137 夏のお昼ご飯再び
調べものも一応完了したことだし、さっそくログインを!
と思ったのだけどリアルに戻ってきているついでに、少し早いけれどお昼ご飯も食べておくことにする。
再び湿度マシマシな中を一階へと向かいます。リビングにいた母親に尋ねたところ「暑さで食欲がない」とのことなので、自分の分だけを用意することに。
一人前だけ作るのって案外面倒なんだよね。適当に余り物で済ませようかと、まずは冷蔵庫の中をチェックする。
うーむ、夏場なので当日使用するギリギリの食材しか買っていないからか碌なものがない……。
これはもう、インスタント麺でいいかと考えていたところに「炊飯器の中に残っているご飯を食べてしまっておいて」とのお達しが。昨晩は父親が急にお寿司を食べたくなったとかで、外出した先から帰ってくる途中のスーパーで買ってきてしまったために、ご飯だけが残ってしまったのだ。
あ、お寿司は当然のごとく家族全員で食べてますよ。ハマチうまーい。
それにしてもご飯を消費しなくちゃいけないとなると、ちょっぴり考えものだ。何か簡単におかずにできそうなものはありませんでしょうか?
戸棚を覗いてみるとカレーやホワイトシチューのルーなどと並んで麻婆豆腐の素があるのを発見。しかも具材もセットになっていて、豆腐と混ぜるだけの簡単タイプ。
そしてあつらえたかのように冷蔵庫の中にお豆腐があったのをボクはしっかりと覚えていた。
お昼ご飯はマーボー丼に決定した瞬間です。市販品を使うからどうしても分量が二、三人前になってしまうけれど、作る際にしっかりと火を通すので今日中に食べてしまうのであれば問題ないだろう。
唐辛子の効いたスパイシーな味と香りなので、減退している母親の食欲も復活するかもしれないし。
という訳でさっさと作ります。豆腐を取り出して水気を切り、手頃な大きさに切っておく。中華鍋に油を回して具材入りの麻婆の素を入れる。全体に温まったところで豆腐を投入して、馴染ませつつ加熱を続ける。最後にとろみを出すための水溶き片栗粉を入れてよく混ぜれば完成です!
ああ、なんて楽ちん簡単。どんぶりご飯にかけて召し上がれ。
いや、食べるのはボクだけどさ。
余談だけど、里っちゃんならもう一手間加えたオリジナルレシピになるところだ。彼女の女子力の高さを甘く見てはいけないのです。
しかもあらかじめ準備しておくのではなく、料理の最中に瞬時の閃きでやってしまうのだから恐れ入る。本人いわく「ネットとか情報番組で見たり聞いたりしたことを覚えていただけ」らしいのだけど。
ただ、「知識は蓄えることも大事だけど、やっぱり使ってこそ真価を発揮するものだよ」とも言っていたので、常日頃から咄嗟の対応ができるように心がけているのだろう。
向上心を忘れないハイスペックな従姉妹様です。
つらつらとそんなことを考えている間に完食。ごちそうさまでした。やる気がなくならないうちに使用した食器や調理器具を洗って、お片付けも終了。
しかし、それではゲーム再開とはいかないのが世の常というもの。着ている服にはすっかり麻婆な香りが染みついてしまっていたのだ。辛い物を食べたことでじんわりと汗もかいている。
このままベッドに横になるのは止めて!と半日ほど未来のボクがストップをかけてくる。確かに、汗と麻婆の匂いが染みついたお布団で寝るのは遠慮したいものがあるよね。
どうせ着替えて汗を流すのだからと、家の中の雑用を引き受けることにした。
ここのところゲームで遊ぶ時間が増えていたので、分かりやすく母親からのポイント稼ぎをしておこうという狙いもあったりします。
そんなこんなで色々と家事をこなしてからシャワーを浴びてさっぱりしたところで自室に戻る。満腹手前のちょうどいい具合なのと一仕事終えたことへの充足感から、ついついお昼寝の誘惑に駆られてしまいそう。
夜に眠れなくなってもいけないので我慢がまん。こういう時はさっさとやりたいことを始めてしまうのが一番だ。
ヘッドギアをかぶり『OAW』を起動させる。今後の方針を決める大事な話し合いになるのだから、気合を入れなければ!
結論から言うと、ボクの提案は全て公主様たちに受け入れられることになった。
「城の防衛は最重要項目だ。侵入する側から視点でもって手薄な場所を知ることができるのであれば、今後にも生かすことができるだろう」
「ふむ。言われてみれば相手が万全になるのを待ってやる必要などはないな。攻められる立場になるとは思ってもいないだろうから、先手を打てれば成果は期待できそうだな」
「ウチがリュカリュカに接触したんは既に知られとると思います。せやからそれを逆に利用してやりましょ」
終いにはエルフちゃんも一緒になってノリノリで悪巧みをし始める始末だ。まあ、やる気があるの良いことだ、ということにしておこう。
「やる気」ではなく「殺る気」かもしれないということは、この際気にしない方向で。
卵だったエッ君がクンビーラに持ち込まれた経緯については、現状では証拠もなくボクの推論に過ぎないことから、その可能性があるという認識を持っておくに留めることになった。お互い国同士のことになるから慎重になるのは仕方ないだろう。
「だが、敵によっては我がクンビーラの壊滅すらも目論んでいるかもしれないと分かったのは大きい。ブラックドラゴンを守護竜とすることへの大義名分としても使えるだろう」
大義名分どころか、守護してもらわないとピンチが危険でやばい状況になるかもしれない。
「『毒蝮』への攻撃には準備が必要だな。城の警備強化についてはどうする?」
「侍従たちも参加させるとなると通達する時間が必要でしょうな。早くとも明日の午後にはなるかと」
「ふむ。ならば集められるだけの人数で一度やってみるとするか」
「ほんなら『毒蝮』には警備の強化と見せかけて侵入経路を確保するための作戦やいうて報告しときますわ。どこまで信用するかは分からんですけど、少しは油断を誘うことができるんとちゃうかと思います」
おおう!エルフちゃん、全ての行動を布石にするつもりみたいだ。そうなると、情報のすり合わせは細目にしておいた方が良さそうだ。
「ボクが言い出したことだし、明日は様子を見に来ますね」
こうして、『毒蝮』捕獲のための準備が着々と進んでいくことになるのだった。




