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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第十二章 ここからはボクたちのターン

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139 『どくどくへび』さん

「狩られる側の分際で、生意気にも噛みついてきやがって!」


 周囲を伺いながら待つこと一分ほど、目的としていた人物は悪態と共にボクたちの前に姿を現した。が、その台詞からするとこちらには気が付いていない様子。

 思わずこっそりとぶん殴ってやりたくなる衝動に耐えながら、声をかけることにする。


「こんばんは。『どくどくへび』さん。お得意の不意打ちをされた気分はいかがですか?」


 努めて明るく朗らかな声を心がけていたのだけれど、成功していただろうか?

 美少女――ボクのことですが、何か?――からニッコリ笑顔を向けられた『毒蝮』は唖然とした表情を浮かべていた。ああ、きっと可愛い娘さんとの接点がないんだね。

 可哀想だけど暗殺とかやっている人だから仕方ないのかも。と、勝手に彼の人物補完を進めていたところ、酷く不愉快そうな顔をされる。


「もてないのをボクのせいにされても困るんですけど」

「いきなり何の話ですの!?」


 ミルファちゃんや、ちゃんと前を向いて敵のことを警戒していなさい。また死にかける羽目になっても知らないよ。


「……クンビーラの公主に取り入ったと言っていたが、どうやらあの女はしくじったようだな。もっと早くに切り捨てておくべきだったか」


 ボクたちがいることで合点がいったと『毒蝮』は忌々しそうに言う。潜伏場所や新しく追加された人員と今日落ち合うことになっているなど、全てエルフちゃんからもたらされた情報だったので、あながち間違いだとは言えないね。

 ただ、とっくにクンビーラ側についていたのだとは思ってもいないようだけど。


「しくじったかどうかはともかく、エルフちゃんなら今頃お城の一室で話し合いをしている最中だと思うよ」


 より正確には、城の会議室で公主様や宰相さんたちクンビーラの首脳陣と、後始末についてや今後の行動方針について話し合っているはずだ。

 まあ、そんなことを『毒蝮』に一々説明してあげる義理はないので言わないけれど。あえて曖昧にしておくことで、牢屋で取り調べを受けているとでも勘違いしてくれることだろう。


 どうしてわざわざこんな面倒なことをしているのかというと、エルフちゃんが裏切ったのではなく、ミスをして捕まったのだとあちら側に思い込ませるためだ。

 『毒蝮』やこの場に集まっている連中がヴァジュラの『闘技場主』から放たれた人員だとは考え辛い。むしろ、こちらは陽動で確実に情報を主人へと流している者たちがいたとしてもおかしくはないと思う。


 エルフちゃん自身は裏切ったことがバレても平気だという態度だったけれど、裏社会には裏社会なりの通すべき仁義や守るべきルールがあるというのは定番だ。

 そして「裏切りは許さない」という決まりがあるというのも、これまた定番であるといえる。

 だから『闘技場主』からの報復というよりも裏社会から刺客が送り込まれるのを防ぐために、『毒蝮』とのこのやり取りは不可避だったという訳だ。


「使えないやつについてはどうでもいい。だが、クンビーラが盛大な式典を行う予定であるという話には間違いがなかったはずだ」


 この俺自らが得た情報なのだから、と続ける『毒蝮』の自意識過剰っぷりに引き気味になるボクたち。冒険者たちを中心に街中のそこいら中で噂が飛び交い、商人たちは振る舞われる予定の酒をあちこちから運び込んでいるというのが現状だ。

 はっきり言って気が付かない方がどうかしているというレベルなのに、それを自信満々に言われましても、ねえ……。

 むしろ情報戦という観点からならば、裏がないか怪しむのが定石のような気がする。


「式典は間違いなく行われるよ。あなたもご存知の通り盛大にね。でもさ、その時に仕掛けてくるのが分かっていて、それをわざわざ待つ必要があると思う?」


 あえて仕掛けてきた罠を打ち破る、という展開にロマンを感じなくはない。

 とはいえ、より安全に物事を進められる道があるとするならば、ボクとしては基本的にはそちらを選ぶことになると思う。

 特に、誰かの命が掛かっている状況ならばなおさらだ。ロマンやプライドやポリシーなんて、まとめてゴミ箱にポイですよ。


「おのれ、卑き――」

「まさか先に暗殺しようとしておいて、卑怯だとか卑劣だとかは言わないよね?」


 ぐっと言葉に詰まる『毒蝮』。信念も何も持っていないと白状しているに等しいということに、果たして彼は気が付いているのだろうか?


 里っちゃんによると、「たとえ理解できないような事であっても、自分の中のルールというか筋を通している人は強い」のだとか。その言葉に当てはめるとすると、目の前のこの男は弱いということになりそうだ。

 実際、エッ君の動きに翻弄されていたし、怒り任せだったボクの攻撃すら避けられなかった。それはもしかすると芯となる部分がないがゆえの弱さだったのかもしれない。


 なんて哲学的なことを考えてみたりしている間に、周りではクンビーラ側の勝利によって次々と戦いが終わっていく。数も多ければ練度も違うのだから当然の結果だ。

 闇討ちや奇襲、撹乱に特化した裏社会の人たちが正面から騎士や衛兵とぶつかって勝てる訳がないのですよ。


「くそっ!お前さえ、お前さえいなければ!」


 うわ!今度は悪態じゃなく恨み言を言い始めたんですけど!?

 どんどんと不利な状況に陥っていることに錯乱し始めたのだろうか?


「お前さえクンビーラに現れなければ、今頃この街は追いかけてきたドラゴンによって壊滅していた!」


 おおう!なんと彼が予想していた展開の実行犯だったとは!


「あなたが『竜の里』から卵を盗み出した犯人だったんだ。闘技場の目玉にでもするつもりだったということかな」


 まさかの一致に内心で驚いているのを悟られないように、冷静を装ってリアルで調べたことを話してみる。するとその点はおかしな展開をしていなかったらしく、ものすっごい怖い顔で睨まれました。


「クンビーラが消滅してさえいれば、たとえドラゴンの卵を持ち帰ることができなくとも俺が依頼の失敗に問われることなどなかったのだ。そうすれば王冠は俺のものになっていたはずだ!」


 それって依頼の失敗をだしにして上手く使われているだけの話じゃないの?

 実は『闘技場主』側って人材不足気味なのかしらん?というか王冠って何?思わぬ新情報に目を白黒させている内にも、『毒蝮』の独白は続いていく。


「あれさえあれば、『風卿』の後継者としてこの世界を支配することができていたはずなのだ!それを全て台無しにしやがって……。全部お前のせいだ!」


 結局八つ当たりだった!?

 うわあ、真面目に聞いていてすごく損した気分だよ……。こんな自己中心的で身勝手にやつに振り回されていたと思うと、腹立たしいを通り超えてうんざりしてしまいそうだ。


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