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【ボーイミーツガール & ハイファンタジー!】君を探して 白羽根の聖女と封じの炎  作者: 芋つき蛮族
十三章

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439. 必須条件

 地にて微かに灯る魔術の明かり――

 

「凍えよ」


 その輝きに向けて、天より青き炎が降り注ぐ。

 呑み込むものすべてを凍てつかせる、極低温の炎。

 

「光よ!」


 矛盾を体現するその炎を、地より放たれた光が吹き散らす。

 極寒の渦を撃ち貫くは、フェレシーラの繰り出した『光弾』だ。

 

「防御行動」

「またそれ……!?」

 

 しかしそれも、宙に揺蕩う『凍炎の魔女』には届かない。

 生み出された氷晶の盾が、迫る『光弾』を難なく弾き散らしていたからだ。 


「ほんと、ひょいひょいと飛びまわってくれちゃって……今日日ワイバーンだって、もう少し落ち着きがあるんじゃない!?」

「第二目標、『フェレシーラ』のA値低下を確認。戦闘モード、攻撃比率上方修正」

「くっ……!」


 地対空の条件下にて、押されているのはフェレシーラの方だった。

 攻防ともに隙がなく、『光弾』による遠距離攻撃術も得意とする彼女だが……

 

 先程から『凍炎の魔女』が身に纏う防御氷術を破ることが出来ず、かと言って得意の接近戦も、常時と言っていいほど相手が飛行し続けている為、本領を発揮出来ずにいる。

 

「飛ぶのも守るのも、延々出来るわけでもないでしょうに……!」


 苦々しげに吐き捨てながらも、攻撃頻度を増した『凍炎の魔女』を睨みつけてフェレシーラが後退する。


 如何な強大なアトマを秘めた相手であれ、それを消費し続けていればいつかは力尽きる。

 その理屈は正しい。

 特に『凍炎の魔女』の動きには、全体的に無駄が多い。

 百戦錬磨の神殿従士であるフェレシーラの洗練された立ち回りと比べれば、素人同然といってよい程だ。

 

 となれば、持久戦になればなるほど、『凍炎の魔女』が不利となる。

 例えフェレシーラが接近戦に持ち込めずとも、相手が先にスタミナ切れを起こす可能性もあるだろう。

 

 だが現実に後退に追い込まれているのはフェレシーラであり、スタミナに関しても同様だ。

 それは何故か。

 答えは簡単だった。

 

「……ッ」


 氷柱を隠れ蓑に凍気の渦より逃れる少女が、一瞬、動きを止める。

 僅かに生まれたその隙に、冷たき焔、凍炎が押し寄せてきた。

 

「しま――」


 立ち並ぶ氷柱にぶつかり吹き荒れたそれが、局所的な乱気流を巻き起こす。

 フェレシーラがあげかけた叫びごと、一帯を呑み込まんとする。

 

 そこに狙いを定めて、俺は地を蹴る足裏にて不可視の力を炸裂させていた。

 

「よっ、とぉ!」

「きゃ!?」 

 

 歪む視界と景色を突き抜けた先に佇んでいた少女が、こちらの腕の中に納まり悲鳴を上げる。

 構わず、俺は彼女をお姫様抱っこの要領で抱き上げて、その場を駆け去ってゆく。

 

「第一目標、『フラム・アルバレット』を視認。標的を切り替え……AZ波形、乱変動。警戒レベル更新――」

「相変わらず、ワケのわかんないこと言ってますね!」

「ちょ……!」 

 

 氷乱の渦を置き去りに、俺は『凍炎の魔女』を見上げる。

 腕の中でフェレシーラが戦鎚ウォーハンマーを握りしめたままジタバタとしているが、それを支える両腕、地を駆ける両脚、共に力に満ち溢れており、どうという事はない。

 

「ちょっとフラム! 貴方、なにしてるのよ!?」

「ん? なにって……ああ。ちょっと試しに、『敏捷強化』と『筋力強化』を重ね掛けしてみたんだよ。咄嗟の思い付き、ぶっつけ本番ってヤツにしては、中々悪くない感じだろ?」

「強化術の重ね掛けって……えぇ……」


 フェレシーラがあらゆる手段を講じて防戦を続けてくれていた、その間。

 俺がやり遂げていたことは、僅か二つ。

 

 一つは『凍炎の魔女』の死角より、フェレシーラと合流する為にひた走ること。

 そしてもう一つは、神術系統の強化術の二重使用により、迫る猛吹雪から二人揃って逃れることだった。

 

「助かったよ、フェレシーラ。お前のお陰でこの通りだ」

「それはこっちの台詞よ。まったく……ようやく姿を見せたかと思えば、とんでもない事してくれちゃって。一瞬、なにが起きたかわかんなかったんですけどー?」

「そりゃ急いで駆けつけたからな。お前がずっと囮役に徹してくれていたからこそ、こうして術法も使えてるんだし。ほんと、ありがとな」

 

 腕の中で呆れたような笑顔で溜息をついてきた少女に、俺は変わらぬ勢いで駆け続けながら、礼の言葉を重ねていた。

 

