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【ボーイミーツガール & ハイファンタジー!】君を探して 白羽根の聖女と封じの炎  作者: 芋つき蛮族
三章

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63. 質問と回答と

 縦長のテーブルの上へと広げられた数々の書類――

 依頼主用、教会用、教団用として記された用紙の内容を、上から下に目を通す。

 

「……くっ」


 影人の生態調査を申し込む旨と、申請者の情報。


 目標達成度の段階的指針と、それに応じた報酬額の設定。

 契約受注者の拘束期間と、一日辺りの最長労働時間。

 契約内容を超える危険が発生した際の、特別手当の追加支給。


 その他、連絡事項や細かな条件に関して、etc.etc.……

 

「……大丈夫です。これでよろしくお願いします」

「了承しました。では、続いて最終登録へと移らせていただきます」

「う――」


 大量の確認事項をクリアした後に更に続きがあることを知らされて、俺は思わず本日二度目のうめき声をあげてしまっていた。


「まだ他にもあ――いでっ!?」

「ピピッ!?」

 

 思わず辟易とした声を上げてしまったこちらの横腹へと、白羽根様の肘鉄が突き刺さってきた。

 あまりの衝撃にナップサックの住人も驚きだ。

 

「だからおま……痛いって! 俺が悪かったけど、急にくると痛いからさ!」

「大した力もいれてないのに、大袈裟ねぇ。いいから少し下がってなさい。市民権がないんだから、最終登録は私が代理人にならないと手数料が跳ね上がっちゃうもの」 


 なるほど……早速、そこが問題になってくるわけか。 

 やはりこのレゼノーヴァで暮らしていく以上、公民権については真面目に検討しないと不味い、というわけだ。

 

 ともあれ、この場はフェレシーラにお願いするとしよう。


 ちなみに一度目のうめき声をあげてしまったのは、例の呪金を受付に預けた際。

 中央大陸通貨での正確な換算額を知った時だ。

 金貨五百枚はガチで家が建つというか……

 豪邸クラスの代物が崩れ去る光景が目に浮かんで、一瞬眩暈を起こしかけたりもした。

 

 参考までに今現在で俺が調べ掴んだ情報では、金貨十枚もあれば町で一月ほど暮らす分にはかなりリッチな生活が送れる計算になる。

 大雑把な勘定になるが、あの宝珠一つで二年ほどは遊んで暮らせるわけだ。

 

 そんなモンをぽーんと投げ寄越してくるだなんて、つくづくフェレシーラの経済力には驚かされる。

 いや……この場合は知り合いに工面して貰ったってことだから、信頼度の問題になるのか。

 どちらにせよ、十七歳でそれだけの地位と信用を築くのは並大抵のことではない。


 というか、幾ら何でも報酬の設定がおかしくないですか。

 依頼完遂=影人の全貌解明で金貨四百枚って……手数料もそれに釣られてか相当な額になってるし。

 

「え、ええと……」 

 

 ……ん?

 

 なんだろう。

 フェレシーラが前に出てきた途端に、神官の少女が動きを止めてしまっている。

 

 俺があれこれと考えている間に話が進んでいくものと思っていたが……

 どうも彼女からしてみれば、フェレシーラの介入は予定外の事態であるようだ。 

 

「どうしました? 最終登録は、アトマ認証のはずですが。私が代理人になることに、何か不都合でも?」 

「あ、いえ……その。認証自体は、問題なく行えると思うのですが……」 

 

 アトマ認証……なんだろう。初めて聞く言葉だけど。

 どうも二人の間で問題になっているのは、その認証とやらに関してではないらしい。

 

「では、認証の手続きをお願いします」

「はぁ……でも、大丈夫なのでしょうか……?」 

「大丈夫とは、何の話ですか? 不都合があれば、説明を」 

 

 うお……フェレシーラのヤツ、随分と当たりがキツイな。

 受付の人、滅茶苦茶おどおどし始めちゃってるぞ。


 話がまったく見えないし、俺が頼んだことだから迂闊な口出しは出来ないが……

 場合によっては間に入ったほうがいいかもしれないな、この雰囲気は。

 

「その、ですね……フェレシーラさまは、この後、この依頼をお受けになるのですよね……?」

「はい。その予定ですが……それが何か?」

「うぅ……!」

 

 おいおい。

 もう受付の人、完全に涙目になってるぞ。

 肩もちょっと震え始めてるし。

 これは流石にそろそろ止めてやらないと――

 

「あの、それですと……私はアレイザの管理局に、フェレシーラさまの違反行為を……重複推薦代理行為を、報告しなければいけません……!」 

「はい。それは当然のことですので、構いません」 


 ……へ? 

