表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第十二章 ここからはボクたちのターン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

140/933

140 いざ、尋常に?

 前回のあらすじ。

 二時間サスペンスドラマで海沿いの崖の上に追い詰められた犯人よろしく、エッ君誘拐について白状した『毒蝮』。しかし彼の本当の目的は、謎の王冠を手にしてこの世界を支配することだった!?

 夢見がちな考えと大捕り物が行われている周囲の状況との落差が酷い……。今時お子様向け特撮番組の敵首領(大ボス)でも、そんな願望を持っていないのではないだろうか?


 それ以前に『風卿』が影響力を持っていたのは、大陸の一部の地域にしか過ぎなかったはずだよね?どうやってそれで世界を支配しようというのか。

 考えれば考えるほど、突っ込み所が追加されていくように感じられる。


「なるほど。リュカリュカだけでなく、あの時わたくしが襲われた理由がようやく分かりましたわ」


 ボクにとっては混乱を引き起こさせるだけの謎ワードの羅列だった『毒蝮』の台詞も、ミルファには疑問を紐解くためのきっかけとなったようだ。


「鍵となるのは『風卿の証』となる王冠の存在ですわ。リュカリュカも聞き覚えがあるはずでしてよ」


 もちろん覚えている。ミルファとパーティーを組む要因となった、郊外にあるとされる過去のクンビーラ公主のお墓、そこに埋葬されていたはずの王冠のことだ。でも、あれはたしか過去のクンビーラ公主が使用していた冠であって、『風卿』とは関係がなかったはず?


「得ようと足掻いていた『風卿』の流れをくむ王冠、時同じくして同じ意味合いを持つ物が現れたとどこからか聞きつけたことであの男は焦ってしまったのですわね。なにせその王冠があるのは『風卿』の正当な血筋であるクンビーラの公主一族の元だったのですから。本物かどうかは、恐らく関係がなかったのでしょう」


 どこの生まれとも知らない彼と、代々クンビーラを統べてきた公主一族であれば、後者の方が『風卿』の後継者としてはふさわしいとされるだろうとのこと。


「ですからあの時、リュカリュカだけではなくわたくしも排除しようとしたのですわ。有力なライバルとなり得る可能性がある者を消すために」


 ミルファが出した解答に『毒蝮』がふんと鼻を鳴らす。どうでもいいという態度だけど、それって要するに大当たりということだよね。


 依頼された仕事としては、ブラックドラゴンがクンビーラの守護竜となる事を阻止することだったのだろう。ボクが狙われていたのはその方が都合が良かったからだ。まあ、さっきの言い分からすると何割かは私怨もあったのだろうけれど。

 一方で、ミルファを殺そうとしたり、エルフちゃんを利用してクンビーラの公主一族を害そうとしたのは、『風卿』の後継者となるという自分の目的のためだった。


 ……道理で行動がちぐはぐに感じられた訳だよ。

 しかも偶然とはいえ、こちらの目を欺くという意味では見事に効果を発揮していたのだから迷惑な話。


「他にも聞きたいことや気になる事はありますけれど……。それは捕らえてからで構いませんわよね」


 そう言うとミルファは好戦的な表情になった。気が付けば彼女の得物である細剣と短剣は引き抜かれている。

 お、お嬢様が荒ぶっておられる!?


「皆さん、わたくしあの時の雪辱を晴らしたいのです。あの男を倒すのはわたくし一人に任せて頂けないかしら」


 ミルファからの予想外の提案に眉をひそめてしまう。

 だけどその気持ちは分からないでもない。


「ネイトさんや、あんなことを言っている娘がいますけど、どうなんでしょうね?」

「……特段頭に血が上っているようにも見えません。少々心配ではありますが、ミルファにとって打ち倒さなくてはいけない敵のようですし、任せてしまっても良いのではないでしょうか」


 ネイトは許可と。リーヴはボクの判断に委ねるという感じかな。

 エッ君はある意味因縁の相手ということになるのだけど……、その点は気にしてはいないみたいだね。妙にうずうずしているけど、あれは単に暴れ回りたそうにしているだけだわ。まだまだちびっ子だから仕方がないとはいえ、周囲に感化され過ぎないように精神面も鍛えないといけないかな。


「……危ないと思ったらすぐにでも割って入るからね」

「絶対にそんなことにはなりませんわ」


 ふふんと得意げに笑うミルファ。

 本当に大丈夫かな?そこはかとなくフラグを建築してしまっているような……。不吉な想像に無理矢理蓋をしてミルファを送り出す。


「さあ、やられる覚悟はできていまして?」


 当人はというとそんなボクの気も知らないで、不敵な言葉を口走っている。

 対して『毒蝮』はというと一度さっくり勝利しているためか挑発に乗ってくるような様子もない。つい先ほどまで感情を露わにしていた人と同一人物とは思えないほどの落ち着き度合いだ。なんだか余裕綽々(しゃくしゃく)といった雰囲気がちょっとイラつきます。


 このまま行かせてはいけない。

 第六感的な導きに従って一つ策を弄してみることにした。


「ミルファ」

「今度はなに――モガッ!?」


 トトトと近寄り、振り向いた瞬間に彼女の口に薬瓶を突っ込む。絶好の攻撃チャンスだと思うのだけど、いきなりの展開に唖然としてしまったのか危害を加えられることはなかった。

 まあ、リーヴやエッ君が見張ってくれていたのだ、と思うことにしましょう。


「いきなり何するんですの!?」


 律儀に中身を全部飲み干してから文句を言うミルファ。


「蝮ってさ、毒がなければただの凶暴な蛇でしかないよね」


 涙目になっている彼女の肩越しに『毒蝮』へとにんまり微笑みかけてあげる。

 おうおう。平静を装うのであれば、額に浮き出た血管も何とかしておくべきだったね。それにしてもやっぱり毒を使用するつもりだったみたい。

 仲間たちへの注意喚起にもなったから、思い付きで行動した割には良い結果となったと思う。


「それじゃあ、頑張ってね」


 のんびりしているとミルファに怒られてしまいそうなので、さっさと後方のネイトの隣へと退散する。

 案の定、お嬢様は「むむう」と口をへの字にしておられます。再度「がんばれー」と微妙に適当さがにじみ出る声援を送ると、大きくため息をついてから『毒蝮』と向かい合うのだった。

 それを見届けてから小声で呟く。


「ネイト、用心で【キュア】の準備をしておいて」

「え?毒耐性の薬を飲ませたのではなかったんですか?」

「そんなハイレベルな薬、ボクじゃまだ作れないよ。ミルファに飲ませたのはこれ」


 と言って取り出しましたるは、毎度おなじみ『兜卵印の液状薬』だった。

 上手く彼女の体で隠していたから『毒蝮』も勘違いしてくれているとは思うけれど、それでも毒物を使用してこないとは限らない。

 むしろ自分の代名詞である分、むきになって使用してくることも考えられるのだ。


 余談だけど、状態異常に対する耐性はアイテムでしか得ることができないようになっている。〔回復魔法〕で代用できないのは生産系技能の活躍の場を作るためだと、実しやかに噂されているけれど、真実かどうかは不明なのだそうだ。

 その分難易度も高くなっていて、今のボクには必要な材料も技能熟練度も足りていないのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