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【ボーイミーツガール & ハイファンタジー!】君を探して 白羽根の聖女と封じの炎  作者: 芋つき蛮族
十三章

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461.一方的展開

「……ふむ」


 随分と手狭になっていた真っ白な空間にして、ヴォルツクロウ・レプカンティが呟いていた。

 

「最早抵抗するほどの力は残されていなかったか。口ほどにもない」


 対する者、語りかける者が不在となった『白の精神領域』にて、黒の魔人が呟く。

 そこに主たるフラム・アルバレットの姿はない。

 当然だ。

 それはヴォルツクロウが支配していた、『黒の精神領域』に呑み込まれていたからだ。

 

 白の領域を取り囲む形で形成された黒の領域は、云わばヴォルツクロウの棲家だ。

 兜一つに身を隠したヤドカリ扱いのジングに比べれば、なんとも豪華な住まいといえるのかもしれない。

 

 しかしそんな鴉頭とて、狙っていたのが『白の精神領域』の支配権だとすれば……

 それはある意味、己が下と見るジングに負けていた、と見ることも出来る。

 その事は、ヴォルツクロウとて自覚していたらしい。

 

「しかし、まだ支配出来ぬか。あの紛いモノですら出来ていたことがままならぬとは……不愉快だな」


 落ち着き払った口調ながら呟く魔人将の顔には、明らかな苛立ちの色が浮かんでいた。

 舌打ちと共に、ヴォルツクロウが呟き続ける。

 

 恐らくその発言は、フラム・アルバレットがジングから、二度目となる体の乗っ取りを受けた際の出来事を指していたのだろう。

 

「あれだけ力任せな強奪が成立していながら、こうまで手間をかけても支配不能。こうなってくると、単純に……いや、紛いモノに可能ということは、この場所への慣れの問題か。だとしても、支配の術法式さえ無事であれば手間取らなかったものを……バーゼルめ。この期に及んで逆らうとはな」

 

 白の精神領域の中心に立っての、独白。

 それはヴォルツクロウの癖というよりも、無自覚な不安がそうさせているのだろう。

 

 ようやくその世界に現れることが出来た。

 目的であった肉体の奪取は目前。

 邪魔する者も見当たらない。

 

 問題はない。

 ただ一つ、精神体と化していた己が、どこまで肉体を維持して現世に留まれるのか、という疑念を除き……ヴォルツクロウには、不安はない。

 人の身を真似たような現世での肉体は、どう考えてもヴォルツクロウ元来のものではない。

 

 魔人将を名乗るこの男の生来の姿は、やはり今ここにいる鴉頭のそれなのだ。

 精神領域、魂の棲家たる場所に立つその姿こそ、本来のものに違いない。

 

 そしておそらくだが、この魔人将は既に元の肉体を喪失している。

 レゼノーヴァ公国が発令した第一次魔人聖伐行にて、『煌炎の魔女』に首の一つを叩き落とされた後、残る一首足るヴォルツクロウが健在であったとすれば……

 事態は、この程度では済んでいない筈だ。

 

 もっと強引な手でフラム・アルバレットの肉体を手中に収めた上で、確実に計画とやらの遂行に移ったいただろう。

 ルゼアウルとて、状況も把握出来ぬままに主を探し求める羽目にもならなかっただろう。

 まだ赤子であった肉体にりつくような、脆い器に己の魂を送り込むような真似を、取る必要もなかっただろう。

 

 そう考えれば、ヴォルツクロウがフラム・アルバレットの魂を黒の領域に閉じ込めておき、精神領域から離脱を果たした後に、外界にて肉体を持ち去ることすら、リスキーな行動に思えてくる。

 

 長年、フラム・アルバレットの精神領域に潜伏していた黒の魔人からすれば、己の核としてした場所から魂を切り離すこと自体、どんな結果を招くかは予期しえない。

 もしもそうした実験を繰り返し、実証・先例を得ていたのであれば、とっくの昔にそうした行動に出ているだろう。

 

 だが実際はそうではない。

 白の領域の中心……即ち、フラム・アルバレットがその魂の棲家としていた場所に、唯一人ヴォルツクロウが立っているというのに、肉体の支配権を得た様子はない。

 

「――」

 

 流石にヤツも、このままでは不味いと気付いたのだろう。

 沈黙を保っていたヴォルツクロウが、不意に気を張り始めたのわかった。

 

 それと同時に、黒の領域が蠢きだす。

 未だ領域の外側にあったそれが、じわじわと内側へと……

 即ち、白の領域を侵食し始める。

 

 おそらくはそれが最善手。

 元のまま手に入らないのであれば、塗り潰してしまえばいい。

 黒の領域は自分の意思で操れるのであれば、白の領域のまま奪えずとも、全て呑み込んでしまえばいい。

 

