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【ボーイミーツガール & ハイファンタジー!】君を探して 白羽根の聖女と封じの炎  作者: 芋つき蛮族
十三章

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458. 唱和する哄笑ども

 精神領域を二分する、白と黒。

 即ち、俺とヴォルツクロウが立つ純白の空間と、その外壁であった筈の闇の曲壁。

 

 そこより伸び迫る影のかいなに、俺はたちまちの内に取り囲まれていた。

 

「んな――ッ!?」


 何の前触れもなく現れた黒い触腕に対して、驚きながらも回避に移る。

 速度そのものは、そこまで速くでもない。

 動きも単調で俺の立つ場所に群がるばかりで、機敏さというものに欠ける。

 

 だがしかし、兎にも角にも数が多い。

 それも全方位からひっきりなしにやってくるので、息をつく暇もないのが実情だ。

 

「くっそ……なんなんだよ、さっきまでは黒い煙ばっか使ってただろ! なんでこんな出鱈目な物量で……くっ、このっ!」

「ふむ。意外に粘るが……その様子だと気付いてはいなかったか」

「なにが、だよ……っと、はっ! ほっ! よっ! ――だあっ! いい加減、しつこいんだよッ!」

「この場所の、所有者の話だ」


 その言葉と共に、闇色の追跡者たちがピタリと動きを止めた。

 明らかに、ヴォルツクロウの意思に基づく反応だ。

 今から話す言葉しっかりと伝えてやる為に、わざわざ控えているというワケだ。

 

 うん。

 やっぱコイツ……

 一々やってくる事が、くっそムカつくな……!


 意図された余裕、押しつけがましいにも程がある温情に、俺は苛立ちも隠せぬまま黒の魔人へと向き直った。

 

「それで? いきなり仕掛けてきておいて、今度は何が言いたいんだよ。この場所の……俺の精神領域が、なんだって?」

「見たまま、在りのまま、ということよ」

「……?」


 訝しむこちらに、この言い様。

 どうやら敢えてこちらに何かを気付かせたい、というご様子だ。

 ムカつきを通り越して覚めゆく思考が自ず、視界の内より情報を漁り始める。

 

 いいだろう。

 そんなに理解を要求してくるというのであれば、当ててやる。

 その上で吠え面を掻かせてやる。

 

 そう心に決めて、断片的な情報、パズルのピースを集め繋ぎにかかってゆく。

 

 精神領域。所有者。

 突如として現れた、影の腕群わんぐん

 白一色の世界に押し寄せてきた、傍若無人なる黒き侵略者ども――

 

「……ああ。そういうことか。なるほど、道理でな」

 

 無意識の内にこぼれたその声を切っ掛けに、俺はボソリと呟き始めていた。

 

「俺が今まで精神領域だと思っていた空間……この白い部分が、こっちの領地だとすれば」

 

 外しようのない仮定を口に、腕を持ち上げ指差しを行う。

 

「その黒い壁に見えていた(・・・・・)部分、すべてが。アンタの領地だったってことか」

「名答。思い込みに囚われていたわりには、中々に切り替えが速かったな。流石は私が見込んだだけはある」

「抜かせ。これ見よがしにキモイ腕伸ばしまくってくれば、どこがどう術の起点になっているかぐらい誰でもわかるだろ。まるでテメェの見る目が良い、みたいに言って酔ってんじゃねえよ」

「ふふ……まこと、ここで消し去るには惜しい若者だ。残念でならぬ」

「消し去るだの、残念だのと決めつけんな。糞鴉」


 満足げに頷きを行ってくる黒の魔人。

 それに対してこちらは、動くことは出来ない。

 

 迂闊に動けば、周囲を取り囲む黒腕がそれを阻みにくる。

 それもおそらく次は、先ほどとは比べ物にならない物量で。

 

 既にヴォルツクロウは答え合わせを終えているのだ。

 これまでお前が自分の領土、所有していると思っていた領域は、この精神領域のほんの一端。

 自分が治め支配する闇の領域には到底及ばぬと、わざわざ俺に気付かせに来ていたのだ。

 

 マジで百辺ブン殴っても飽き足らないレベルで、性格終わってんなこの糞鴉!

 

「どうした? 先程から腰が引けているぞ。この私に勝利して、そのちっぽけな棲家を守るのではなかったのか?」

「うっせぇ! いまテメェのドブみてぇに濁った居場所まで、綺麗さっぱり掃除して叩きだしてやる算段を練ってんだよ! 面白いモンが見えてだなんて言うんなら、そのまま黙って突っ立てろ!」

「それは出来ぬ相談、という奴だな。私を退屈させる者に用はない。幸い、地上には掃いて捨てるほどの人類種ゴミが溢れているのでな。道化の一人や二人、見繕うのにそう苦労はせぬよ」

