表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第十二章 ここからはボクたちのターン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

142/933

142 エッ君 vs エメラルドサーペント

 リーヴが毒ツチノコ集団(ショートバイパーズ)相手に蹂躙劇を繰り広げていた頃、エッ君は数十倍もの体格差のあるエメラルドサーペントと互角の戦いを繰り広げていた。

 しかしそれは残念ながら、消極的な意味合いでということになる。有効打があったのは登場時のカウンターのみで、それ以降は敵の大きさもあって迂闊に近付くことすらできなかったのだ。

 互角の戦いというよりは膠着状態という方が適当だったのかもしれない。


 それでも小回りの利くその小さな体を活かして動き回り、巨大蛇の攻撃の的を絞らせずにいる様は翻弄しているようにも見える。

 このままこちらのペースに引きずり込んでいけば、いずれは勝機が見えてくるはずだと思われていた。


「ジャシャー!」


 ところが、そうはさせないとばかりにエメラルドサーペントが大きく尻尾を振って、体表を濡らしていた分泌液をあちらこちらに飛ばし始めたのだ。


「うっそ!?」


 嫌な予感がしたのだろう、エッ君は間一髪でその全てをかわすことに成功していたが、その分泌液が付着した床の様子に、ボクはビックリ驚きの声を上げてしまった。

 なんと床板が焦げるように、または溶けるように穴が開いてしまっていたのだ。まるでリアルでの強酸のような代物だ。

 エメラルドサーペントの分泌液は体表を保護するためだけのものではなく、攻撃を仕掛けてくる敵対者に対する強烈な反撃装置でもあったのだった。


 それだけでも厄介なのに、この個体は自ら会得したのか、それとも『毒蝮』が〔調教〕した結果なのか、飛ばしてまき散らすという形で攻勢に利用していた。

 結果的に向こうの手数が増えてしまったことで、エッ君はこれまで以上に接近することが難しくなってしまっていた。それはあの子の得意とする間合いに入ることができないということであり、本領を発揮することができないということになる。


 一応、彼の〔竜帝尾脚術〕にも【裂空衝】という遠距離攻撃可能な闘技が存在するのだけれど、それを繰り出すためにはいわゆる「溜め」の動作が必要となってくる。

 一対一で、しかも敵の攻撃を辛うじて避けているという現状では、例え一瞬であっても動きを止めるということは、即敗北に繋がりかねない危険が付きまとっているのだ。


 一方的な展開に徐々にエッ君が焦れてきているのが分かる。このままでは遠からずの内に無理のある行動に出てしまいそうだ。

 一旦落ち着かせようと口を開こうとした時、エメラルドサーペントが正面一帯を薙ぎ払うように大きく尻尾を動かした。どうやら焦れていたのは相手も同じだったらしい。

 絶好のチャンスを逃すまいと床と尾――下腹部?下半身?――のわずかな隙間を潜り抜けてエッ君が肉薄していく。


 ゾクッ!


 刹那、背筋に言いようのない寒気が走った。『毒蝮』と初めて遭遇した時、薄暗い路地裏の通路に倒れていたミルファの姿が頭をよぎる。


「エッ君!」


 制止をさせるために準備されていた言葉は、まさにその役目を果たすためにボクの口から飛び出して行った。唯一予定と違っていたのは、その声音が悲鳴じみたものになってしまっていたことだろうか。


 しかし、そんな悲痛な思いを込めた言葉ですらもエッ君を掴んで留め置く縄とはなり得なかった。まるでボクの叫び声を後押しとしたかのように、彼はエメラルドサーペントの上半身へと接近して行く。

 ……そこに大口を開けて待ち構えている頭があったのだとしても。


 ――食べられちゃう!?


 目を閉じることもできずにただただ立ち尽くすだけのボク。バクリと巨大な口が閉じられると、エッ君の姿は影も形も見えなくなっていた。


 ……待って!?

 影!影はあるよ!


 その頃になると、エメラルドサーペントも口内に何もないことに気が付いたのだろう、訝しげな顔――多分ね!――で鎌首を持ち上げ始め――、


 ドゴン!


 大きな音と共にその頭は床へと貼り付けにされてしまった。衝撃に目を回す巨大蛇。その頭上にはつるんとした卵ボディが鎮座ましましていた。


「エッ君!?」


 なんとボクが最悪の状況を幻視してしまっていた間に、エッ君は上空へと飛び上がると、そこから【流星脚】の闘技で痛烈な一撃をお見舞いしたのだった。

 さらに彼はここが踏ん張りどころだと判断したのか、エメラルドサーペントの頭の上で足踏みのような連続キックを喰らわせ始めたではありませんか!


 ぱっと見は駄々っ子の地団駄のようだけれど、その威力は申し分ないようで踏まれる度に巨大蛇の体がビクンビクンと跳ねまわっていた。。

 その反応を見て楽しくなってきたのか、微妙にステップを踏み始めるエッ君……。

 その普段と変わらない態度と姿に、強張っていた身体から「ぶしゅるるるるー……」と空気が抜けていくのを感じる。いや、実際、乙女の口からは出してはいけないような音が発生してしまった気が……。


 ええと……。それほどまでに安心したのだということで、ここは一つ目を瞑って、いや、耳を塞いで頂きたいところです、はい。


「って、危ない!?」


 しかし、気を抜くには少し早かったようだ。

 その巨体にたがわない体力を持っていたようで、あれほどまでに痛めつけられたにもかかわらずエメラルドサーペントはまだ体を動かす力を残していたのだった。

 ダンスを踊るような華麗なステップで踏みつけを続けるエッ君に、先ほどの意趣返しとばかりに尻尾が振り下ろされる!


 ところが一枚上手だったのはエッ君の方だった。その反撃は織り込み済みだとひょいと頭上から飛び降りることで避難を完了する。

 結果、


「ブシュル!?」


 バチコーン!と尻尾で強かに頭を打ち据えてしまったのだった。でもよく考えたら今の攻撃って、エッ君がいたとしても自爆状態になるのは変わりないのでは?

 人間で例えるなら、顔に止まった虫をやっつけようとして、思いっきり鉄拳で殴ってしまったという感じだろうか。想像するだけでかなり痛そうな光景だ。しかも絵面的にはかなりお間抜けなので、羞恥心がプラスされて心身共に大ダメージを受けてしまいそう……。


 エメラルドサーペントに羞恥心があるのかどうかは不明なので、精神的ダメージについては良く分からない。

 が、身体的なダメージはしっかりと与えられているようで、痛みにのたうち回っている。


 この好機を逃がす手はない。何よりここで動かなければ活躍するチャンスがなくなってしまう。

 ご主人様の面目を保つために、慌てて魔法をぶつけては短槍を叩き込むボクなのでした。


 こうして、ショートバイパーズに続いてエメラルドサーペントも倒すことに成功したのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