104 罰ゲーム
「さすがにこれ以上の細かい内容については、一人のプレイヤーの方にお話しできるものではありませんので控えさせて頂きます」
と、アウラロウラさん途中で口を噤んでしまったけれど、どうやらお互いへの批判というか悪し様に文句を言い合っている連中の行動が、『笑顔』と『OAW』の両方に悪影響を与えているもようです。
多分、新規参入者の減少とかの要因の一つになってしまっているのではないだろうかと思う。
実は結構切迫した状態なのかもしれない。
「運営の狙いとしては、ボクのようにVR初心者でゲームに不慣れであっても『OAW』を十分に楽しめるのだと宣伝したいということ?」
「平たく言ってしまえばその通りです。ですから個人的には、本来お客様であるあなたにこのようなことを頼むのは非常に心苦しいのですが……」
ああ、だからやけに回りくどい言い方をしていたり、どうにも気乗りがしない雰囲気を醸し出したりしていたんだね。
「まあ、人気低迷でサービス停止になると困るのはボクも同じだから、そんなに気にしないでください。宣伝塔になるくらいなら構いませんよ」
『冒険日記』の公開自体が似たようなものとも言えるしね。
もっとも、ちゃんと個人情報の保護をしてくれることが前提だけど。喧嘩腰で文句を言い合っている連中の的になってやる気は毛頭ないのだ。
「ご了承いただき、誠にありがとうございます」
深々と頭を下げるアウラロウラさん。まあ、彼女には色々とお世話になっているので、このくらいはお礼をしておかないとね。
……って、あれ?アウラロウラさんは確かゲーム内のAIだよね?これまで平然と応対してもらっていたけれど、これって実はとんでもないことなんじゃないだろうか?
「あのー、アウラロウラさんって、実は中の人がいたりします?」
好奇心を抑えきれず、ついそんな質問をしてしまう。
「さて、どうなのでしょうか」
すると彼女はいつものミステリアスな笑顔を浮かべたのだった。こうなると、答えてもらうのはまず無理だろうね。
まあ、いいか。中の人がいようがいまいが別に何かが変わる訳でもない。
これからもアウラロウラさんにはお世話になっていくことだろうし、下手に勘ぐったせいで付き合い辛くなるのは嫌だ。
「これからもよろしくということで」
「はい。末永くお付き合いできるように運営一同、努力してまいります」
……やっぱり中の人がいるんじゃないだろうか?
そんなことを思いながら、ボクは『OAW』の世界へと意識を移していったのだった。
「そんな訳で新しくパーティーに加わることになったネイトさんだよ。仲良くしてね」
食堂の数人掛けの丸テーブルの隣に座った彼女を、正面のミルファに紹介する。
「はあ。そ、それは構わないのですが……」
「か、構わないんですか?」
「見ず知らずのわたくしを助けてくれたのでしょう。そんな方と一緒に冒険ができるなんて、喜び以外ありませんわ」
「え、ええと、ありがとうございます」
一応まだお試し期間なんだけど、そんなネイトさんの逃げ道をきっちりかっちり塞いでいくミルファ。
天然って怖いわ。
「そ、その点は良いとしまして……」
「うん?どうかしたのかな?」
頬を赤らませながら何かを言おうとするミルファに、ボクはニヤニヤと笑みを浮かべる。
うん、きっとはたから見ればすっごく悪い顔をしている自覚があります。
止めないけどね!
「ど、どうしてわたくしがこんな格好をしなくてはいけないのですか!」
ついに耐えきれなくなったのか、メイド服を着たミルファが大声を上げた。
「そりゃあ、独断専行であの怪しい男を追いかけたあげく、死にそうになったミルファへの罰だからだよ」
「うぐっ!そ、それはその……」
ぴしゃりと言い切ると、本人もやっちまった感はあるのかもごもごと小声になってしまう臨時メイド。
まあ、これは半分建前みたいなもので、残り半分の本音としては、事後処理を押し付けたまますやすや寝ていた彼女にカッチーンときちゃったからなのだけどね。
ちなみに、彼女が着ているのはクンビーラのお城で本職の人たちが着用しているものです。
本当はガバッと背中や胸元が開いていたり、超ミニのスカートだったりという魔改造メイド服を着せようかとも思っていたのだけど、あれでもミルファは婚約者がいるからね。
後で問題になってもいけないので、このくらいで妥協してあげたのだ。
そして当の婚約者はというと……。
「う!……ふ、ふご!?」
一目見た直後に、鼻の当たりを押さえてトイレへと駆け込んでしまいましたとさ。
「やれやれだ……」
「ふ……。若いな」
それを見て父親のコムステア侯爵が呆れかえり、その隣では宰相さんが楽しそうにしていましたとさ。
「あらあら。とっても可愛らしいですね」
「鎧姿にエプロンとは、斬新だな!」
一方、公主夫妻は腰に巻くタイプのエプロンを付けたエッ君とリーヴの様子が気に入ったみたい。
さすがにミルファ一人だけだと恥ずかしかろうとうちの子たちにも着てもらったのだけど、予想外の人たちが喰いついてきたね。
というか二人とも、仕事とか放置して大丈夫なの?
「どうしてお父様たちだけでなく、あの方たちまでが……」
その光景を見て、頭に手を当てて呟くミルファ。
「それはもちろん、その服を借り受ける条件だったからだよ」
正確には宰相さんに見せることが、だけど。
「でも正直、公主夫妻に関してはすまんかったです」
いつの間に聞きつけたのやら、ちゃっかり宰相さんたちに同行して来ていたのだよね……。「良い機会だからな。今日は後回しになっていた街中の視察を行うことにしたのだ」そうだ。
いくつかは黒い噂の絶えない所らしくて、急きょ訪問するためのいい口実ができたととても良い笑顔で語ってくれました。
「あ、あの、リュカリュカさん?あちらの方々って……」
そんな事情や人間関係を知らないネイトさんが、戸惑いがちに尋ねてくる。
さて、どう答えるべきか。
「多分、予想がついていると思うけど、あっちの席のお二人がクンビーラの公主ご夫妻。で、そっちの席にいるのが宰相さんとコムステア侯爵さん。あ、鼻血を吹きそうになって慌ててトイレに駆け込んだのが、侯爵家嫡男のバルバロイさんね」
一瞬迷ったけれど、どうせボクたちと一緒にいることになるのだからこれからも顔を合わせることになるだろう、ということですっぱりと教えてしまうことにした。
「こ、公主ご夫妻……!?」
いきなりのド偉い人とのエンカウントに天井を仰ぎ見るネイトさん。
まあ、うん。普通こんな展開は予想しないよね。




