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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第十二章 ここからはボクたちのターン

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127 お昼時には相席で

 ボクたちパーティー、『エッグヘルム』が定宿にしている『猟犬のあくび亭』の食堂は今日も今日とて盛況なようで、ギルウッドさんが作る美味しそうな料理の香りとお客さんたちのがやがやとした話し声が階上にまで届いていた。

 階段を一つ下りる度にそのざわめきが大きくなっていくように感じる。


 その食堂では、大勢のお客さんたちの間を縫うようにして妙齢の女性たちが動き回っていた。


「はいよ。お待ちどうのスープうどんだよ。そっちのお客さんはソイソース味のうどんだったね?もうちょっとだけ待ってておくれよ」

「あっはっは。私に手を出そうとはいい度胸だ。当然、うちの亭主の三倍以上の稼ぎはあるんだろうね?」


 クンビーラの食堂や宿で本格的にうどんが提供されるようになってからも、食事目当ての客足は一向に収まる気配もなかったため、お昼時に限りご近所の奥様方、お母さんたちをウェイトレスさんとして雇うことになったのだ。


 お母さんといってもそこは中世風の世界観であるからして、ほとんどが二十代のピッチピチなお姉さま方だ。

 なんと一部はボクより数歳年上なだけという若奥様なんかもいて、なかなかに評判になっているのだとか。


 ちなみに宰相さんに言わせると、近隣に住む人たちへの儲けの再分配という意味合いもあるらしい。『宿・料理店連盟』を通して他の食堂などでもうどんの提供を進めたことといい、『猟犬のあくび亭(ここ)』の人たちは本当に欲が少ないと思う。

 まあ、だからこそボクも居心地よく過ごさせてもらえているのだけれどね。


「おや?ようやく起きてきたね」


 食堂へと入った途端にボクを発見したのは、ここの女将でもあるミシェルさんだった。

 少し前までは彼女が一人で接客していたことを考えると、ここにやって来てから一番変化のあった景色と言えるのかもしれない。


「あ、ミシェルさん。おそようございます」

「なにさね、その妙ちきりんな挨拶は?」

「いやあ、お昼ご飯時になって『おはよう』はいくらなんでも無理があるよねと思って」

「……まあ、言いたいことは分かったさね。それで、もう平気なのかい?」


 朝帰りしたあげく、いきなりバタンキューだったから、少し心配させてしまったのかもしれない。


「はいはい。もうすっかり元気ですよ。元々どこか悪くしていたってことじゃなくて、ただ単に寝不足だっただけですから」

「それならいいんだけどね。しかし驚いたよ。まさか緊張して一睡もできなかっただなんて。リュカリュカも人の子だったということさね」


 お城に侵入した者がいたなんてことが一般に知れ渡ってしまったら、それこそ大騒ぎどころの話ではなくなってしまう。

 そのため大変不本意ではありますが、お城という慣れない環境で眠ることができなかった、ということになったという訳だ。

 しかも、初めて任務でお城で泊まることになった騎士さんの多くが緊張してしまって眠るどころではなくなってしまうそうなので、この嘘は絶妙に信憑性が増しているのでした。


「ところで、食堂(ここ)へ来たということは何か食べるのかい?」

「あ、はい。朝御飯も食べてないのでお腹がペコペコで……。がっつりと食べられるものをお願いします」

「あいよ。しかし聞いておいて何だけど、リュカリュカがうちで昼を食べていくっていうのは珍しいさね?」

「いやあ……。最初はボクもどこか近くの屋台にでもと思ったんですよね。でも、一人でうろついて何かあったら、みんなからどんな文句を言われるか分かりませんから」


 こう言っては何だけど、きっと色んな方面から怒られてしまいそうな気がする。


「確かに間違いなく言われてしまいそうさね。それじゃあ、急いで用意するから席に着いて大人しく待っているんだね」

「席に着いて、って言われても……。満席みたいですよ?」


 ぐるりと見回してみた限りそのテーブルにもお客さんがいる。


「この時間は相席になる事をあらかじめ伝えてあるから、席さえ空いていればどこに座っても問題ないさね。ということで、さっさと行った」


 ほれほれと、ミシェルさんに追いやられるようにして、空いた席を探しに向かう。

 が、どこのテーブルも満席っぽいのですけど……?


 おや?隅の二人用のテーブルの片方が開いているみたい。

 ふと、座ってうどんを食べていた人と目が合い……、凄い勢いでそらされた!?


 しかも猛然としたスピードで食べ始めたし!


 ひゃあ!(あっつ)いうどんをそんなに急いで口に運んじゃうと……。あーあ。案の定舌を火傷しそうになっているよ。

 慌てて水を飲もうとしたようだけど、残念ながら空っぽだったらしく涙目になっている。……なんだか見捨てるのも可哀想になってきた。


「はい、どうぞ」


 その人のコップ――もちろん、木製ね――に【湧水】で新鮮?なお水を注いであげる。


「お、おおきに!」


 お礼を言って一気に飲み干す彼女。あ、言い忘れていたけれど、この人女性です。

 姿勢が良いのか座っていても分かるスレンダー美人さんだった。


 服装は街の人たちや商人さんたちよりも、ボクたち冒険者に近い格好と言えそうで、布製の服の上から魔物の革製と思われる部分鎧を身に着けている。

 特徴的だったのはその布製の服だ。動きやすいようになのか大胆に裁断されており、二の腕だけでなくなんと太ももまで剥き出しになっていたのだ。


 それでも、首から上の方が目を引いてしまう要因になっていたことは間違いないだろう。

 特にその髪の中からぴょこんと飛び出していた耳。笹の葉のような長く尖ったそれはまさしく、ひきこもり種族(エルフ)である証だった。


「ふむふむ。それだけ分かりやすい特徴なら、隠そうとするのも無理はないよね」


 呟きながらエルフ女性に断りを入れることもなく、向かいの席へと腰を落ち着ける。そんなボクの馴れ馴れしい態度に一瞬、顔をしかめる彼女だったが、それもすぐに霧散してしまう。

 能面のよう、なんて言い方をするけれど、今の感情が一切表に出ない彼女の表情はまさにそれだった。エルフという種族にありがちな整った顔立ちと相まって、なおさら作り物めいて見えてくる。


「髪を結ってしまえば、どうやっても耳が見えてしまうものね。というか、ボクとしてはあの時はどうやって隠していたのかっていうのが気になるところなんだけど。教えてもらえませんか、お城の侍女に変装していた侵入者さん?」


 ニッコリ笑いかけるボクとは対照的に、目の前に座る彼女は先程までの無表情とはうってかわって苦々しい顔つきとなっていた。

 うーん……。不審な行動だったから半分は鎌をかけたのだけど……。

 ものの見事に的中してしまったようだ。


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