145 報酬の分配
建物内にいた不審者を騎士さんたちが全員捕縛したところで、久しぶりのインフォメーションが流れてきた。
《イベント『潜入工作員』が完了しました。結果を精査しています。しばらくお待ちください。なお、本イベントはランダムイベント『竜の卵』と連動していたため、開始宣告はされませんでした》
うん。知ってた。
これだけ大規模にあちこちが動いていたことだ。イベント扱いされて当然だろうね。むしろイベントじゃないなんて言われた方がびっくりだっただろう。
それにしてもこのイベントのタイトルからすると、この件はヴァジュラや『闘技場主』ではなく、『毒蝮』の方が主体となっていたのかもしれない。王冠がどうのこうのと、別のイベントに絡んでくる内容のことを口走っていたしね。
《精査が完了しました。結果を発表します。『毒蝮』…捕縛。ボーナスとして技能ポイントを一ポイントお送りします。テイムモンスター…討伐済み。素材が獲得できるため、別途ボーナスはありません。その他の諜報員たち…一名を自勢力側への勧誘に成功。ボーナスとして技能ポイントを一ポイントお送りします》
大体は予想した通りの報酬内容と言えそう。でも最後の一文の様子からすると、やりようによってはこの建物内にいた人の大半を味方に引き入れることができたのかもしれない。クンビーラにとっては喉から手が出るほどに欲しい人材たちと言えるので、後で宰相さんにでもそれとなく話だけは通しておくとしよう。
問題の報酬の配分だけど、NPCには技能ポイントを使うことができなくなっているようだから、そちらをボクとエッ君とリーヴで一つずつ分けることにして、ショートバイパーズとエメラルドサーペントの素材、もしくはその売り上げをミルファとネイトに回すようにすれば良いんじゃないかと思う。
これまでのイベントでもらった分も含めて、そろそろ技能ポイントを使用しておくべきかな?いつまでもアイテムボックスの肥やしにしておいても意味がないからね。
一応、後片付けに奔走している騎士さんの一人を捕まえて確認してみると、「あの魔物を倒したのはリュカリュカなのだから、好きに処分して構わない。むしろさっさと処理してくれ」との許可の言葉?を頂いたので、遠慮なく初心者用ナイフでプスリとして素材に変えていく。
そして得られたのがこちら。
「ショートバイパーズの方が『短蛇の毒袋』が二つに『小魔石』が四個で、エメラルドサーペントが『緑蛇鱗』が三枚と『中魔石』が一個かあ……。大きさの割に明らかに鱗が少ないけど、ゲーム的にはそんなものなんだろうね」
頭から尻尾の先まで数メートル、胴回りは数十センチもある巨大な蛇だったから、その鱗が全部素材として手に入ってしまえば、大量になり過ぎてしまう。
それにドロップ数が少ない分、アイテム製造に要求される素材数も少なくなっているのだから、バランスは取れていることになるのだろう。
ちなみに、ショートバイパーズの方から同じ素材が複数個取れているのは、群体という扱いだからのようだ。一匹ずつ潰されていったから最期こそバラバラになっていたけれど、最初登場した時にはメデゥーサの頭みたいに蛇たちが絡み合っており、まさにに一塊の群れという感じだった。
「魔石の方はともかく、残りの素材は見事なまでに毒々しいですわね……」
並べられたドロップアイテムを見て顔をしかめるミルファ。毒袋は言うに及ばず、〔鑑定〕技能によると鱗の方も分泌液の影響なのか、毒の性質を蓄えていたのだ。
「わたくしたちには使い道が見当たりませんわ」
ネイトも似たような感想なのだろう、コクコクと頷いている。
「そうかな?これを武器に塗っておけば、強い魔物でも楽に倒すことができるかもしれないよ」
毒無効やその上の状態異常無効なんていう性質を持った敵には一切意味がないけど、まだまだ序盤である現状ならそこまでの心配はしなくてもいいはずだ。
戦力アップに繋がるのであれば、確保しておいても損はないと思う。
「リュカリュカは時々、とんでもなくえげつないことを思い付きますわね……」
「いやあ、それほどでも」
「誉めてないですわよ!」
あっはっはと笑いながら答えるとすぐさま突っ込みが入る。分かりやすいネタは反応が早いからいいよね。それはともかくとして、
「でも、反対しているのが毒物を使うのは卑怯だとか、プライドに傷がつくとかいう理由なら却下だから」
真面目な顔に切り替えて言い切ると、急に真面目モードになったボクの変化について来られなかったのか二人は顔を見合わせていた。
「別に忌避感などはありませんわ。ただ……」
「リュカリュカ、毒を用いて倒すということは、当然魔物の体に毒が回ることになります。そうなれば、その魔物の肉は食用にはできなくなってしまいます」
「なんですと!?」
いや、考えてみれば当たり前の話だよね。すき好んで致死毒に侵された肉を食べようとする人なんていないだろう。
もちろんボクだって嫌だ。
「魔物は害獣となる事も多いですが、獲物として、食料源となっていることも多いのです。だから冒険者の多くは毒を使うのを良しとしない傾向があるんですよ」
エッ君とリーヴもお肉を無駄にするのは反対のようで、ネイトの言葉に勢い良く首を横に振っていた。
「確かにそれは大問題だね……。毒禁止!決定!」
「い、一瞬で意見を翻しましたわね……」
カロリーも脂肪も気にする必要のないこの世界では、お肉に勝るものなど早々はないからね!
それに何よりこの毒を元に解毒薬を開発するなど、自分たちで直接使用しなくとも他に使い道はいくらでもある。まあ、ボクの〔調薬〕技能では熟練度が足りないから、研究自体は誰かに丸投げすることになるのだけれど。
「それじゃあ、この素材は宰相さんたちを通して信用できるところで研究してもらうということにするね。あ、でもそうなると代金が手に入るのは少し先のことになっちゃうかな?……うーん。大体いくらになるのか確認しておいて、ボクから支払っておくべき?」
「お金に困っている訳ではありませんから、急がなくてもよろしいですわよ」
「またミルファはそんなお嬢様なことを言って……。あのねえ、今の君は冒険者なんだから、働いた分はきちんとお金を貰わないといけないの!」
これを適当にしてしまっていると、終いには他の冒険者にまで迷惑をかけてしまうことにもなる。
ミルファへの教育は騎士さんたちがこの場の後始末を終えて、ボクたちを『猟犬のあくび亭』に送れるようになるまで続いたのでした。




