPを使用するのが難点だが、敵の防御を無効化して攻撃を与えられるから、この系統の闘技はなかなか使い勝手がいい」
ゾイさんに続けてのおじいちゃんの説明によると、この防御無効化の闘技は他の武器でも習得できるようになっているのだとか。ただし、使用している武器によって挙動や効果の表れ方が多少異なるようだ。
「リュカリュカは槍を使っているから【ペネトレイト】という闘技になるぞい。他に剣や斧といった斬裂系武器では【ブレイク】が同系統の闘技ということになるんだぞい」
貫通するということは、鎧の隙間や甲殻の継ぎ目などに潜り込むという処理になるのかな?
いずれにしても防御力無効とはロマンあふれる技ですね!




