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【ボーイミーツガール & ハイファンタジー!】君を探して 白羽根の聖女と封じの炎  作者: 芋つき蛮族
十三章

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457. 二人のレプカンティ

 再度の誘い。

 互いの魂が向き合う精神領域にて、威を纏う歩み寄りの言葉が響き、そして消える。

 

「応えよ。フラム・アルバレット」

「……随分と俺の能力を買ってくれているみたいだけどな。返事をする前に、聞いておきたいことがある」

 

 鴉頭の魔人の要求を遮り、俺は反問を行っていた。

 

「バーゼルって男を知っているか?」


 その問いかけに、ヴォルツクロウの頬がぴくりと跳ねる。

 明らかな反応。

 それも根強い警戒心の類からきたものだろう。 

 

「その名をどこで知った」 

「知ったもなにも、ちょっとした知り合いでね」

「言え。詳しく話せ」

「そういうわけにはいかないな。おっと……力づくってのは無しだぜ? 話し合いをしたい、って言い出してきたのはあんたの方なんだ。情報が知りたければ対価は払ってもらおうか」

「む……」


 両手を軽く前に突き出して、今度はこちらが要求を行う。

 黒の魔人が鼻白む。

 

 バーゼル・レプカンティ(・・・・・・)

 嘗て『隠者の森』にて出会い、死の淵にあったホムラと俺を血の契約で結び付けることで救ってみせたその男の名。

 

 ヴォルツクロウと同じその名を、俺はバーゼルの教え子であるセレン・リブルダスタナより伝え聞いていた。

 無論、それだけでは然したる価値もない情報ではあるが…… 


 名前を出しただけで、この反応。

 少なくとも、ヴォルツクロウにとってバーゼルという男の存在が、先ほどまでの微妙過ぎる空気を断ち切ってくれるだけの重みを有していることは確かだった。

 

 ていうかあのおっさん、風体からしてクッソ怪しかったし、契約術とかも独特すぎて何者だよ、とは思っていたけど……

 よりによって魔人将絡みとか、洒落になってなさすぎである。

 こうなってくると、あのタイミングでバーゼルのおっさんが姿を現したのも、十中八九、今回の件が絡んでいると見て間違いないだろう。

 

 にしても、そんな物騒な名前を名乗るとか、あのおっさんも何考えてんだかな。

 下手すりゃ弟子のセレンにも累が及びかねないのに――

 

 と、ダメだダメだ。

 今は一旦、バーゼルのおっさんに関しては、ヴォルツクロウとの対話の材料ぐらいに思っておこう。

 

 そう。

 やるべきことは対話だ。

 間違っても『交渉』や『脅し』ではない。

 そも、この鴉頭にそんな高等な真似は通用しない。

 

 こいつは生まれついての『支配者』側なのだ。

 それも魔人という種の、下手をすれば神話の時代から存在する規格外の化け物。

 いわば、『上位存在』だ。

 

 ここまで交わした言葉のすれ違いよう、ナチュラルもいいところな一方的な要求の数々からして、その背景が透けて見える。

 きっとヴォルツクロウからすれば、この精神領域での俺とのやり取りも、相当な歩み寄りの上で行われている代物だ。

 

 利用出来そうなものは、多少の手間を払ってでも手に入れたい。

 己が評価した者であれば、多少のおいた(・・・)にも目を瞑ってよい。

 自身の力と格に絶対の自信が在るからこその、他者への寛容。

 

 ヴォルツクロウ・レプカンティとは、そういう気質を持つ男だった。

 

「少々、貴様の扱いを考え直さねばならぬようだな」


 その男が、整った眉根を歪ませてきた。

 そうした反応からも、ヤツにとってバーゼルという男が看過できない存在であることが推し量れる。

 

 いやほんと。

 マジでなんなんだよ、あのおっさん。


 あれだけこっちと距離を詰めようとしてきていたヴォルツクロウが、名前を出しただけでこの警戒ぶり。

 正直、やりにくさを覚えていた俺からすれば、期待を上回る効果というか……ここまで毛嫌いされるとか、一体なにをやらかしたのか気になってくるぞ。

 

