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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第十一章 お城での一夜

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123 取引といこうじゃないか

 剣と盾を構えた鎧兜に逆手に短剣を持った侍女が相対している。

 これだけでもおかしな絵面なのに、二人がいるのは湯気が漂う湯浴み場という場所であり、しかも鎧兜ことリーヴの背後、部屋の中央に置かれた浴槽ではボクがのんびりとお湯に浸かっていた。

 はっきり言って一見しただけでは訳の分からない状況だろう。もっとも、お風呂を中断するつもりはないけどね!


「さて、どうする?ボクだってアイテムボックスから得物を取り出すことくらいは一瞬でできるから、実質二対一で戦うことになるよ」

「レベル一桁の九等級冒険者とそのテイムモンスターくらいあしらえないとでも?」


 挑発的なボクの言葉に真っ向から反発するように、あちらも挑発的な台詞を口にする。

 そこからボクの情報がある程度知られてしまっていることが透けて見えてしまい、げんなりしてしまいそうになる。


 それはさておき、簡単に従うことはないだろうというのは予想済みだったりするので、さらに彼女を追い詰めるために、こっそりと打っておいた手を開示していくことにしましょうか。


「あなたがどれくらい強いのかは知らないけど、そう言い切るだけの力はあるんだろうね」


 単独で公主様のお城に忍び込んでいるくらいだから、相当な手練れなのは間違いない。


「でもさ、ボクに勝てたからと言って、ここから逃げられる訳じゃないってことは分かってる?」

「なに?」

「何のためにボクが仲間を部屋に待機させていると思っているの?どうしてわざわざあんなやり取りをしてまでエッ君とこの部屋の前で分かれたと思っているの?」

「!?!?」

「ボクやリーヴに何かがあった時点で外にいるエッ君たちがお城の人たちを連れてくることになる。そうすればいくらあなたでも、無事にクンビーラから逃げさせるって保証はないだろうね」


 ふっふっふ。悔しがってる悔しがってる。まあ、半分どころか八割方がハッタリなんだけどね。

 大声で叫べばエッ君辺りは指示に従ってお城の人に知らせてくれるかもしれないけれど、そこから上手くここへ誘導できるかは微妙なところだと思う。

 リーヴもそうだけど、うちの子たちは喋ることができないから一般ぴーぷるとは意思の疎通が難しいのだ。公主妃様なら何とか理解できるかもしれないけれど、いくらなんでも彼女がいる部屋にはエッ君が辿り着くことができないだろう。


 そしてネイトは今頃完全に夢の世界の住人になっていること間違いなしと思われます。

 第六感的な何かで勘付いてくれるのを期待するのは虫のいい話と言えそう。


 残るミルファはといえば……、ハインリッヒ君のお守りをしているのでこちらも望み薄だ。というか別れ際のあの様子からすると抱き枕状態にされているんじゃないだろうか。

 美人お姉さんに抱き着いて眠るショタっ子……。色々な方面から怨嗟(えんさ)の声が轟いてきそうな光景だね……。


 さて、自棄になって爆発されても困るから追い詰めるのはこのくらいにしておきまして、と。

 それに時間が経てば経つほど、今の台詞がハッタリだと気が付かれる可能性が高くなっていくだろうからね。そろそろ本題の交渉に入るとしようか。


「そんな訳だからさ、取引しない?」

「取引?」

「そう。ここから逃がしてあげる代わりに、あなたには仲間にある情報を流してもらいたいの。簡単でしょ」


 努めて軽い口調で言ったことも相まって、侍女さんカッコカリ改め侵入者さんは、それはもう訝しんだ目つきでこちらをじっと見つめてきていた。

 それも当然だろう。ボクの提案は彼女を逃がすことが前提となっている。

 つまりあちらの方が有利なのだ。極端な話、取引をすると見せかけるだけで、まんまと逃げおおせることだってできる。

 普通の思考回路の持ち主ならば怪しむこと間違いなしだと思う。


 しかしですよ。実はこれ、彼女が取引に応じた時点で基本的にはこちらの要望は通ったということになるのだ。

 どんな連中であれ、仲間ということであれば一定の情報は共有していくもの。中には競争をしていたり、貶め合ったりしている場合もあるだろうから絶対とは言えないけれどね。

 ともあれ、今のボクとのやり取りだって多少の取捨選択はあっても大まかには伝えられるはず。


 つまり、ボクの本当の狙いというのは、彼女の仲間に『取引とする情報が拡散すること』だったのだ。


「……ある情報とは?」

「そこは取引に応じると言ってもらえないと教えられないかな」


 そんなことはおくびにも出さずに、あくまで取引をすることにこだわっているように見せかける。

 ある物事に執着しているように見せかけることで、こちらの本当の狙いに気付かれ難くさせる。以前、里っちゃんから教わった手練の一つだ。

 だけど彼女は一体どこでこんな技術が必要になったのだろうか?

 まったくもって謎の多い従姉妹様です。


 侵入者さんはボク言葉にどんな裏が隠されているのか見極めようと、必死になって頭をフル回転させているようだった。

 逆手に握って短剣をちらつかせることでリーヴを牽制しながら、観察するようにあちこちへと視線を走らせている。


 はてさて、彼女はどう出てくるかな?

 こちらの思惑に乗ってきてくれるでしょうか?


 ……できればボクがのぼせる前に答えを出して欲しいところだね。


「……分かった。取引に応じるわ」


 侵入者さんがそう呟いたのは、そろそろボクが本格的に湯あたりの心配をし始めた頃のことだった。

 良かった。今ならまだぶっ倒れずに体裁を保つことができそうだよ。


「賢明な判断だね。それで、あなたに撒いてもらいたい情報だけど、今日の会議でクンビーラはブラックドラゴンが守護竜になったことへの式典を盛大に行うことに決まったから。しっかり伝えておいてね」


 途端に目つきが険しくなる侵入者さん。

 捉えようによってはとんでもない挑発行為となるのだから無理もないことだ。


 つまりですね、「何か企んでいるやつがいるみたいだけど、うちの騎士団や衛兵部隊の力があればそんなの関係ないし」と言って鼻で笑っているようなものなのだ。

 しかも企んでいる当の本人たちの目の前で。


 そりゃあ怒りもしますわって話だよね。

 むしろ平然としていたら、どこかの組織からのスパイなんじゃないかと疑われるレベルだと思う。


「話は以上だよ。それじゃあ、ボクはお風呂が気持ち良くてしばらくうたた寝をするから」


 湯船に深く体を沈めて目を閉じる。

 するとすぐに小さな音がしたかと思うと、〔警戒〕でも気配を感じ取れなくなっていた。


「ふう……。お疲れ様、リーヴ。お陰で助かったよ」


 後は数分時間を置いてから公主様たちに報告かな。

 これ、最悪徹夜コースかも……?


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