 フェレシーラが『凍炎の魔女』に追い込まれていた、至極単純な理由。

 それは彼女が、行動不能となった超大型影人ギガントと共にルゼアウル残していた『ゼフトとアトマを転換させる為の術法式を、俺が分析し、我がものとする間……

 

 只管に注意を引き、本来であれば喰らわずとも済む攻撃まで受け続けていたからこそ、彼女は劣勢を強いられていたのだ。 


「ああ、もう。ちょっと疲れちゃったし、このままずっと運んでもらおうかしら……」

「なに冗談言ってるんだよ……って言いたいところだけどさ。この場は一旦俺に任せてくれ。ここまで頑張ってもらった分、お返ししておかないとだからな」

「……うん」


 戦鎚ウォーハンマーに灯された『照明』の明かりを頼りに、原野を駆けて言葉を交わす。

 そうして十分に『凍炎の魔女』から距離を取ると、俺はフェレシーラをそっと地に立たせていた。

 

「その様子だと、『転』術は使いこなせていそうね。聞いたこともない術法式をいきなり分析して、即座に身に付けるだなんて……言い出したのがフラムでなければ、却下していたところよ。幾らなんでも、荒唐無稽すぎる作戦だし」

「う……そこまでだったかな。わりと自分では、成功率は高いと思ってたんだけど」

「そりゃあね。貴方の場合、成功するまで粘りまくるでしょうから。そこは私がなんとか耐えればいいか、って感じだったしー」

「……サーセン」


 正にその通り、といった指摘に謝罪で応じつつも、自由となった両手を握りしめる。

 ゼフトからアトマへの転換。

 修得した術法式の効果によりそれを成したことで、今現在、俺の体には再びアトマが満ちていた。 

 

「でも……そもそもの疑問というか、バタバタすぎて聞き損ねていたのだけど。なんでそんなに大量のゼフトをフラムが使えるのかしら。今まで、まったくそんな気配なかったのよね?」

「だな。まあ、理由はちょっと心当たりが出来ちゃったから(・・・・・・・・)、落ちついたら話すよ。こっちもちょっとお前に聞いておきたいことも出来たしな」

「……そうね。その為にも、まずはここを凌がないとだけど」


 フェレシーラの言葉に、俺は頷く。 

 そうしながらも、視線はこちらに向かって飛来してくる『凍炎の魔女』へと向ける。

 

「ねえ、フラム」

「ん? なんだよ、フェレシーラ」


 背中からやってきた少女の声には、振り返らずに短く答える。 

 するとフェレシーラが、こちらの横に進み出て言葉を続けてきた。 

 

「最初に言ってたけど、話してかけるみるつもりなんでしょ。先ずは1人で戦ってみるだなんて言ってるけど」

「あー……いやまあ、戦いながらだけどな。もしかしたら、誰かにおかしな『制約ギアス』を受けてああなってるとか、妙なトラブルに巻き込まれておかしくなってるのかもだし。ええと……それと、なんていうのか」

「いいのよ。別に理由なんて言わなくったって」

「……ごめん」

「だから気にしない。マルゼス様は、貴方の先生で……母親代わりだったんでしょ? なら、なんとかしたくなるのは当たり前のことよ。そこに至るまで、どんな事情があったにせよね」

 

 さらりと指摘されて、返す言葉が見つからなかった。

 

「いってらっしゃい、フラム。私はサポートに徹するから」

「フェレシーラ……」 

「そんな顔、しない。色々と言いたいこととか、聞きたいこと、あったんでしょ? 正直言って、なにがなんだか良くわからない状態だけど。やるべきことは迷わず、ね」

 

 そう言われて横を見ると、やわらかな笑みを浮かべる少女がいた。

 一体どこまで世話になり続けるのやら、と思いつつも、俺は前を向く。

 

「わかった。行ってくる」


 それだけを告げて、右の手甲に意識を注ぐ。 

 疾く術効を発揮した『探知』の霊銀盤が、巨大なアトマをつぶさに捉える。

 

 夜空に青い星があった。

 それがぐんぐんと高度を下げて、こちらに向かってきている。

 どうやらあちらも、俺の顔を拝みたいらしい。

 

 蒼鉄の短剣を、迷わず鞘から抜き放つ。

 対話を試みるにしても、生半可なやり方で実現できるとは端から思っていない。

 再び術法を使えるよう、アトマを得ること。

 

 それが1対1の戦いに臨む為の、必須条件だった。


 目の前には地面スレスレを漂う『凍炎の魔女』の姿。

 距離は20mほど。まだ仕掛けてはこない。

 気息を整えて、俺は刃を手に構える。


「魔術士、フラム・アルバレットが……今日ここで、貴方に挑みます」


 見覚えのある形の、しかし馴染みのない色彩の瞳がこちらを見据えてきたのと同時に――

 

「勝負です。師匠」


 地上に墜ちた青き星が、微かな笑みを浮かべてきたかのように見えた。

 


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