 

 違反行為。

 その言葉を耳にして、伸ばしかけた手が体ごと停止する。

 

 そしてそれは、受付の少女にしても同様だったらしい。

 彼女は腕輪型の術具を手にしたまま、驚きに目を見開いている。

 おそらくはその腕輪で、身分証明の為の「アトマ認証」とやらを行う手筈なのだろうが……


「おい、フェレシーラ……! 黙って聞いてれば、なんだよ、違反行為って!」 


 その場を支配した空気の不穏さ耐えきれず、俺はフェレシーラを問い詰めにかかる。


「ピピー……」


 背中では顔をちょこんと出したホムラが、不安げな鳴き声をあげていた。

 

「駄目なのよ」 

 

 フェレシーラは振り返りもせずに告げてきた。

 

「すぐに契約まで持っていかないと、駄目なの。市民権のなしの申請だと、アトマ認証の登録に早くても一週間は取られてしまうの」


 一週間。

 突然の宣告に戸惑う俺の頭が、なんとかその言葉だけを拾い上げて、噛み砕く。

 

 依頼の受理に、最低でも一週間かかる。

 それは取りも直さず、今回の試みが頓挫することを意味している。

 フェレシーラに向けられた待機要請が、何らかの職務指示へと切り替わるまで、そう時間は残されていないのだ。

 ゆえにこの依頼は、即日登録からの即受注が大前提となっている。

 

「大丈夫よ。違反と言っても、即座に拘束されたりはしないから。まずは管理局に報告が行って、そこから追って調査が入る可能性が出てくるタイプのものだから。それに私、これでも上位クラスで通ってるもの。お金欲しさよりは、早く仕事に取り掛かりたかったからと判断されると思うし」


 そう一息に告げてくると、ようやくフェレシーラはこちらを振り返ってきた。

 言っていることをそのまま受け取れば、危険性はない、ということなのだろう。

 その言葉自体に嘘はないのだろうが……

 

 今しがた耳にした「重複推薦代理行為」とやらに関する知識を、俺は持ち合わせてはいない。

 もちろん、その内容の大凡を察することは出来る。

 

 おそらくそれは、聖伐教団に依頼の推薦を行った当人が、同一の依頼を受注することを禁止する為の規則なのだろう。

 

 己にとって容易く利の得られる内容の仕事を依頼させた上で、それをこなして教団から報酬と実績を得る……

 敢えて聞こえの悪い表現をとってみたが、これは関しては言わば「営業活動」による仕事の獲得と見做されるはずだ。

 現に受付の少女も、フェレシーラが依頼の推薦からの受注まで通しで行うことを察して、手配を進めていた感はある。

 ゆえに、ここまでの行いに問題はないと考えられる。

 

 だが、問題となるのはその後の行為。

 依頼者の身分証明として行われる、「アトマ認証」までをも「推薦者」が行うとなれば……話は変わってしまうのだろう。

 

 それが違反行為として扱われる理由は、色々と細かにあるのだろうが……

 しかし最大の問題が『依頼登録までの大幅な期間短縮』と『手数料の減額』にあるということだけは、容易に推測出来る。

 

 依頼者側は『市民権を保持していないが』『一刻も早い問題の解決』を望んでおり。

 推薦者側が『代理人となり市民権を行使する対価として』『浮いた手数料+αの見返り』を望んだ場合。

 

 これは十分に、聖伐教団に対する背信行為となりうる。

 例え当事者たちにその意図がなかったとしても、決して見過ごすことは出来ない、というわけだ。

 

 勿論、フェレシーラがそんな安っぽいピンハネ行為に手を染めるはずもない。

 それは依頼を受け付けた少女にしても、わかりきっているのだろう。

 だからこそ彼女は、戸惑いながらも警告を発してくれたのだ。


 だが――

 

「……少々、立ち入ったことをお聞きしてもよろしいでしょうか。フェレシーラさま」 

 

 そこまで沈黙を保っていた黒髪の少女が、神妙な面持ちで口を開いてきた。

 それにフェレシーラが頷きを返す。

 直後、少女がチラリと俺に視線を向けてきた。

 

 ……? なんだ、今の意味ありげな眼差し。 

 

「では、失礼をして。そちらの男性の……フラム様は、貴女にとって必要なかた――いえ。信頼出来るかたなのでしょうか」


 グサリ、と。


 その言葉が、胸に突き立てられた気がした。


 同時に冷や汗が背中を伝う。

 口が半開きとなり、意味もなく音を発しようとするのを、俺は必死で押し留める。

 背中でゴソゴソとしている温もりがなければ、たぶん、それすら叶わなかっただろう。

 

 立て続けにやってきたのは、不躾な問いかけをしてきた女への非難の文言。

 やめておけと、俺の中の冷静な部分が咎めの言葉を発してくる。

 だがそんなことは知ったことではない。

 

「な――」 

「ええ。そうよ」 


 堰を切って溢れ出しかけた叫び声は、寸でのところでやわらかな声に押し留められた。

 

 フェレシーラの、声だった。



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