表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ボーイミーツガール & ハイファンタジー!】君を探して 白羽根の聖女と封じの炎  作者: 芋つき蛮族
十三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

493/501

469. 巻き添え、勝鬨を遮り


 最初に瞬いたのは赤い光。

 次にやってきたのは、耳をつんざくような轟音、そして暴風。

 最後に吹き荒れたのは、嵐の如き炎だった。


「ぐ……ッ!」


 ヴォルツクロウの攻撃すらも退けた『爆炎』の簡易結界を突き抜けて、熱波が押し寄せてくる。

 しかしその程度で済んでいるのは、僥倖だといえるだろう。

 本来、広範囲に火砕の衝撃波を振りまく『爆炎』を、精神領域という閉鎖空間にて発露させたのだ。

 

 キューブ状の結界内で連鎖爆発を引き起こし、飽和したエネルギーを一気に解き放つ。

 ルゼアウルが用いた超大型影人ギガントが内包していたものと同じ、無差別攻撃魔術。

 それが『爆炎』の術効だ。


 そんな危険極まりない代物を発動させて尚、こちらに然したるダメージがなかった理由は単純だ。

 炸裂した『爆炎』の力を、我が身同然の黒煙の内にて受け止める羽目になったマヌケのお陰……

 

 つまりはヴォルツクロウ・レプカンティという防波堤が存在していたことで、こちらは実質的な被害を受けずに済んでいた、という次第だった。

 

「――ふぅ」


 火の旋風が過ぎ去ったところで、俺はようやく一息つく。

 師匠であるマルゼス・フレイミングより伝授されながらも、一度も試すことがなかった魔術だけに、ぶっつけ本番で上手く発動にもっていけるかは、半ば賭けに等しかった。

 

 更に言うのであれば、ヴォルツクロウに取り込ませた蒼鉄の短剣を起点として、術を起動できるかどうかも、一か八かでもあった。

 一度は耳木菟の魔人ルゼアウルを相手に『熱線』の遠隔を成功させていたとはいえ、それも黒煙によりアトマの伝達が遮断されていれば、失敗に終わっていただろう。


 もし同じことを二度やれと言われたところで、成功しきる自信はまったくない。

 

 ゼフトからの転換による、膨大なアトマの捻出。

 連鎖爆発の制御と、臨界に至るまでの結界の維持を同時に成立させ得るだけの、超高難度の術法式の構築。

 妨害される可能性も十分にあった、短剣を起点にしての遠隔起動。

 

 博打も博打。

 一歩間違えば至近距離でもろに『爆炎』を浴びて、消し炭と化して吹き飛んでいたこと間違いなしの、自滅もありえた離れ業。

 

 それぐらい、無茶もいいところな一手だったが……

 

「ま、あんたみたいな化け物に勝ち切ろうってのならさ。最低限、これぐらいはやらないとだもんな。なあ、ヴォルツクロウさんよ」


 そう口にして歩を進めると、白の領域の外周たる黒の領域――要は真っ黒なドーム状の壁なわけだが――にて、見覚えのある人型の何かが張り付いていた。

 

 おそらくは回避も防御もままならずに、至近距離で『爆炎』のエネルギーを直に喰らっていたのだろう。

 全身から白煙をあげて壁面にめり込んだそいつは、鴉頭の魔人だった。 

 

 見たところ息はあるようで、死亡にまでは至っていない。

 止めを刺すのであれば、千載一遇のチャンスとみて間違いないだろう。

 あくまでも、この状態が所謂『死んだふり』でなければ、の話だが。

 

「さて。チェックメイトだな」

「く……」


 灰色の地面に転がっていた短剣を手に、俺はヴォルツクロウへと問いかける。

 そうしながらも、蒼鉄の刃にチラリと視線を注ぐ。

 

 正直いって、短剣が無事だったのは意外だった。

 熱エネルギーの投射が負荷の殆どとなる『熱線』はともかくとして、物理的破壊力を伴う『爆炎』の術効にまで耐えきるとは、思ってもみなかったからだ。

 

 無論、フェレシーラより譲り受けていた品を粗末に扱うつもりは毛頭なかったが、それにしてもぶっ飛んだ耐久性だ。

 見えない部分にガタが来ている可能性はあるが、それにしても頑丈にも程がある。

 流石は強度に特化した蒼鉄製、といったところだろうか。

 

 精神領域で再現されたものであれ、強度や特性は外の世界と同等に作用するのは、俺とヴォルツクロウの力関係を見ても明らかだ。

 案外、持ち主の思い入れも関係したりするのかもしれないが……

 何はともあれ、破損せずに済んでホッとした。

 

 そんなことを考えながら短剣の刀身を眺めていると、間近から声がやってきた。

 

「よもや、この様な手でくるとはな……クク。まこと、大それた童よ」

「いやいや……一度やられた手を利用するのは、駆け引きの基本だろ?」

「まあ、な」

 

 呆れたような、それでいて喜んでいるような……

 そんなワケのわからぬ評価に、こちらが相手の落ち度を突いて返すも、続けてやってきたのは弱々しい聞き入れの声。

 

