106 パーティーバトル
ブックマークが300人を超えて(減っていなければ)いました。
ありがとうございます。
それからの数日間は、ミルファからの助言の通りボクの装備を整えたり、冒険者協会の訓練場でおじいちゃんたちに相手になってもらい技能の熟練度を上げたり、レベルアップついでに魔物討伐のクエストを受けては冒険者等級を上げたりと、パワーアップに励むことになった。
その間に「あんな恥ずかしい格好をさせられてはもうお嫁にいけませんわ……」などとミルファがのたまっては、バルバロイさんが「どんなことになってもお嬢は俺が貰うから」と周囲に言わされたり、ミルファがクンビーラの公主一族だと知ったネイトがどんな態度で接すればいいのか分からなくなったりという出来事があったけれど、まあ、些細なことだろう。
「ちょっ!?リュカリュカ!?些細なことなんかじゃないですわよ!」
「そうですよ!不敬罪で処罰されたらどうしようかと本気で悩んだんですから!」
と何やら外野が騒がしいけれど、きっと気のせいだね。
ネイトについては、これからパーティーで一緒にやっていくということで『さん』付けはしないようになっていた。彼女の方も口調こそ変わらなかった――小さい頃からの癖になっているのだとか――ものの、呼び方はボクたちと同じく呼び捨てです。
ちなみに、宰相さんからの依頼の墳墓探索は、先日会った時に一旦後回しにさせてもらうことで話が付いていた。
というより、ボクたちを襲ってきた例の男の取り調べが進むのを待っているという感じだ。
襲撃者やその背後にいる連中の狙いが墳墓だったとすれば、発見した途端に大勢に囲まれて……、なんてことが起こりかねないからね。
もう少し敵対勢力の動向がはっきりするまでは、迂闊な動きを控えようということになったのだった。
その割に魔物討伐のクエストを受けていたじゃないかって?
だからまた街の外に出る時には騎士や衛兵、もしくはおじいちゃんたち高等級冒険者に付き添われることになりましたとも!
まあ、以前とは違ってボクたちが戦闘をしているところを少し離れた場所で見守るという形だったのが救いかな。
過保護だとは思うけど、実際ミルファが一度死にかけた訳だから強くは反論できないのが辛いところだ。
そうしたお陰で順調にパワーアップは進み、ボクとエッ君は六レベルに、リーヴは五レベルまで成長していた。
出会った時には七レベルだったネイトも一つ上がって八レベルになっている。
さすがにミルファは合流した時点で十レベルもあったのでレベルが上昇することはなかったのだけど、彼女も技能の熟練度の方はちゃんと成長させていたそうだ。
パーティーでの戦闘もかなりこなれてきたと思う。
「右側の林から五体近付いてきます!多分ロンリーコヨーテ!」
高い熟練度を誇る〔警戒〕で一早く敵の接近を予見したネイトが、叫びながら左手へと下がっていく。
年季が違うというべきか、ボクの〔警戒〕技能とは雲泥の差がある。これでも徐々には育ってきているのだけどね……。
「ロンリーコヨーテが五体となるとリーヴだけでは荷が重そうですわね。わたくしも前で壁になりますわ!」
そしてその報告に対応するようにミルファとリーヴは林に近付いて、いつでも戦いを始められるように武器や盾を構えている。
これはその時々の場合によってで、ミルファは攻撃役として自由に動いてもらう方が素早く敵を倒すことができることもある。
対して遊撃が基本のエッ君は、接敵まではボクと同じく一歩下がった位置に陣取っていた。
「エッ君に【アタックアップ】です」
ミルファが前に出たことにより防御の面では心配いらないと判断したのだろう。ネイトからエッ君に物理攻撃力を上げる〔強化魔法〕が飛んでくる。
それを横目に見ながら、ボクは少し横へと移動を開始していた。攻撃魔法の射線を確保するためだ。その頃になるとようやくボクの〔警戒〕でも敵の存在がはっきりと分かるようになっていた。
「来ます!」
「【ウィンドニードル】!」
ネイトの声と同時に木々の奥から現れた五体の魔物に先制して魔法を放つ!
「ギャイン!」
一塊になって行動していたロンリーコヨーテたちは、成す術もなく大気を押し固めた針によって体中を貫かれていた。
これだけ集まっていたのなら、ボール系の魔法の方が良かったかもとすら思えてくる。
「ナイスタイミングですわ!」
ともかく敵の機先を制するという当初の狙いは無事に果たすことができた。
怯んだ所にミルファとリーヴ、そしてエッ君が殺到して各々が目標とした個体に痛撃を与えていく。
今でこそそれぞれが上手く分散して攻撃しているけれど、最初の時は同じ敵を攻撃しようとしては譲り合ったりして、なかなかに大変だった。
そんなことを思い出している間にも戦況は変化しており、リーヴとミルファは予定通り盾役として反撃を開始したロンリーコヨーテたちを捌いていた。
盾を構えているリーヴはもとより、両手に剣を持つミルファも全く危なげな様子は見られない。
「エッ君、一体ずつ潰して頭数を減らして!」
と指示するまでもなく、エッ君はもっともHPが減っている個体へとするりと近付いたかと思うと、両脚と尻尾による【三連撃】で瞬く間に仕留めてしまった。
「【アースボール】!」
前線二人の頭上を飛び越えてネイトの魔法が着弾して、さらに魔物のHPを削っていく。
まずいです!
急がないとボクの活躍する機会がなくなってしまいそうだ。慌てて短槍を構えて一番手近にいたロンリーコヨーテへと【ピアス】を繰り出す。これで二匹目!
「これなら反撃できますわね。【スラッシュ】!」
斬裂系武器の基本技だけど、上位派生技能を習得しているミルファがやればその威力は絶大なものとなる。
剣線が閃いたかと思った瞬間、彼女の目の前にいた個体は崩れ落ちていた。
リーヴもまた正面の敵を盾で弾き飛ばすと、横、縦と連続で手にした剣で切り付けてHPゲージを破壊していく。
「【クロススラッシュ】って。そこまでしなくても良かったんじゃないかな……」
明らかなオーバーキルにちょっぴりと頬が引きつってしまう。
どうやら肩を並べていたミルファの活躍に刺激されたみたい。実は結構負けず嫌いなところがあるリーヴです。
そして残る一匹はというと……。高く飛びあがったエッ君のジャンピングキック、【流星脚】の闘技でお亡くなりになられていました。
しかもがっつりMPが減っているところを見るに、ひそかに〔瞬間超強化〕の技能まで使っていたようだ。
うん。負けず嫌い一番は間違いなくこの子だね。