「ハッ! 偉そうなお題目を掲げていたくせして、それかよ。ルゼアウルのヤツも苦労するぜ。こんなワガママ野郎の面倒をみなくちゃならないなんてな!」

「そうかもしれぬな。しかし何事にも息抜きは必要だろう? 今こうして、貴様と遊んでやっているようにな」

「そうかよ!」


 暖簾に腕押しとばかりに、ああ言えばこう言ってくる侵略者へと、俺は気を吐き思考を回す。


 計画の修正が必要だった。

 

 あちらの思惑通りにこの空間の状況を知ることとなったが、このまま体の支配権を賭けて争っても、不利どころの話では済まないことがわかった。


 当初はこの場に現れたヴォルツクロウを叩けば良い、と考えていたが、どうにもそれだけでは不足なようだ。

 

 周囲を覆う闇がヤツの領地であるということは、下手をすればこのイメージが具現化した世界では、支配域そのものがヴォルツクロウである、という可能性が高い。

 一見隠れようもなく思えるこの場に、ジングがコイツのことを『いた』と形容したのは、ここが絡んでいるのだろう。

 

 ……そう考えると、多分、ジングは俺の精神領域を覗き見るか、もしくは腕輪から自由に行き来することが出来たのかもしれない。

 翔玉石の腕輪を砕いてきたのがヴォルツクロウだとすれば、その際、ここに退避してあの武具の欠片を回収したと考えれば――

 

「ああ、そうだった。こいつだけは聞いておきたかったんだったな! ヴォルツクロウ!」

「む?」


 一度は思考を打ち切り声をあげると、黒の魔人が反応を示してきた。

 いつ再開されるともわからぬ攻撃に警戒しつつ、俺は言葉の後を続けた。

 

「アンタたしか、封印がどうとか言ってたよな! 大方、師匠か誰かがお前をそこ(・・)から出て来れないように施してくれてたんだろうけど! なんでこのタイミングで」

「く」


 当てずっぽうながらも、それなりにいい所を突いていた筈のその問いに、鴉の嘴、その根本が歪んだ。


「く、くく……くくく」

「あ……?」


 人のそれとはかけ離れた動き……魔人が嗤いを堪えるその様に、胸の内側から強い嫌悪感がやってくる。 


「くく……くはは……はーっはっは! そうか! そういう予想になるか! そういう勘違いもあるか! くはははは……はーっ、はっは!」

「なんだテメェ……何がそんなにおかしいんだよ……ッ!」

「いやいや、これは何とも滑稽だな。ああ、そう睨みつけてくるな。別に貴様のことを嘲笑っているわけではない故……いやはや、まあ、そう考えても仕方はないというのに、私としたことが……くく」


 含み笑いを投げ捨てて、馬鹿笑いをし始めたヴォルツクロウに敵意を叩きつけるも、話がとんと噛み合わない。

 そう思っていたところに、人の形を模したヤツの左手の指先が、疵痕を撫でてきた。

 

 疵。

 鴉の貌の左半分に残る、大きな火傷。 


「さて。それでは追加の問題だ。フラム・アルバレット。貴様はこれ(・・)を見て、どう思う?」

「あ……? どう思うって、俺の師匠が……マルゼス・フレイミングにやられた疵だろ」

「そうではない。それは既に話したことだ。私が聞いているのは、どう思うのか……なにか感じるものはないのか、思い出せることはないか、という話だ」

「感じる? 思い出す……?」


 その二つの言葉に、知らずの内に俺は首を捻る。


「なに言ってやがるか、テメェは。そんなの、魔人戦争の時のことに――」


 捻りながらも、答えながらも、記憶の逆行を試みたところに……

 

「あ゛っ、づぅ!?」


 ズキンと、目の奥に鋭い痛みがやってきた。

 

「確かに、これは貴様の師であるあの女に負わされた疵だ。この私ですら、容易に癒すことは叶わぬ『聖伐の勇者』の力により……素晴らしくも呪わしい、神々の力の断片により成されたものだ。しかしな――」


 絶えず、止まず、消えず。

 ひっきりなしにズキズキとやってくるそれには、おれの眼窩を貫くその痛みには、覚えがあった。

 

「私が聞いているのは、そこではない。ヴォルツクロウ・レプカンティが問うておるのは、そうではない。さあ、答えよ。疾く応えよ。我が最高傑作がその片鱗を見せたその時のことを。この疵が我が身に刻まれたその時を……」


 それは俺が、『隠者の森』にてホムラの母であるグリフォンを手にかけた、鳥頭を吹き飛ばした時もの。

 しかし網膜を焼いて頭の奥にズキズキとした痛みを与えてくるそれは、今この瞬間は足掛かりに過ぎず――


「貴様であれば思い出せる筈だ。あの塔での出来事を……我をこの領域に焦がし縫い留めた、『封じの炎』を……此処での出来事を、思い出してみよ。フラム・アルバレットよ。はははははは――」

 

 心底に愉しげに嗤う魔人の声が、奈落の如き記憶の底より響いてきた声との輪唱を果たしていた。

 


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