 不安要素があるのならば、それが顕在化する前に叩き潰してしまえばいい。

 己にそれだけの力があるのならば、ゴリ押しだろうとパワープレイだろうと、踏み切ってしまえばいい。

 

 概ねそれは、正解だと言えた。

 

 ただし――

 

「……どういう事だ、これは」

 

 ヤツにその適当極まる力押しで、フラム・アルバレットが長き時をかけて構築した精神領域が……

 ヤツを追い詰めた『煌炎の魔女』の元にて、魔術士となるべくしてこの俺が(・・・・)鍛え上げた、術法論の体現足るこの空間が――

 

「なんの芸もない力押しで、テメェが負けた相手の直弟子をどうにか出来ると思っていたってのなら……アンタも案外大したことはないな。『単頭の魔人将』ヴォルツクロウ・レプカンティ」

「……!」

 

 響く声に、こちらが発したその言葉に、黒の魔人が周囲を見回す。

 大層な御託を並べて力を誇示したところで、その声の主を探すのに慌てて振り返り、鴉の黒目にて辺りを見回さねばならないのだから、大変だ。

 

「どこだ……何処に隠れている、フラム・アルバレット!」

「さてね」


 姿を現せと、までは口にしてこなかったのは、ヤツのプライドの表れなのだろうが……

 生憎、こっちはそんなどうでもいい拘りに付き合ってやる必要はない。

 そんな事よりも、俺にはやるべき行為があった。

 

「しかしまあ……幾ら長い間、身動きどころか頭も使えないまま封印されていた、としてもさ」

 

 それが何かといえば、だ。

 

「こんな若造が作り上げた、クッソつまらない場所の一つも攻め落とせないだなんてな。アンタ、本当に魔人の将軍なのか? 自称とか、思い込みとかじゃなくってさ」


 煽る。

 全力で煽る。

 兎に角、煽る。

 これまでのお返しも兼ねて、丹精込めて煽る。

 

 この一方的に『声』を投げつけていける状況下。

 まずは俺が採るべき選択肢は、これしかありなかった。


「ていうかさ。マジで俺がどこにいるかもわかんねーのか? わざわざこうして『声』まで送り届けてやってるのに? いやまあ、そう言われても難しいか。なにせアンタは、ここで活動するのは初めてなんだもんな」 

 

 繰り返し煽るも、重要なのは『事実でのみ煽る』ということだ。

 ここを間違えると、相手に反撃の切っ掛けを与えてしまう。

 事実のみで攻めてて、決してあることないことを捲し立てたりはしない。

 

 無能だとか、馬鹿だとか、直接的な罵倒の言葉は用いない。

 そんな事をしたところで、理屈の伴わない反論を引き出してしまい、一方的に煽る機を失うだけだ。

 そんな事は、相手に自覚させる方が余程効果的だ。

 揚げ足取りの機会さえ与えない。

 

 まあ、コイツが『先に馬鹿とかいったほうが馬鹿なんだよ! バーカバーカ!』とか言い出してきたら、それはそれで笑えるのも確かだが。

 

「そらそら。はやく俺がどこにいるか見つけないとだぞ? 幾ら経験不足、情報不足でも、魔人将サマならそれぐらい簡単だろ? まさか未だに見当もつかないとか、ないよな?」


 それはともかく、今は煽るのみ、である。

 それを受けたヴォルツクロウはといえば、パッと見、変わった様子を見せてはいないが…… 

 悪いが、「チッ」と音を立ててこっそり舌打ちを飛ばしているのが、ハッキリ丸聞こえである。

 ちなみにこのハッキリというのはヒントでもある。

 

 ……うん。そうだな。

 このままでは、あまりに可哀想だからそれぐらいはいいだろう。

 

「どうやらお困りのようだな、ヴォルツクロウさんよ。もしもヒントが欲しいなら、お願いしてくれば出してやらないでもないぜ?」

「……なんだと?」

「なんだと……? じゃねえだろ。なにこの期に及んでカッコつけてんだよ。そんなことより言ってみろって。あ、ここは是非とも『ヒント! ヒント!』って感じでよろしくな? その方がこっちも気さくに応じられるからよ」

「貴様……」

「お? なんだなんだ? 『貴様……調子に乗るなよ、この下郎が!』とかキメてくるつもりか? きゃーこわーい」

「……!」


 こちらの好意を無下にしてくるヴォルツクロウに、先回りしての煽りまくり。

 

 はい。

 ぶっちゃけボク、いま最高に楽しんでます。

 憎たらしい相手を一方的に嬲りまくるこの展開、正直堪りませんね。

 

 悔しかったら何か上手いことやり返してきてみろってんだ、バーカバーカ!

 


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