 しかしまあ、それはともかくとして、ここは引き出せる情報は引き出しておくべきだ。

 こちらが開示出来る情報などたかが知れてはいるが、ないよりはマシである。

 素早く、俺は頭の中でプランを組み立てる。


 大きく見せられそうな情報を幾つかピックアップして、あちらが気軽に切れそうな情報を類推する。


 あまり重要なことを引き出そうと欲張る必要はない。

 それでは更に相手を警戒させてしまいかねず、結果として得るものが少なくなってしまう。

 とにかく、質よりも量を優先して、それを後から繋ぎ合わせてみればいい。

 

「それじゃこっちは、あのおっさんの事を知ってる限り話す。その代わり、先に聞いておきたいことが幾つか」

「断る」

「――へ?」

「あやつが絡んできているのであれば、話はここで終わりだ。迂闊なことを口にして、計画を邪魔されては困るのでな」


 え。

 待って。

 ちょっと待って。

 

「ちょ……なにいきなり、勝手に話を終わらせようとしてんだよ!? あんたが持ちかけてきたんだろ、この話!」

「事情が変わった。赦せとは言わん。こうなった以上、貴様を見逃せば障害となる可能性も出てきた。ここで消えてもらう」

「おま――言ってることが極端すぎるだろ!? まだ色々と聞きたいことが……そ、そうだ! 器がどうとか、完成品だとか、最高傑作とか言ってたよな! そこら辺の話と、俺の親の話!」

「知らん。忘れよ」

「忘れよ、で済むかッ! こんの、糞鴉ッ!」


 話は終わった。

 一歩ずつゆっくりと、しかし着実にこちらに迫り始めたヴォルツクロウの歩みが、それを告げてくる。

 切り替えが早いだとか、身勝手だとか、そんなレベルの話ではない。

 

 口調こそどこぞの物語にでも出て来そうな貴族・王族擬きだが、その実こいつは全く違う。

 こいつはこれでいいのだ。

 格式や形式、約束事やルールなぞ、こいつには不要なのだ。

 これで赦させる(・・・・)のだ。

 

 何故ならこいつは、ヴォルツクロウ・レプカンティは、それだけの力を持っているからだ。

 その気になれば組織や仲間に頼らずとも、個の力で押し通ることが出来るからだ。

 

 だから阿らない。

 だから憚らない。

 だから顧みない。

 

 それを俺は傲慢だとは思わない。

 ただ只管に傍迷惑だと思うだけだ。

 

「さて、ここまでだ。恨むのであれば、あやつの名を口にした己の軽率さを恨め。では、始めるとするか。手駒が増やせぬのは残念だが、邪魔者が増えるよりはいい」

「じょーだん……!」

 

 正に、藪をつついて蛇を出す。

 あちらのペースに持って行かせないために、牽制としてバーゼルの名前を出したことがこの事態を招いてしまったわけだが……

 

 ここはもう、切り替えていくしかない。

 土台どの道、こいつとはやり合うつもりだったのだ。

 情報を得るにしても所詮は相手の気分次第、その真贋を見極める手段もない。

 

 ならば、これでいい。

 今のヴォルツクロウは、初めて焦りらしき反応を見せている。

 それほどまでにバーゼルの存在は、こいつにとって脅威なのだろう。

 

 フェレシーラが交戦を避けようとするほどのアトマもだが、恐らくはバーゼルは『双頭の魔人将』への対抗策・切り札となるものを持っているのだ。

 ヴォルツクロウの動きからして、そう考えるのが妥当だ。

 故にこいつには、バーゼルとの繋がりを見せた俺を、急ぎ始末する必要性が出てきたのだ。

 

 つまりそれは……如何に力の差があろうとも、俺の体の支配権を賭けたこの勝負もまた、やり様によってはひっくり返せる可能性があることを証明している。

 

 となれば――

 

「後はもう、出たとこ勝負ってヤツだな……!」

 

 そう自分に言い聞かせて、ヴォルツクロウとの距離を取りにかかる。

 ドーム状の精神領域の広さは、体感で直径20mほど。

 十分な広さがあるのと同時に、外側を埋め尽くす闇が逃れようのない圧迫感を押し付けてもくる。

 

 その闇が、不意にうねり始める。

 直後、言い様のない怖気が俺の背筋をぞわりと駆け抜けてゆき――

 

「終わりだ」

 

 ボソリと洩らされた黒の魔人の『発動詞』に呼応して、墨を塗りたくったような黒壁より、夥しい数の影腕がこちらへと伸び迫ってきた。

 


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