 不意をつかれながらもなんとか耐え抜いたヴォルツクロウだが、さしもの魔人の将も『爆炎』のエネルギーを一身に受けたのは、相当に堪えたらしい。

 演技も何もなく追い込まれているというのであれば、迷う必要はない。

 

「知らない間のこととはいえ、長い付き合いみたいだったしな。名残り惜しさもあるにはあるし、聞きたいことは沢山あったけどさ。悪いが、ここで終わらせてもらう」

「賢明な、判断だ……」


 ここまできて、騙し打ちを警戒して標的を逃すことなどありえない。

 相手は魔人将。

 国一つを滅ぼした異形の化け物、魔人たちの頭目だ。

 

 確実に止めを刺すべく、残る力を最速最大で練り上げる。

 後の事は考えないでいい。

 どう考えても、コイツ以上の災厄はやってくる筈もない。

 この状態、この距離だ。

 

 無様を晒すその首に、鴉頭に渾身の一撃を――

 

「……は?」

 

 喰らわしてやる、と決めたところでそれ(・・)は来た。

 

 ピシリ、ビシリと破綻の音を立てて罅割れるそれは、ヴォルツクロウの体がめり込んでいた壁面、黒の領域。

 

「見事な策。見事な術。見事な一撃だったぞ……フラム・アルバレットよ。クク……」

「な――!?」


 突然のことに思わずその場に立ち尽くすこちらに、片首の魔人がくつくつと嗤う。

 嗤いながら、そいつは己を中心に走り始めた罅割れの中へと、身を沈み込ませていた。

 

「さすがに今のは堪えた。ここまで追い詰められるのは計算外だったぞ?」 

「クソ……ッ!」


 余裕ぶった口振りでお喋りを開始する鴉頭が、どんどんと黒の領域に沈み込んでゆく。

 不味った。

 十分に警戒しているつもりだったが、ここに来て失念してしまっていた。

 

 この精神領域において、黒の領域は元来ヴォルツクロウの支配域。

 そんな場所に相手を叩きつけておいて、追い込んだつもりになっていたのがそもそもの間違いだったのだ。


 おそらくきっと、こちらが仕掛けた『爆炎』に吹き飛ばされ、外壁に叩きつけられた時点で仕込んでいたのだろう。

 鴉頭の周囲に生じた罅は見る間に魔人の体を呑み込み、その姿を包み隠していた。


「クソ、開け! 閉じんな、この!」

 

 急ぎ巨大な亀裂に短剣を叩きつけるも、徒労に終わる。

 一度そこに潜り込みゼフトを奪ったことで、自分の自由になる場所だなどと勘違いしていた、こちらのミスだった。

 

「待て、逃げんな! 散々好き勝手しておいて、トンズラしてんじゃねえッ!」

「それは出来ん相談だ。まあ、そう悔しがるな。私とて想定外の事態だ。もう一度『封じの炎』を仕掛けてくるようであれば、打ち破ってくれようと思っていたが……それどころではないのでな。赦せ」

「赦すか、糞鴉ッ!」


 力任せにゼフトを叩きつけるも、閉じゆく罅を抉じ開けることは敵わない。

 思考を切り替えて、一か八かで黒の領域に体当たりして入り込もうと試みるも、結果は同じ。

 

「クソ……どうする、どうすればいい……!」


 焦り考えていたことがそのまま口を衝いて出てくるが、打開策は見つからない。

 

 このまま黒の領域にヴォルツクロウを逃したらどうなる?

 また体に潜り込まれて手出し出来なくなるのか?

 リソースの奪取が不可能な状態でどう戦えばいい?

 

 一体ここから、どう返せばいい?

 答えは出ず、ただ両手が震えていた。

 

『そう怯えるな』

 

 最悪の未来を想像しかけたところで、『声』がやってきた。

 ヤツの『声』。

 ヴォルツクロウの思念が、何処か遠くから聞こえてきていた。

 

『今回は私の負けだ。口惜しいが、それは認めよう。器の力を操る地力もだが……なにより土壇場での知力胆力、見事なり。敬意を表しておこう』

「……テメェに褒められても、これっぽっちも嬉しくねぇんだよ! 御託はいいから、出てきて勝負しやがれってんだ!」

『そうだな――』

 

 反射的に悪態を飛ばしたところに、やってきたのは思案の声。

 

『善いぞ。此度は存外に愉しめた。褒美を取らす』

「は……?」


 理解不能な『声』が頭の中に響いたと同時に、やってきたのは強い強い、浮上感。

 

「え、な、これって――」


 強烈な既視感デジャヴに抵抗する間もなく、意識が上に上にと持ち上がる。

 ヴォルツクロウの力に拠るものではない。

 それはわかる。

 

 しかしそれが、ヤツの取った行動に起因した事象だということも、わかってしまう。

 

「テメェ……逃げる気か!」

『名答』


 心底愉しげな『声』と共に、浮上する。

 まるで水面に飛び出す、大魚だか浮き輪だかに引き上げられるようにして、意識が浮上を果たし――

 

「ラム――フラムってば! お願いだから、目を覚ましてちょうだい……フラム!」


 気付いたときには、大粒の光をポロポロと降らせてくる亜麻色の滝が目の前にあった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